ポンコツはどっちやねん「ずるない!?恋人は俺やぞ!?」
あ、また始まった。治は疲れた顔で自分の片割れを見た。侑は今、おにぎり宮のカウンター席に腰を掛けている。
最近、北は侑より治とよく会っている。それに対して侑は、嫉妬なんかをしているようだ。
「北さんがお前に惚れたらどないすんねん!?俺らおんなじ顔やで!あ、もううううう!俺も北さんにもっと会いたい!なんでやサム、なんでや!」カウンターを叩きながら侑は続いた。
こんな何回も聞いたくだらない話に付き合いたくなかったが、治は片割れを殴りたくて仕方なかった。でも今はお店にいるので、デコピンでなんとか我慢した。
「このアホ!」
「痛っ!」
「北さんは顔だけが好きなら、最初からお前なんかより俺を選んでたやんけ!」
「サム!」
「お前ら二人の間はもううんざりや。お前が来るとしょうもうないこと好き勝手言うて、北さんとおるとお前の話ばっかすんねん。ほんま勘弁してほしいわ」
と、侑の瞳が一瞬で輝いた。「北さんが?俺の話を?」
治の顔はまだ疲れているままだが、今度は唇に小さな笑みを浮かべた。
「まあ、たまにな」
「たまにだけ?」侑は不服そうにまた口を尖らせ始めた。
治はくすくす笑った。「せや、お前は飯の次だけや。いつも米の話ばっかりするし」
侑は眉間にしわを寄せ、今度は言い返す言葉を見つけられなかった。
「そ、それは...しゃあない...」
「せやから、ぐずぐず文句ばかり言わんでさっさと飯を食え...これ以上恥をかきたないなら」治はニヤリと笑いながら横を見た。兄弟の視線につられて侑もそこに目を向けた。
「角名!?」
「やあ、後で稲荷崎OBのLINEグループに面白いもんを見せられるね」角名はにっこりとして言った。片手で持っているスマホは、双子を録画している。
「な、」
「今日は角名のオフやで」治は侑の言おうとしたことを切った。
「そうやなくて、そ、」
「宮侑。26歳。五輪バレー選手。片割れと恋人である取引先が商売をしていることにヤキモチを焼いている...うん、キャプションはこれでいいかな」角名は独り言をしいてるかのように満足げに言った。
「おい、角名!!」
治は首を横に振りながら笑った。「なさけない奴や。俺の兄弟とは思わへん」
その時はカラン、とベルが鳴ってお店の扉が開き、三人は入口を見た。
「北さん!」現れた人に、侑の心はすぐにときめいた。見えない狐耳が生え、尻尾もぶんぶん振り始めた。
「ん?みんな楽しそうやな」北は後輩の三人を見て微笑んだ。「揃ってええな」
「北さん、お久しぶりです」治はちゃんと挨拶をする。「今日はどないしました?」
「いや、今日は普通に客として食べに来たんや」と北は返事をし、「それに...今日は誰かが来とるの知っとるから」
それを聞いた侑は、期待で顔が綻びた。
「元気にしとるか...角名?」
「はあ!?」侑は裏切られたかのように大声を出した。
続いて三人は、楽しそうに吹き出した。
「元気にしてますよ、北さん!今日は会いに来てくれて嬉しいです!」角名は侑の苦しみを無視してからかった。
「ちょ、俺ここにいますけど!?」侑はまだ立っている北の腰に腕を回し、恋人を自分に引き寄せた。北はされるがまま、金髪の頭に手をやってそして愛おしく撫でた。
「わかっとるけど、角名とはなかなか会われへんやろ」
「でも!」
「あ、そうだそうだ!北さんに見せたいものがあります!」角名はスマホを手にして北に近寄った。
侑は目を見開き、慌てて叫んだ「あかあああああんんんんん!!!!」
おわり
おわり=侑の地獄のはじまりだった