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    あわ…

    @awa_i7

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    あわ…

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    🌹🪓ユキモモ

    ⚠ユキモブ描写あり
    👿さんが人間を餌としてみており倫理観がおかしいかもしれません
    何でも許してください

    この子、食べてみたいな ああそうか、僕は空腹だったのか。

     そう気づいたときには満たされていた。僕の腕の中に人間がいて、食事の後だったからだ。
     しかし不思議な味だった。果実のような味がした。ベリー系の甘酸っぱくてさっぱりとした感じ。
     こんなに甘い血をもつ人間もいるんだ。これならば何度でも食べてみたい。いっそこのまま全部喰らってやるのもありかな。もうこんな味の人間に会えると思えないし。

    「う……うぅ」

     やせぎすの体、薄い肌、少年だと思ったんだ。

    ***

     本当に仮面舞踏会なんてあるんだ、くだらない。

     夜、秘匿性、一夜だけの関係。まあ、悪魔も人間も変わらない欲が渦巻く空間だからそういうもんか。

     男の僕が壁の花になってワイングラスを傾けているのはマナーとして良くないことらしく、ドレスも着てないのに臭い男が声を掛けてくることもある。遠くから見れば髪の長い細身の僕が、男装の女に見えなくもないのか。それともそういう趣向の人間かもしれないし、もしかしたら同族なのかもな。

    「悪いけど、興味ない」

     派手な羽根飾りの仮面の下から睨みを効かせれば、目から光を失って僕の存在を忘れてくれる。悪魔って便利だ。多分何か魔力的なやつでどうにかできてるっぽい。自分では良く分かってないけど、興味ないし。それにしても目立たないように地味な服にしたし、僕の仮装はメスを求める“紳士”タイプのものの筈なんだけどなんで男が声を掛けてくるんだ。

     フロアの灯りは黄色みがかっていて、けぶる煙草ときつい草の香りは都合が良く、人目を引くらしい僕の髪色もプラチナではなくブロンドに錯覚させられるようだ。ごちゃごちゃした仮面は顔の造形も曖昧にしてくれる。それでも近づいてくる獲物がいるので仕方なく吟味する。

     血を吸うことは好きじゃないが、人間の生態は不可解で、自ら血液も身体も差し出してくる。この騒がしい場所は好きではないが極稀に気持ちの良い音楽が流れることと、人間以外の存在に会えることがあるので暇潰しにはいい。それから━━。

    「貴方、とっても素敵ね。仮面では隠しきれない魅力がある。ねぇ、二人きりになりたいわ……」
    「……薔薇の香りがする」
    「うふふ、わたしが調香したの」
    「へえ」

     胸元を強調したドレス。
     蒼く血管が浮かぶ豊満なふくらみ。
     体温でのぼる香りは僕の好きな庭園に似ていて、歌うような声は透き通るソプラノで耳障りにもならない。この肌なら食い破れると期待した。

    ***

     兎角、
     悪魔というものは、欲望を煮詰めて作られた罪深い存在なのだと思う。

     首筋に舌を這わせれば苦く、人工的な花の香りは銀の粉がまぶされている。止めてくれ。流石に寿命が縮む。
     不衛生で不潔な肉体は生ぬるく、柔らかそうだと錯覚した皮膚は歯触りが不快で、牙を刺すために僕自身が唾液を加減する必要があった。ひたすら面倒な上に、ドロつく血液は塩分も多いし、いやな草の匂いもした。吸うたび下品に喘ぐし興醒めだ。せめて肉を喰らうタイプの悪魔なら証拠隠滅出来て楽なのかもしれないけど、僕は無理。肉はブニュっとしてて不味い。脂も嫌い。
     大人しくさせるため、僕のムカつきを抑えるためにも抱く。ああ、疲れるな。

     人間自体も欲に塗れてはいるのだろうが、悪魔の原動力は何かに特化していて、例えば僕は、食に対する欲が著しく低いが、音に対する執着があるらしい。心地よい音楽があれば何も食べなくとも生きていける。ある程度。空腹にならない。

     それなのに、僕という存在は蟻地獄のような引力があるらしい。人間の集まる場所に行くだけでわらわらと有象無象を引き寄せてしまう。大喰らいの吸血鬼なら良かったのにね。
     折角だから別の欲求を満たしてもらうこともある。
     吐精をすれば一時的な快楽を得られるから。食欲よりは幾分かこちらの方が好きなのかもしれない。だけど、音を聞いたときほど満たされはしない。疲労が溜まるばかりで孤独だ。

     ソプラノの音に惹かれて選んだ相手も、肉食獣みたいに五月蝿かった。こういうとき悪魔も人間も変わらないと辟易する。臭くて緩くて、コルセットも自分で外さないし、紐や装飾が多い服を脱がせる労力と見合わない。
     汗と混ざったラストノートはつまらないしがっかりした。肌が合わない。

     着崩した服の襟を正しながらドアを開けると、向かいの扉から出てきた男と目が合う。
     この大きな屋敷には連れ込める部屋が多数。貴族たちが愉しめるように都合良く。向かいの部屋から出てきた男も終わって出てきたのだろう。
     僕と目が合う人間は大抵が驚きの表情を見せるので面倒なのだが、この男は瞬きをいくつかしただけで親しげに会釈してきた。
     それから僕の顔を指差して言う。

