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    kuzunoyama

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    kuzunoyama

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    頼まれて書いてたベク遊
    多分最後まで書きません。

    モブを殺す真月の話べくゆ

    「どうする?」
    遊馬は大きな目を一度ゆっくり閉じてから、下瞼をひくひく震わせた。さあ、なんて言う? なんて言う? 待ち遠しくて、胸の中がざわざわ沸き立つ。終わらせたかったし、少しだけ期待していた。遊馬がそういう俺をつくったのだ。
    雨上がりの路地裏の空気は、水分を纏って静止していた。

    ぼんやりしていて、近くに来るまで気がつかなかった。普通の人間の身体というのは不便なもので、どんなに怠惰に過ごしても腹は減る。ぶらぶら散歩がてら普段入らないスーパーなんて入ってしまったものだから、普段起こらないことが起きた。
    「あら」
    女は目を細めて、男に絡めていた腕を解きその手を自分の頬に当てた。
    「……」
    げ、と言いかけたが呑み込む。何故ならその振る舞いは体力を消費するからだ。腹が減っている。
    「待てよ」
    回れ右でスーパーを出ようとしたら硬い声が矢のように飛んできた。素直に振り返ってしまい、極力見ないようにしていた男の顔が視界の真ん中に入る。腹も減るし、不快なもん見るし。最悪だ。俺が何したってんだ。したけど。数え切れないほど、したけど。
    「随分お暇そうですのね。制服は無くしてしまったのかしら?」
    メラグは相変わらずの癪に触る猫撫で声で髪を耳にかけた。こういう言い方をするこの女が昔から嫌いだった。
    「学校来い」
    ハァ、とため息をついたあと、ナッシュはポケットから手を出してそう言った。こういう直接的な言い方をするこの男はもっと嫌いだ。
    「……バカ。そんな言い方して来るわけないでしょ」
    小声で言っているが聞こえている。この女のことだから俺に聞こえていることも織り込み済みだろう。
    「お前の言い方もよっぽどだろうが」
    ナッシュに至っては普通の声量だ。どうでも良すぎて、言い返すどころかそちらに意識を向ける気にもならなかった。腹が減ってんだよこっちは。
    適当なリズムで生きてたら、学校にだんだん行かなくなった。メラグの言う通り、制服はどっか行った。探せばあるのかもしれないけど。けど。
    目の前の二人を無視して、入り口近くに貼ってあるチラシを眺める。家、のつもりで用意した部屋には相変わらず何もないし、カップ麺でいいか。メラグはキっと眉を釣り上げて俺の方を見た。痴話喧嘩のテンションをこっちに持ち込むんじゃねえよ。
    「遊馬が」
    突然現れた第三者の名前にナッシュの眉がぴくりと動いた。見てないけど多分そうなんだろ。チラシに向けていた目を閉じて、身体ごとゆっくりメラグの方を向いてから開く。遊馬がなんだよ。
    その態度に気を良くしたのか、メラグは目を細めて頷いた。その表情もすぐに苦笑に変わる。
    「遊馬が心配してたわ」
    はぁ、とナッシュのデカいため息が耳に刺さる。同じ場所に足を置いておくのに疲れてしまって、大股で二人の横を通り過ぎてやった。自動ドアが開くたびに寒くてやってらんなかったからだ。寒いし腹減るし退屈だし、人間ってのはこんなにも不便だったろうか。余計なことしやがって。
    でも、こんなに毎日やるせなくて退屈なのは、俺が人間になったからじゃない。

