メランコリックの棺はじめは最近具合が悪い。
疲れが取れなくて、身体が重い。いつも眠いし、時折知らない怪我を負っている。
「いったいどうしたんだろう」
久しぶりに兄弟で集まった時に相談すると、唐次が「それならせっかく広い土地があるんだ、散歩とかしてみるか?」と提案する。
取材だのなんだのと口実がなくても唐次と共に歩き、彼と他愛無い話をのんびりとするのは楽しくて続ける。日によっては他の兄弟と歩く時もあり、満足していた。
だが、はじめの疲れは取れない。重い頭と身体を持て余し始めた頃、百々史が迷いながらといった様子で切り出した。
「あのさ、すごく言いにくいんだけど……。はじめさん、気づいてないの?」
(唐次視点)
「お前、いつ言い出すの?」
ビールを飲みながら大蔵が突然問いかけた。横にいた丁呂介がぎょっとする。
「…… はじめのことか?」
「あのままだと身体壊しちゃうよぉ、どっかで区切りつけてやんないと」
その大蔵の言葉に、唐次は夜を待つ。
はじめは庭にいた。
月の下、おとうさん、おとうさん、と呼んでいる。
もう帰らない人を探して求めている。
今夜は特に酷い。この数日、兄弟たちといたことで家族への思慕が余計に募るのだろう。
はじめはこのことを一晩経つと覚えていない。
これまでは腫れ物のように触れず、彼がどこにも行かないように見守ってきたが、今夜は唐次ははじめに近づき、「もう帰らないよ」と優しく言った。
嘘だ、嘘だと泣くはじめ。やがてその呼び名は唐次のものになった。どうせいなくなってしまう、嘘つきだから、と。
驚いた唐次だったが、はじめを抱きしめて指切りをする。
「どこにも行かない。ずっとそばにいる。指切りだ。約束を破ったら、殺してもいい」
泣いていたはじめが、こどものように顔を輝かせた。
それから、約束だと大人の微笑を見せる。そして安心したように眠りについた。
翌日、朝食の席で唐次は「一緒に暮らさないか、はじめ」と唐突に尋ねた。
ひさしぶりにすっきりした様子のはじめは、ぽかんとして、それから耳まで真っ赤になった。