「木村さん、私の鞄からタオルを取っていただけませんか?」
「うん、いいよ」
都会特有の狭いファミレスの席で、荷物を預かっていた俺は清澄の鞄に手を伸ばした。
清澄の鞄の中身はよく整理されていて目的の物を見つけ出すのに時間はかからなかった。
だが、見慣れない物が目に入ってしまい、思わず俺はそれを手に取ってしまった。
「これ、眼鏡ケースだよな?清澄、目が悪かったっけ?」
茶色いハードケースに模様が刻印された眼鏡ケース。
俺は一度も清澄が眼鏡を掛けているところは見たことがないし、所持しているところも初めて見た。
清澄は手を伸ばして俺の手元にある眼鏡ケースを受け取った。
「これは最近、お仕事のない日の変装のために入手した眼鏡なのです」
そう言って清澄はケースを開けて眼鏡を取り出した。
オーバル型、というのだろうか。よくファッショングラスで見かける一般的な形だ。
「これで少しはバレなくなるでしょう」
彼は得意気に眼鏡を掛けて見せる。
確かに眼鏡は彼の顔形によく似合っていた。
でも顔が整っていて高身長でスタイルが良くて、普段から和服を着こなしている清澄が眼鏡ひとつで変装になるのだろうか。
ファンの子とかには結構バレちゃってるんじゃないのかな…
そう思いながら、買ったばかりであろう眼鏡を手に上機嫌な彼にそんなことは言えないのであった。
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