    「仮面、つけないの?」

     自分こそ素顔を晒したままで。
     人の好さそうな柔和な笑みで僕に話しかけてくる。濃い色の長い髪をゆるく束ねた、意外とがっしりとした体つきの男は、大股で近づいてきて仕立ての良いシャツの胸元からハンカチーフを取り出し、僕の口元を拭う。僕より少し目線が上だった。

    「血、ついてるよ」
    「……」
    「“吸う”の下手なんだ?」

     ムッとして睨みつけると、男は牙を見せて笑った。

    「俺はバンリ、きみと同族だよ」

     館主お抱えの楽士だとかいうその男は、僕にとって好ましい音楽を奏でる奴だった。
     すぐに僕の前から消えてしまったけれど。


    ***

    「ごめんね」

     衝動的に襲ってしまった人間に、僕は何故か謝った。

     長らく使っていなかった人間のベッドに横たわらせる。身長は僕とそう変わらないはずだが、やけに軽く感じた。食事をした僕が軽々寝室に運べるほど。しかし僕の知る人間はもう少し生気があったように思う。この子は気配がやけに薄く、儚い。いくら空腹だからとはいえ、こんな弱った人間を見境なく襲うなんて僕らしくない。
     向こうも僕を殺す気満々だったし、(斧? 振りかぶってたよね)正当防衛……ではないな。食べ過ぎた。美味しくて。

     ベッドに腰掛け、見下ろす。
     窓からは月明かり。淡い光に照らされた短い髪は毛先だけ白く、珍しい色をしている。つんつんはねた毛先を掻き分け、血の気の引いた額に手を当てた。悪魔の僕よりは温かいけれど、人間はもっと体温が高かったはず。僕のせいか。首筋に触れると脈はある。牙が貫いた痕は塞がりつつあるが、治りが遅い。僕の唾液は人間の蘇生力を高めるはずなんだけど。
     傷痕を指先でなぞると人間は身じろぎをした。小さく漏らされた呻きは、子どもと言うよりは少年のような……テノールだ。目を閉じていてもあどけない顔をしているが、胸も平らで身体も四角い骨をしている。紛れもなく男だった。

     メスの生き血は啜ったことがあるが、オスも食すことが出来たのだと気づきを得た。選り好みしなければよかったな。食指が全く動かなかったから気にしたことがなかったけれど、こんなに美味しい人間もいたのか。我ながら驚いて、普段跳ねない心臓がどくどくうるさかった。栄養が採れて力が有り余っているのかも。

     弱った人間を襲うのはポリシーに反する。命を奪うつもりはないからね。もともと短命なのに、わざわざ蝋燭の炎を消してあげる必要はない。

     ━━不憫だな。
     悪魔が棲む屋敷だとうわさされているはずなのに、わざわざ乗り込んできて返り討ちにされて。なんかこの子、可哀想だな。短いツンツン髪を撫でると、少し軋んでいた。不潔という訳ではなさそうだけど、栄養が足りてないのかなあ。

    「う、……ん」
    「気がついた?」
    「え……? あ、れ、てんしさま……?」
    「天使?」

     人間のまぶたが開いて僕を視界に捉えた。
     珍しい色の瞳をしている。まるで薔薇の花びらみたいだ。綺麗だな。美味しそう。

    「……こんなきれいな人、見たことない……」
    「ああ……そういう。残念、悪魔だよ」

     喉の奥から聞こえる掠れた声は、テノールよりも低めだった。幼く見えるけれど子供じゃないんだな。悪魔だと告げれば、揺らめいていた瞳が大きく見開かれた。零れ落ちそう。

    「えっ! すみません、あ、あれ、オレ……?」
    「ごめんね、僕はこんな斧じゃ殺せないと思うよ。一応返しておくね」
    「え、あ……! ごめんなさい! 悪魔さんが、こんなに、きれいで優しい方だと思わなくて、オレっ……!」
    「優しくはないけど、あ、急に起き上がらないほうが」

     危ないよ、と言いかけて咄嗟に人間の体を支えたつもりだったんだけど、どこにそんな力が残っていたのか、彼が僕のブラウスを掴むからベッドに倒れ込んでしまう。

    「っ……!?」

     多分、貧血なんだろう。
     触れた唇は僕の唇よりは温かいが、不安になるくらいかさついていて、だから中を確かめたくなった。ちゃんと生きてるよね、まだ。どうしてこんなことしようと思ったのかわからない。
     心配で口の中を舐め回すと、カチリと歯が当たる。この子も牙があるのかな。ちがうか、先が丸い。こんなんじゃ人の肌を食い破れはしない。縮こまる舌を探し当てて絡ませると、思いの外やわらかくてあたたかくて、変な味もしない。むしろ、口の中も甘さを感じる。怪我でもしてるのか? それともただこの人間の体液が全部、美味しく感じてしまうんだろうか。

    「んっ、ふぅ……!」

     掴まれたブラウスが引っ張られる。弱々しく聞こえた吐息は耳にも甘い。

    (なんか、良くないな)

     自分には食欲なんてないと思っていたのに、人間なんて興味ないと思っていたのに……。

     この子。
     もっと食べてみたいな。



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