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    ariabeta0024

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    死に損なったジェルド×ミカヤのお話。相変わらず妄想強めです。

    デインの解放を遂げたデイン軍は大いに盛り上がっていた。
    デイン解放の宣言、ミカヤが爵位を受ける為の式典などの祝い事が盛沢山…といった所だが、肝心の祝い事を行う場であるデイン城は駐屯軍の兵士達の亡骸が無転がり荒れ果てたままである。

    まずは彼らを弔い葬るべく、軍内では着々と準備が進められていた。
    慈悲や情というものは、戦闘中では高揚感や緊張感などの影響もあって薄れがちだ。
    しかし戦いが終わり亡骸となった彼らの姿を改めて見ていると、酷く痛々しい傷跡が残っており、薄く開いたままの目はどんよりとして、現世ではない何処か見知らぬ遠くの世界を見つめているようだ。
    こうした姿を目の当たりにすると死というものを痛感し、憎き敵であったにも関わらず心が痛むものだ。
    戦慣れした兵士らであろうともどこかもどかしく、なかなか慣れるものではない。

    確認するまでもなく全ての敵兵は亡骸となっている筈だが、慈悲深き乙女である暁の巫女・ミカヤは、それでも懸命に彼らの息を確認した。
    普通なら敵兵を弔う事もしないのだが、これも慈悲深き乙女の発案なのだろう。
    駐屯軍に散々悲惨な目に合わされてきたデイン兵達だが、我々の希望であり光となって導いてくれた暁の巫女殿の申し出ならば…と、皆快く皆賛同してくれた。

    -------

    ミカヤはとある男の前でしゃがみ込み、その顔を覗きこんだ。
    男の名はジェルド。敗戦国デインの国民を奴隷のように扱い痛めつけてきた、ベグニオン駐屯軍の大将である。

    「貴方はデイン国民を酷い目に合わせてきた。私は貴方に同情はしない…。
    だけど、貴方の上官であるヌミダ公爵はここにはいなかった。貴方は彼に見捨てられたのかしら…」

    ついこの間までデインに苛烈な支配を敷き猛威を振るってきた彼だが、今となっては瞼も動く様子はなく、返事もない。ぐったりと座り込み壁に寄りかかっている。
    ミカヤにとって、自分たちと死闘を繰り広げてきた男の顔をまじまじと見るのは初めてだった。
    吊り上がった眉としっかりとした鼻筋が通った面立ちは非常に男性らしく、軍人らしいがっしりとした体つきだ。撫でつけた髪型は、死闘を経て乱れている。
    しっかりと顔を合わせるのが亡骸となった後とは皮肉な事だ。今まで、どんな面立ちをした者なのかさえもよく分らぬのだ。
    今思えば、彼については分からない事ばかりだ。

    彼としっかり言葉を交わすことが出来たら分かり合えたのかもしれない。私が直に帝国と掛け合う事で、敵味方共に血を流さず、デインを救う最善の方法があったのではないか?……。
    意を決してこの戦に挑んだつもりではあるものの、改めて敵将の亡骸を見つめると色々と考えてしまう。
    王子と、そしてみんなと共に解放軍を導いてきた私がこんなことではいけないわ…と、ミカヤは「ふうっ」と深いため息をついた。

    気持ちを切り替えてジェルドの生死を確かめようと、更に顔を近くへ寄せた。
    「……っ?!」
    思わぬ出来事に、ミカヤの胸はドクンと高鳴った。
    信じられないことに、彼はかすかに息をしていた。今にも消えそうなほどの呼吸だ。
    ミカヤは何度も自分の耳を疑ったが、何度確認しても彼は息をしている。
    意識は無く、出血も酷い。何も処置をしなかったら、彼はこのまま息を引き取るのは確実だ。
    何らかの処置を施したとしても、死に至る可能性は高い。

    彼が敵では無かったら、ミカヤは間違いなく手を施しただろう。だが相手は敵どころか、駐屯軍を率いていた将軍だ。
    彼は散々デイン国民を痛めつけてきた男。死んで当然…当然の報いなのだ。
    万が一、手を施したとしても恐らくすぐに息を引き取る。ならばわが軍の兵士達を一人でも多く手を施してあげた方が為になるのではないか。

    …だが、彼をこのまま見殺しに出来るのか?今、懸命に息をしている者が目の前に存在するのに、何も手を施さないというのか?
    今の彼には味方は無く、帰る国もない。武器も持つことが出来ないどころか、立ち上がる事すら出来ない。
    何の力も残されていない彼の存在は、今やデインにとって敵ではない。
    「敵の将である前に、彼は一人の人間。生きてこそ意味があり、罪も償える…。」

    周りを見渡すと、亡骸を片付けるのに皆手いっぱいだ。誰もこちらに目をやる暇はなさそうだ。
    (今しかない…)
    ミカヤは兵を一人呼び出し、城の裏側であまり人気のない場所へジェルドを運ぶよう言い伝えた。
    「は、了解しました。駐屯軍兵の亡骸は別の場所に集めておりますが…そちらで宜しいんですか?」
    「ええ。あそこは人気が無くて静かな場所。彼の腹心の部下がそこへ埋葬されているんじゃないかと思って。
     せめて、彼の近くで眠らせてあげようかと思って。」

    ジェルドを抱えた兵とミカヤは城の裏側へと急いだ。
    ミカヤは「どうか生きていて……」と心の底から願った。
    ついこの間まで死闘を繰り広げた敵の将へ。
    祖国を愛し、揺るぎない誇り高き意志を持った軍人へ。
    今や帰る場所も味方も残されていない、哀れな一人の男へ…と。
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