ちっぽけな夜に 風呂が壊れた、と絶望の声音で一松が言った。
「え……本当か?」
今日は残業で遅くなったので、熱い湯に浸かりたいと思っていたのに。湯に浸かってから一緒にビールを飲もうと思って、コンビニで買ってきたというのに。
「ほんとに? 本当にか? 一松、そんな悲劇があっていいのか?」
「めんどくせえ嘘つかねえよ。おれは近くの銭湯行くけど、お前は?」
「……行く」
カラ松がそう言うことはわかっていたのだろう。一松の手にはすでに銭湯セットがふたり分用意されていて、そのうちのひとつを渡された。
銭湯に行くのはひさしぶりだ。若い頃……二十年ほど前には兄弟六人で通っていた銭湯があったのだが、ふたり暮らしになってからは家のシャワーで済ませることが多かった。家風呂があるのに八人家族のうちの六人を毎日銭湯に行かせるのはどちらが経済的だったのだろうな、と時々考える。
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