    「あれっ真月!おはよ」
    同じクラスの男。
    「真月じゃん!久しぶり」
    同じクラスの男。
    「おはよう、真月くん」
    同じクラスの女。
    「真月くん!?」
    同じクラスの女。観月小鳥。
    制服は思ったより簡単に見つかった。「近道」じゃない普通の通学路を歩いて、HRの二十分前には教室に着いた。席替えはしてない。自分の席より入り浸っていた机を見ると、もういた。
    「遊馬」
    今日初めて発した言葉だったが、声は低くも掠れてもいなかった。
    「ぅおわっ」
    薄い背中がゴムみたいに跳ねる。そのままぐわんと振り向いた顔にくっついたビー玉みたいな目が、一層まんまるに光った。
    「真月!?」
    真月。真月だって。笑える。思っただけで口角はピクリとも動かなかった。
    「……」
    黙って遊馬を見下ろす。
    「……」
    遊馬はきょとんと目を丸くしたまま、俺を見上げた。なんだ、心配してたんじゃねえのかよ。
    「帰る」
    鞄を肩にかけ直してそっぽを向いたら、後ろからぐんと引っ張られた。
    「なんでだよ!? せっかく来たんだろ!? 進級できなくなるぞ!」
    遊馬が鞄の紐を掴んでいるらしい。買い直すのも馬鹿らしくて、真月零のときに使っていた鞄をそのまま持ってきている。中には何も入っていないけど。
    「……」
    必死になって振り返るのも癪だ。たとえば俺がまともに挨拶を返したいと思うのが遊馬だけでも、遊馬は誰にだって挨拶する。誰にだって「学校来い」と駄々こねるし、誰が「一緒に死んでくれ」と頼んでも「いいぜ」と言うだろう。
    「せっかく、また……みんなで学校通えるようになったのに」
    遊馬らしくない、しょぼくれた声だ。でも、こういう風に言葉に迷うことがある奴だということは知ってしまっていて。
    「……進級するために来たんだよ。来週からテストだろ」
    振り返って、しょぼくれた顔を見下ろしてやる。想像より強い力で鞄の紐を握られていたので無理やり引き剥がした。
    「えっ」
    遊馬らしい間抜けな声。
    「来週テストだろ」
    念を押すように顔を近づけると遊馬は身体を捩った
    「あ〜……」
    俺が気まぐれで登校してなかったら、遊馬も俺と揃って進級できなかったかもしれない。それを想像して少しだけ気分が上を向いた。どうせ遊馬の周りには遊馬を放っておかない大層な奴らで溢れているので、想像だけだ。

    屋上で弁当を広げた遊馬が初めて食べたみたいに「うまいうまい」と騒ぐものだから、邪魔するように無理やり肩を組んでやった。
    「いやぁ、遊馬くんがボクに会いたくて会いたくて毎日泣いてるって聞いたからさぁ〜」
    前世が酷かった分今に持ち越されているのか、今日は運が良かった。なんたらくんもなんたらちゃんも委員会だの別の約束だので、珍しく遊馬の周りに人が居なかった。昼休みなのに。
    「なんだそれ!泣いてねー!どこから聞いたんだよ!」
    口に詰め込まれた食い物をごっくんと大袈裟に飲み込んでから、遊馬は肘で小突いて俺の身体を遠ざけた。
    「町中その話題で持ちきりだよ」
    「んなわけねーだろ!ばか!」

    残念ながら、人間は腹が減る。購買で適当に買ったパンはまずかったので二口で止めた
    「あっ俺のウインナー!」
    「お前、明日も来るだろ?普段はもっと大勢なんだぜ」
    「ふーん」

    「遊馬くん」
    「……大丈夫」
    ああ、やっちまった
    「は、はぁ、はぁっ」
    「そ、の人、死んでんの」
    「わかんね」
    死んでる
    「なんでだよ、殺すことないだろ」
    「あるだろ」
    「あるに決まってんだろ」
    「……そんな奴」
    「お前が、人殺しちゃったら。学校どうすんだよ」
    「……」
    お前の相棒みたいに全部なかったことなんてできないし、誰かさんみたいに良いタイミングで駆けつけて平和的に解決もできねえぞ。
    遊馬が勝手に見つけて名前をつけた奴は、俺の中で肩身を狭そうにしながらもたしかにそこにいた。そいつとの付き合い方を図りかねている。遊馬は違うと言い切ったが、どう考えても俺の真ん中はそいつじゃない。
    「俺は行きたいよ、学校」
    本当はクラスメイトの名前を覚えている。それは俺の記憶力が良いからであって、真月零だからじゃない。残念ながら。
    「どうする?」
    「あ、あ……ありがとな」
    「へ、ビビった、かなり……こえ〜」
    「遊馬クンってさぁ……」
    「いや、いいや」
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