誓うから、なんどでも「信介さんは、俺と結婚したことぉ後悔とかしてません?」
晩ご飯のあと、二人で縁側に座って夏の月を見てるとき。
さっきから侑はなぜか落ち着かない様子で、そわそわしながら俺を見てくるから何のことかと思うて聞き出したらこれか…
「…何そのアホな質問」
「ぐぅっ…」俺のストレートな返事を聞いて侑の眉毛が下がって唇まで尖らせた。「だから言いたなかった…」
「で?」
「ええから答えてー」
今回は子犬のような目で見つめてくるから思わず目をそらしてため息をついてまう。
「お前な… 何考えとるんか知らんけど本当のこと言うてええ?」
「お、お願いします」まっすぐにこっちを向いて正座までした。その真剣な目やめてほしい。
俺もちゃんと答えないと、そう思った。
侑と結婚してから5年も経ったか…
高校で出会うたので俺らの人生の半分以上も知り合うてるってこと。付き合うまで紆余曲折あったが、付き合うてたらそれもそれでまたいろいろ大変やった。二人の生活はだいぶ違うし、そして宮侑選手はある意味で有名人。そもそも性格は真逆やとまわりにもよう言われてた。
でも数年後、結婚の報告をみんなにしたとき、もう誰も驚かんかった。
『やったな!で式いつなん?ハネムーンは?』と素直に喜んでくれる路成。
『北さんが家族になるのんもちろん嬉しいですけど、ほんまにツムなんかでええんですか』と本気で心配する治。
『信介と一生、一緒に、生きる…侑は大丈夫かなぁ』と笑う練。
『北さんは本当に男の趣味が悪いと思うけど、侑もやっぱりドMだね』といじる角名。
『頑張れや侑!でもお前も北さんをあまり困らせんな』と言ういい子の銀。
『もうどっちの方が大変かわからんけど、二人ともおめでとぉ…お幸せになぁ…』と泣き出すアラン。
支えてくれてるみんなにはほんまに感謝してる。
「俺は…」
目の前の侑は固唾を呑んだ。お前、何をそないに緊張するん。思わず笑みをうかべてまう。高校の時こいつの考えてることならだいたいわかると思うてた、いや今でも思うか。「北さんてほんまはエスパーなん⁉」とかこいつにもよう言われてきたし。でも年々侑のことを知れば知るほどわからないことも増えた。思考が単純なのか、あるいはただのアホなのか、侑の行動やその口から出た言葉など、俺を何度も驚かせた。
今みたいに。ときどきめんどくさいけど、ほんまに面白い。あと… おん、まあ、かわええ。
深く息を吸うて俺も正座をする。
その茶色の瞳をまっすぐ見て、結婚した相手、みやあつむ、をちゃんとみつめる。
気がついたら俺の目がもう、ほそまってる。
目尻が自然に下がって、目の前にいる人を見てるだけでなんて幸せなんやろなあってなぜか思う。
ゆっくりまばたきをして目をもう一度開いてみると、俺の表情が、さっきの質問に対する答えを明かしたって侑のわずかな反応からなんとなくわかった。
「侑ともう一度結婚できるなら、俺するわ」
本心や。
「…え?」目をまるくしてる。そんな驚かんでも。
さっきの自分の言葉でちょっと恥ずかしなったから誤魔化すように天井でも見て「あ、来世会うたらまた結婚させてもらおうか…」とかなんとなく言う。
「する!」侑は身を乗り出して大声を出した。「結婚する!来世俺が信介さんを絶対に見つけてもう一度結婚するから覚悟してください!!」
さっきよりも熱心な目つき。拳も強く握ってる。
「ふは… 何それ?」あまりにも必死やから笑い声がこぼれてまう。「俺今プロポーズされたんか脅されたんか、ようわからん」ほんまに面白い。
「お、俺本気やから笑わんといてやー」あ、また唇を突き出しとる。キスしたなるからやめてや。
「すまん、つい」笑いをなんとか抑える。「でも来世か…」
なんとなく言うただけなのに。好きなものに対して一途な侑。来世なんかあるかすらわからへん。でももしあるとしたら、来世でも俺がこんなラッキーでええんやろか。
「…ほな頼むわ」
「ああもうう信介さん好き!」顔がほころんでぎゅっと抱きついてきた。「緊張した俺がアホやった!」
「ほんまや」
「ふふふ~来世の結婚式どないしょ?んん、現世は神前式やったから今度は教会式とかにする?」
「気ぃ早いで」目までキラキラしてる。
「やって信介さんとまた結婚するもん!一応言うけど、俺もアンタと結婚したこと一ミリ、いや一ミクロンも後悔なんかしてへ、」チュ。唇がかさなる音。侑の言葉を口で受けとめた。
「知っとる。ありがと」
「…」
「?…お前、顔真っ赤や」
「き、キス、不意打ちやん!」
「5年も結婚しとるやろ…キスぐらいでまだそんな」
「俺50年後もたぶん変わらへん!」両手で顔を覆って耳まで赤くなってる侑が吐く。
50年後て… 50年後も一緒におってキスとかまだしてるなんて、当たり前のように言う。
『信介さんは、俺と結婚したことぉ後悔とかしてません?』
さっきの言葉がよみがえる。
…ほんまにアホな質問や。後悔?後悔なぁ。
そんなの知らん。お前が好きになった日からしたことないねん。
きっと50年後と、その先も。
侑の手をとって赤に染めてる可愛い顔をのぞきこむ。俺の目尻がまたさがってるとようわかってる。
「侑との来世の結婚式、楽しみにしとるわ」