「いつも通り過ぎたので」 チムピオーンの午後は、いつも平和だ。けれど、ヴィクトル・ニキフォロフの教え子として勝生勇利が同じリンクを使用するようになってから、その平穏はわずかながら乱される瞬間があった。
「あいつら、いつもくっついてるよな……」
「もう見慣れたわ」
練習合間の休憩中――スケートリンクの壁面に背を預けたユーリとミラは、とある光景を同時に見つめながら苦笑いを浮かべた。その視線の先に見えるものは――ヴィクトルと勇利、二人の姿であった。
「ヴィクトル、今のとこ、どうだった?」
「悪くはないと思うけど、ちょっとしっくりこないんだよね」
今期プログラムの全体構成を考えているようで、一曲流して滑った勇利が、エッジカバーをつけながらリンクサイドのコーチのところへやってくる。
1677