もう少しだから手伝って『モモ』
「わーっ! ユキ! えーっ!? 凄いタイミング! 今ちょーど楽屋に戻ったとこ! 曲作りはどう?」
休憩しにバタンと楽屋のドアを閉めた途端にユキからの着信。即通話にでることが出来て運命感じちゃう。ユキは結構切羽詰まってて今日はおうちで缶詰めだったはず。声の籠り具合からスタジオかな。SOSかも。近くにいてあげられない分、たっくさん励ましてあげなきゃ。
『モモに手伝って貰いたくて……』
「えっ!? オレお手伝いできるの!? 何したらいい? ユキ、イケメン! 天才! がんばれー!!」
『っふふ……モモだ……』
疲れてるのか弱々しく笑う雰囲気に胸が苦しくなる。ほんとはスケジュールやスポンサーの意向とか気にせず好きな音楽を好きなだけ作って貰いたい。でもユキの才能は限られた枠の中でも最高な作品を生み出せちゃうから、頑張って貰っちゃうんだよね。なんだかんだとタイトな中で神作出来ちゃうの凄すぎる。ユキは存在してるだけでも奇跡の人なのに才能も非凡なんてさ。本当に神様って二物も三物も1000物も与えちゃうんだから!
楽屋の畳にごろんと横になって、くふふと笑って改めて感動した。こんな素敵な人がオレの相方で彼氏さんなのだ。苦しんでるなら助けてあげたい。今回はオレの作詞じゃない曲だから、オレは一人でできる仕事やユキの分でも回せるやつは回してもらった。少しでも時間を作れたらいいなって。だから実はオレもスケジュールはキツくて、ユキのおうちに直接行けないまま。
『あと少しなんだ』
ユキの声がする。
すごい、できそうなのかな!? ユキが作る曲、宇宙で一番大好きだから、胸が高鳴る。早く聞かせてもらいたい!
「すごい! 〆切少し余裕あるくない!? ユキ、すごいよぉ……早く聞きたいなあ……」
『ん……締切のことは言うな』
「ごめんごめん、でもあと少しなんでしょ!? 凄いよ! オレ、なんて励ましたらいい?」
『歌、うたって』
「えっ!?」
『モモの歌が聞きたい……だめ?』
「仕方ないにゃあ……! 何歌う!? フレッフレ……」
『それもかわいいけど……そうだ、この前の、紅茶のがいい』
「えー!? えっとお、」
『ファルセットのところ』
「ピンポイント! 高音すぐ出るかな、あー、あー、こほん」
普段アカペラで歌うなんてしないけど、ユキの為ならガチ目にがんばります。だらけてた姿勢を正して、お腹にぐっと力を入れる。さっきまで声張ってたし喉はまだ開いてるよね。ユキ、がんばれ。気持ちを込めてワンフレーズ歌ってみた。
「ど、どお? 元気出た?」
『……ん……』
眠いのかな、まさか、子守唄にしたの!? あまりにつまんなくて!? ユキの反応が鈍くて焦っていると、急にぞわぞわするASMRが聞こえる。
『ふ……、うん、モモ、ありがと』
「そ、そう!?」
『気持ち良かったよ』
「う、うん? こちらこそっ! 曲作り頑張ってね!」
切れた。
通話が終わって、楽屋の鏡を見ると、オレ真っ赤になってた。疲れてるユキって……なんかめちゃくちゃえっちじゃない……? ドキドキしてしまった。ユキは頑張ってるのに不埒なこと考えてごめん!
「ん?」
気持ちよかったよって、何が!?