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    zestfairytale

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    サイト(という名の保管庫)整理につき、過去に書いたZのSS(かなり短い)をこちらに再掲。すこーしだけ加筆修正してます。一応何でも許せる方向け

    或る日の少年達の夜明け――――夢を見た。
    空も、大地も、なにもかもが黒に染まる夢。自分が暮らすこの杜も例外なく、その色に塗り潰される。勢いを止めることなく、全てを塗り潰す。いつも見る、緑と青の鮮やかさが映える風景だけじゃない、自分を見守ってくれている者達、育ての親たる長老、そしてかけがえのない友人ですらも、その黒は容赦なく飲み込んでいく。彼等の表情も読めぬまま、助けようと伸ばした手はむなしく空を切って、何一つ掴めはしない。そうして、視界の全ては黒に染まる。上も下も右も左も分からない。叫んだ声は響くことなく無音と化す。次第に意識は薄れ、沈みゆく。
    ――何ができる?どうすればいい?
    ――何もできない。どうすることもできない。
    僅かな抗いから生まれる問いと答えが、繰り返し脳裏を行き交う。
    そうするうちに自分の全てが、何もかも分からなくなって――――そうして、オレは目を覚ました。

    ――――悪夢。
    例えるならそれが一番正しいだろう夢を、前にも一度見たことがあった。しかも決まって同じ夢。何かの未来を暗示しているのか、はたまた自分も気付けない、心の奥の意識がそれを見せているのかは分からなかった。
    ただひとつ言えるのは、それがとても恐ろしく感じるということだけ。
    そんな恐ろしさから無理矢理抜け出すように、少しばかり早い朝の目覚めを――夜明けの光がまだまともに見えない、夜と朝の狭間の中で目覚めを迎える。
    そして、そういった時は必ず家からそっと抜け出して、外で夜明けの空を見るのが決まりになっていた。
    何故わざわざ外に出るのか、とか、そういったことは自分でもよく分からなかった。ただ、己の本能とでも呼ぶべき何かがもう一度夜が明けるまで寝床に就くのを拒んでいるような、そんな気がする。
    外は当然ながらまだ誰もいない。皆、家の中で眠りの中にいる最中だろう。今いるのは、自分ただ一人だけ。
    静かに大地に腰を下ろして座り込み、膝を抱えて遠く暗い空を見つめる。ほんの少しだけ、先程よりは空の端が明るみ始めたような――いや、まだそうでもないだろうか、よく分からなかった。
    夢にうなされ、少し汗ばんだ肌を、冷たさを含んだ風が静かに撫でてゆく。
    ――時々思う。
    この杜から見える夜明けも、夜明けの空の光に照らされたこの杜の風景も、これから先変わることなく続いていくのだろうか、と。本当に何ひとつ変わらずに永遠なままなのだろうか、と。
    当然、そうであって欲しい。だって、自分を取り巻くこの風景も、人々も皆全て、唯一無二と信じて疑わない大切なものだから。
    でもいつか、いつの日かそうじゃなくなる日が来るのではないか。そんな思いに駆られる。
    もし、そんな日が来たら、自分には何ができるのだろう。夢のように何もできないままになってしまうのだろうか。
    手に力が入る。顔を膝に埋め、頭の中で同じ疑問が繰り返し巡る。
    ――答えは出ない。そうしているうちに、時間は静かに、しかし止まることなく通り過ぎていく。
    ふと空を再び見やると、空の端が徐々に白んでいるのが分かった。夜明けが近い。
    と、背後に草を踏む音が響く。振り向けばそこには、大切な、共に育ってきた唯一無二の友人の姿があった。
    「……ミクリオ。もう、目が覚めたのか?」
    「……まあね。スレイ、君こそ僕より随分早い目覚めじゃないか」
    「はは、まあ……な」
    「……何かあったのかい?」
    「あー…、うん。ちょっと、夢を見ちゃってさ」
    オレがそう言うと、彼は――ミクリオは、何かを察したような表情をして、特に何を言うでもなく、そっと傍らに座った。
    ミクリオには前に、その夢の話をしたことがあった。何事も、包み隠さず話す――それが、オレ達の暗黙の約束だからだ。
    物覚えのいい彼のことだ、当然その話も覚えていたのだろう。
    そんな彼の気遣いには、毎度のことながら感心する。心を傷つけないように、あれこれ掘り返そうとしない、その気遣いに。
    「……なあ、ミクリオ」
    「なんだい?」
    「もしも――あくまでもしもの話なんだけどさ、こんな平和な毎日がある日突然終わったら、オレ……何ができるのかな」
    消え入るかのように弱くなる自分の声。自分でも少し驚く。思ったより、出来れば残って欲しくない夢の余韻が、体を支配していたようだった。
    「……前にも同じようなこと言っていたね、君は」
    「そう、だったっけ」
    「そうだったよ」
    「……細かく、覚えてるんだな」
    「君が忘れっぽいんだろう?」
    「……細かいな」
    「……二度も言うのか」
    「いいだろ、別に」
    「まあ、別に構わないさ。褒め言葉として受け取っておく」
    そんな会話をしているうちに、自然と顔が緩んでいく。余韻の支配は、すでに無くなっていた。
    「……前に、君にそう聞かれた時は、何も答えられなかった。――想像したことなんて無かったから、そんな事」
    彼はそう言葉を紡ぎながら、目線を自分と同じように空へと向ける。
    「あれから僕も、少し考えてみたんだ。でも、なかなかはっきりと答えが出せなかった。迷路の中を延々と彷徨うような感じだったよ。――――だけど、最近になって、ようやく答えが出せたんだ」
    そう言って彼は、視線を空から自分へと、オレにへと移す。
    空は、次第に明るさを増していた。
    「もしも、そんな時が来たら、その時は――――自分に出来る事を、ただやるだけだってね」
    その言葉にタイミングを合わせたように、空の端から太陽が顔を覗かせる。雲も、空も、そして、自分達すらも明るく照らしていく。
    「何も出来ない、なんてことは有り得ないさ。きっと必ず、何か出来る事がある。――――僕達には、きっと」
    力強い、友人の言葉。その言葉に希望が見えた。迷いは、もうとっくに消え去っていた。
    「……そうだな。うん、きっとあるよな」
    空を見れば、そこにあるのは新しい朝の光。新しい日々の始まり。終わることのない、世界の始まり。光はそれを高らかに告げていた。
    「少しは元気になったかい?」
    「――ああ!もう平気!」
    オレがそう答えると、彼はふっ、笑みを浮かべる。それに釣られて、自分の顔にも笑みが浮かんだ。

    ――――不安も迷いも消し去った光の中で、今日もまた、一日が始まる。
    そしてこの時を最後に、オレがあの夢を見ることは、もう無かった。


    未来の先に待ち構えるその運命を、彼等はまだ知らない。
    それでもきっと、彼等は進む。その先に光が、希望があることを信じて。
    ――――その運命の始まりまで、あと、少し。
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