謎の幸せ時空でデートする勇者と村人前日、イロアスは少し浮ついていた。色白の肌は平生より血色が良く、はにかみと期待を押しつぶす大人しげな表情をしていたもののその瞳は明るく、何より幼馴染に掛けた声色はいつもより甘かった。
しかし何事も上手くいくようには出来ていない。不幸な境遇と釣り合いを持たせるかのように恵まれた才能、世間の評判が変わるにつれてできる幼馴染との距離。目まぐるしい極彩色に咲き誇る彼の人生はいつもイロアスを失意のどん底に突き落とす。
「スレイヴ、明日は予定を空けておいてくれ」
「駄目だ、用事がある」
「……何の用事があるんだ?」
表情が若干強張るのを感じながら、努めて冷静に言葉を返した。
何事にも優先順位がある。スレイヴはそれを間違えてはいけない。己よりパーティーを、イロアスを優先させなければならない。それがスレイヴに求められているものだから。その献身が彼に居場所を与えている。
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