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    エアコレさん開催おめでとうございますの展示です。
    スタマイで槙玲さん。お付き合いしてます。

    Xmas to you. ぱたん、とドアが閉まった瞬間だった。
    「……」
    「まき、くん?」
     部屋の中から伝わってくる、一日中人がいなかったことを証明するようなひんやりとした空気。それとは違う種類の冷たさをまとった空気が背後からふわりと包むように揺れる。鼻先に届く、槙くんの匂い。
     包むように回された手は私のお腹の前で重なっていて、とりあえずその手に触れてみる。さっきまでつないでいた手は、内側はあんなにも温かかったのに甲はそうでもない。
    「楽しかったな」
     お昼前から待ち合わせて、デートして。たくさん話して、買い物をしたり、美味しいものを食べたり。
     笑って、とぼけて、つっこんで、拗ねたふりをして。心もお腹も両手もいっぱいになった。
    「うん、楽しかったね」
     靴も脱がずに玄関先でくっついて、小さく笑う。自動的に点いた電気は、そんなことをしているうちに消えてしまって噴き出したら、その動きでまた点いたから今度は大きく笑った。
    「楽しかったんだけど」
    「うん? ――わっ!」
    「こういうこと、外じゃ出来なかったから」
     襟足から肩口に、槙くんの額が押し当てられる。私を抱きしめる腕の力が強くなって、柔らかい髪がふれるのがくすぐったい。少しだけ外の冷たさを残すそれに肩をすくめると、「悪い」のささやきが落ちて、けれど放してはくれなかった。
    「槙くん、ちょっとだけ離してもらってもいい?」
    「やだ」
    (……んっ!)
     可愛すぎか! とのつっこみを心の中だけでして出かけた声を飲み込み、手の甲をぽんぽんと叩く。
    「あのね、逆がいい。槙くんの顔が見たいです」
    「…………」
     返事がないまま拘束が緩む。なんだろう、今日の槙くんすごく可愛い気がする。そんな彼の腕の中でくるりと反転し、似合うなと思った濃緑のニットに頬を押し付けた。
    「私もくっつきたかった、です」
    「なんで敬語」
    「そこはほら、なんとなく?」
     電気は消えて、点いて、また消えて。無駄な仕事させてごめんねと思いながら、もう少しのお付き合いをお願いしたい。
     足元に置かれたたくさんの紙袋は今日の戦利品。抱き着きながらも地味に力を入れている腹筋の下には、食べに食べた美味しいもの。思い返すたくさんの会話は会えなかった間の近況報告や、目に映ったものたちへの感想だったり、これからの約束だったり。
     だけど触れ合えた温もりは、つないだ手だけだったから。
    「俺、欲張りになった」
     何回目かの暗転ののち、槙くんがぽつりとこぼす。
    「泉と恋人同士になって、今日みたいにデートして。楽しかったし、それは本当なんだけど」
    「うん」
    「手をつなぐだけじゃ足りないって何度も思った」
     槙くんの右手が私の後頭部を撫でる。形を、存在を確かめるように。
     何かを返したいのに言葉にならず、吸い込んだ息を固くして吐き出すことしかできない。頭上の電気にもし胸の内側で暴れる心臓がバレていたらきっと、ひどい明滅をしていたと思う。それか、ずっと点きっぱなしになるかのどちらかだ。
    「幸せで、楽しくて、満足だって思うのに、泉に関してはもっとってなる」
    「…………」
    「ふはっ。心臓の音、すごいな」
    「犯人がそれ言うかな」
    「こら、離れるなよ」
     くっついた正面同士でバレた心音が恥ずかしくて開けようとした距離は一瞬で潰される。洋服同士がこすれて香る生地の匂い。そこにまざる槙くん自身の香りがすごく好きだ。
    「そんな意地悪するならファンデーションの刑だからね」
    「どんと来い」
    「溶けたファンデーションの落ちにくさを舐めちゃだめだよ?」
    「それであんたがくっついてくれるなら、安いもんだけど」
    「クッ……!」
     慣れない挑発はあっという間に躱される。くつくつと震える喉仏が憎らしい反面、嬉しいのだから困る。
     ひたり、ひたり。押し付けた頬に触れたニットの奥からじんわりと温もりが伝わってくる。そこから少しずつ響くリズムは私のものより少し遅いくらい。
     ――愛おしい、ってきっと、こういうことだ
     背中に回した腕に力をこめると灯りがまた点いた。顔を上げたらすぐに目が合う。
    「いいと思う」
    「ん?」
    「槙くんは少しくらい……いや、違うな。うんと欲張りでいいんだよ。それくらいできっと丁度いいんだから」
     長い睫毛に縁どられた瞳がてらりと光りながら私を映した。いいんだよ。いいの。いっぱい欲張って、欲しがってほしい。
     細められた目が、いとおしいの気持ちで私を閉じ込める。そんな気持ちだってもう、分かるんだから。
    「いいのか? そんなこと言って」
     腰に回されていた手のひらが意志を持って背骨をなぞる。もう我慢なんてする必要のない、この場所で。
     からかっているような期待しているような、けれどその奥にあるのはただの欲。私に、私だけに向けてくれる特別なもの。
    「どんと来い、だよ」
    「言ったな?」
    「言いましたとも」
     近づいて触れたのは鼻先だった。どっちのが冷たいのか分からないけど、冷たくてあたたかい。
     それからおでこをこすり付けあって笑って、触れるだけのキス。かさついた薄い皮膚の下の柔らかさが好き。
    「じゃあ、あんたの全部頂戴」
    (そんなの、もうとっくにだよ)
     背中に回していた腕を首の後ろへと回しなおす。そのままふわりと身体が浮いて、左足から脱げたヒールがかこんと音を鳴らす。
     そうしてようやく、玄関先の灯りは役目を終えた。




    Fin
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