Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    harukaja15

    @harukaja15

    アイコン:@achumu_miyaさん
    ヘッダー:@RedZeverinさん
    に制作していただいたものです(掲載許可あり)

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😊
    POIPOI 4

    harukaja15

    ☆quiet follow

    眠れない北は侑に電話をかける。長年遠距離恋愛をしている北侑のある夜の話。

    幸せというのはその夜、北は眠れなかった。
    身体を休ませるために、さっきから何度も寝る姿勢を変えていた。けれど心はなぜか落ちつかず、不愉快ななにかに包まれているように感じている。
    また寝返りを打つと、壁にある時計が視界に入り、遅い時間を知らせた。それを見た北は深い溜息をついた。そして諦めたかのように、不本意ながら近くのテーブルに手を伸ばして自分のスマホを取った。

    「北さん?」向こうからの声は疑問文で挨拶をしてきた。
    でもそれを聞いただけで、北の胸はなぜか暖かくなってきた。
    「あつむ…」口から出た返事はたった三文字の言葉。北にとってはそれが、どうしても愛おしかった。
    「どないしました?こんな遅い時間に電話なんて珍しい…なんかありました?」その声には心配が純粋にこもっている。
    「いや、べつに、ただ…」

    さびしい。淋しくてたまらない。心が、そう叫んでいる。
    柄じゃないかもしれない。でもこんな感情を抱くのは決しておかしくはない。何せ二人は、恋人同士なんだから。
    でもお互いの仕事の都合で何年もの間遠距離恋愛をしている二人だ。一緒にいる時間より離れている時間の方が言うまでもなく多いのだ。そんなことに対しては北と侑は慣れている。

    「北さん…」また名前を優しく呼ばれる。できればこれだけでも録音して何回か聞き返したいというアホみたいな発想をした北がいる。
    今日は会うはず、だった。が、侑の方で突然色々起こり、結局今回は北家に帰ることは難しくなった。そして次いつ会えるかまたわからなくなった。

    「…侑の声がききたいと思うて」

    沈黙。向こうからの反応の気配はない。今北に聞こえるのは、ドキドキする自分の心臓の音だけだ。
    しばらくしたら、うめき声のような音が電話越しで聞こえた。

    「きたさ、ちょ、え、そ、な!?あかん!!」どうやら侑の口は言葉の出し方を忘れたようだ。北は侑の顔を見えないが、その恋人は今どれだけ赤くなっているのか、想像できる。北はつい吹き出してしまった。

    「あつむ」北の声はさっきより明るい。
    「俺、いつか北さんに殺されます。そんな爆弾いきなり落とさんといてくださいよ。殺し文句なんかもう、心臓がもたへん!」
    「大げさやねん」北はそう言ったが唇は笑みを浮かべている。残念ながら今それを侑は見られないのだが。
    次の言葉を発する前に侑は自分を落ち着かせるように息を深く吸った。「で?ほんまにそれだけで電話したんですか」
    「おん」確信を持った即答が来た。「眠られへん。侑に、」「ちょお待って!!呼吸させて!」侑は危機を感じたかのように北の言いたいことを止めた。北は黙ったまま、息を何回吸ったり吐いたりする侑を聞くことにした。

    「はいどうぞ」
    「会いたいねん」
    「ああ!」心臓が矢でも射抜かれたかのように侑はまたうめく。「もう泣いてまうやろ」
    「せやから大げさや。そんな大したことない、」
    「大したことでしょう!北さんが、こんな時間にわざわざ電話して、声が聞きたいとか会いたいとか」
    改めて言われればそうかもしれない。とくに「会いたい」というのは、二人があまり口にしないようにしている。会えないことは仕方ないこと。会いたいという願望を言ってしまえば、叶わないという事実がはっきりするだけのようだからだ。

    「俺今あんたをどれだけギュッとしたいのかわかってはります?」
    「…侑」
    「北さん」
    「…おん」
    「俺も、北さんに会いたいです」

    切ない。でも、嬉しい。とっても。この電話の向こう側には、同じ気持ちを持つ最愛の人がいる。この甘い瞬間を存分に味わうかのように北は目を閉じた。今信じられないほど全身があたたかく、なぜ何年経ってもこの想いは変わらないのか不思議に思った。

    「侑、もうこれで眠れると思うわ」まださびしいが、今の気持ちは全部不愉快な気持ちではない。「遅い時間にすまんな。ほんまに声が聞きたかっただけや。お前もはよ寝え」
    「謝らんといてください。眠れない時は、いや、いつでも電話してええですから。北さんからの連絡めっちゃ好きです」
    「わかった。ありがと」
    「またね、北さん」
    「おん。おやすみ、侑」


    * * * * * * * * * * *


    翌朝北は目を覚まし、いつものように朝の儀式をしようとしていたが...家の入り口の前では見慣れた姿が現れた。
    目を見開き、心臓はその光景にバクバクし始めた。

    「侑?何でここに…」

    侑は北に向かって陽気に笑いかけた。それが朝の太陽に負けないほど、眩しかった。
    「いや、べつに、ただ…北さんの顔がみたいと思うて」

    さびしい。淋しくてたまらない。心が、またそう叫んでいる。でも望んでいる人は、もう目の前にいる。声は機械越しではなく直接聞こえる。北が飛び込むのを待っているかのように腕は広がっている。
    「アホ」言いながら飛び込んだ北は侑に強く抱きしめられ、愛につつまれた。

    幸せというのは、目に見えない・耳に聞こえない・手で触れられない、ものらしい。でも北と侑は、そんなことを信じていない。今ここで、みえる。きこえる。さわれる。腕の中に。


    『これは、幸せや』
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💘😭💘🙏🙏👏👏💯💞💞💒❤💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator