「礼ならベッドの上で聞いてやる」ぐぎゅう、と可愛らしさより成長期の子どもらしさが勝る音を立てた腹を抱え、スレイヴは部屋を出た。時刻は深夜。先ほどまで彼を抱き潰していた男は、真夏の夜には少々不快に思わせる温もりをシーツに残して消えている。
意識が落ちる寸前「動いたら腹が空いたな」と呟くのを聞いた。ほとんど思考の働かなくなった頭の中でそれに同意したのを覚えている。
一応深夜であることを気遣い足音を消して階段を降りると、目的地である台所から僅かに明かりが漏れているのに気づいた。この廃墟の中にいるのは自分か仲間の誰かで、そのうち台所に立つ物好きは限られている。手元しか見えないほどの微かな明かりの中で何をしているのか知らないが、大方自分の目的と相違ないだろう。
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