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    sofi9617

    i7 楽ヤマ、龍ナギ、悠虎etc

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    sofi9617

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    9/18のトプステで悠虎本が出ます!小説です。
    全年齢だけど年確できた人にはR18のおまけがつきます。通販でどうするかは考え中。
    値段や表紙、通販リンクは支部のサンプルで→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18267162

    ##悠虎

    金盞花を刻む 一.

    「オレ、虎於のことが好きだ」
     俺の部屋の廊下、帰り際に悠は言った。言葉だけなら数えきれないくらい聞いたものだ。異性だろうが同性だろうが、好意を向けられるのには慣れている。いや、慣れているつもりだった。
     こんなに強烈に、全身で好意を表す人間を俺は初めて見たのかもしれない。頬は紅潮して、息が荒い。ぎゅっと握りしめた手は震えていて、それでも足はどっしりとその全てを支えている。何より、俺をじっと見つめる金色の瞳がぎらぎらと輝いて、俺の心まで貫かれたような気がした。
     本気なのか? 冗談だろ? そんな茶化すような言葉がまず脳裏に浮かぶ。その次には、ありがとう、俺もだ、なんて軽薄な言葉が顔を覗かせる。どちらが良いだろうか。本気なのは痛いほどわかるが、思春期の本気なんて勘違いであることがしばしばだ。それに付き合うのは大人としてよくない気がする。
     ……それでも、悠を悲しませるのは気が引けた。今まで本気じゃない恋愛なんて山ほどしてきたのだから、今更一つ増えたくらいでどうってことないだろう。悠だって成長していくうちにふさわしい女を見つけるだろうし。別れた後でも俺は変わらず接せる。今までもそうだった。
     だから、答えはこっちを選んだ。
    「……ああ、俺もだ」
     それを聞いた悠は目をまん丸に見開いて、俺の腕を両手で掴んだ。想像よりずっと嬉しそうな顔をするものだから、つい気分が良くなって口角が上がる。それにも構わず、悠は興奮で息を切らしながら言葉を発した。
    「っ、本当⁉」
    「本当だ。俺は嘘を吐かない」
    「嘘つけ! でも、へへ、嬉しい……」
     噛みしめるようにはにかむ悠を見て、きゅうと胸が締めつけられるような心地がする。初めての感覚だ。不思議に思っていると、ねえと言って悠が顔を寄せてくる。なんだ、キスでもしたいか?
    「デートしよ、次のオフ! ……空いてる?」
     なんだ、そんなことか。可愛いもんだな。脳内でスケジュールをざっとさらって予定がないのを確認する。そういえば最近はオフでも予定がないことが多かったな。
    「ああ、空いてる。どこに行きたい? またあのバーに連れて行ってやろうか?」
    「そういうのじゃなくて……とにかく考えとく!」
     そう叫んでぱっと手を離す。今までは相手の希望を聞くことが多かった。俺に任せてくるやつもたまにいた。考えとく、ってのは初めてだな。なかなか悪くない。
    「はは、楽しみにしてる。もう帰らないとばあさんが心配するぞ」
    「わ、そうだった。暗くなっちゃったしタクシー呼ばなきゃ……じゃ、また明日現場で」
    「ああ、また明日……どうした?」
     別れの挨拶までしたんだからさっさと玄関に向かえばいいのに、悠はなかなか足を動かそうとしない。俺が首を傾げると勢い良く抱き着いてきた。幸い倒れ込みはしなかったが、苦しいくらい力を籠められて息が詰まる。背中をぽんぽんと叩けば顔を上げて離れていく。一歩だけ玄関に向かって足を踏み出して……振り向きざまにこう言った。
    「オレ、ずっと虎於のこと大切にするから!」
     返事も待たずに慌ただしく部屋を出ていく。それを俺はただ見送った。言葉が出てこなかった。大切にされるのだって慣れている。両親にだって、兄弟にだって、今まで付き合ってきたやつらにだって、俺は大切にされてきた。その自覚はあるし、だからこそ今の俺がいることも理解している。
     それなのにどうして、悠に言われるとこんな気持ちになるんだ?
     柄にもなく顔が熱くなるのを感じる。照れているのか? 俺が? 本気にもなっていないのに? だとしたらこの顔の熱さは、胸の苦しさは何なんだ?
     堂々巡りになりそうな思考を打ち切る。明日は朝から収録だし、早めに寝た方が良い。聞けばTRIGGERは大事なイベントの前は八時に寝るらしいじゃないか。早すぎるとは思うが、その心がけは見習うべきかもしれない。
     飯は食べた。あとはシャワーだけ浴びてベッドに入ろう。テイクアウトとかいうものを初めてやったがなかなか悪くなかったな。また一緒に買いに行っても……。
     ――そうか、俺と悠は恋人同士になったのか。
     急に実感が沸いてきてまた顔が熱くなる。また思考がぐるぐると回り始める前に脱衣所へ向かうことにした。顔の熱さがわからないくらい熱いシャワーを浴びればいい。そうしよう。
     服を乱暴に脱ぎ捨ててシャワーのコックを捻る。頭から降り注ぐのはやはりぬるま湯でしかなく、顔はずっとそれより熱いままだった。

    ***

    「虎於、話聞いてる?」
    「お、おう……?」
     気が付けばそこは俺の部屋の廊下。さっきまでと同じ服を着た悠が腕を組んで俺を睨んでいる。帰ったんじゃなかったのか? どうしてここに……?
    「悠、お前帰ったんじゃ……」
    「やっぱりさあ、何か思ってたのと違うっていうか」
     俺の話を遮って悠が話し始めた。話を聞いていないのはそっちじゃないか。俺は状況を把握するのに精いっぱいだってのに。
     まず気が付いたのは悠の声のトーンだった。不満を持っているのが手に取るようにわかる。俺たちが初めて会った頃のように思えた。俺を睨む目つきは鋭く、明らかに責められている。それは俺が悠の話を聞いていなかったからだけじゃないんだろう。聞いていた覚えもないんだが。
    「全然オレのこと考えてくれないし。まあ最初から期待もしてなかったけどさ」
    「待て、何の話だ?」
    「そういうところだよ!」
     急な大声にびくりと肩が跳ねる。なんだ? 何を怒っているんだ? 何か悪いことでもしたか‥‥…?
    「俺にもわかるように説明しろ。何が気に入らないんだ?」
    「だからずっと言ってるじゃん! オレの話聞いてくれないし、勝手に好きなとこばっか連れ回すし、一緒にいてもつまんないんだよ!」
    「……ん?」
     どこにもまだ行ってなくないか?
     さっきデートに行く約束をして、行く場所も悠が考えるって話だったはずだ。何を勘違いしているんだ……?
    「……もういいよ。もしかしたらオレ、最初から虎於のこと好きじゃなかったのかもしれないし。勘違いだったのかも」
     ああ、その台詞はなんとなく想像つくな。きっと俺が悠に振られるときはこう言われるんだろうと思っていた。やっぱりそうか、と腑に落ちる。頷くと悠はそれにも気に入らないのか噛みつくように叫んだ。
    「だから、もう別れるっつってんの!」
    「お、おう……?」
     別れる、か。思ったより早かったな。いや、早すぎるだろ。まだ付き合って一日じゃないか。流石の俺でもここまで短かったことはない。まあ気づくのが早かったのは賢いと褒めてやっても……。
     待て。
     別れるって言ったのか?
    「悠、それ、本気なのか……?」
    「は? 当たり前じゃん。トウマとか巳波に言ってなくてよかったあ」
    「いや、だってお前あんなに俺のこと好きだって……」
    「だから言っただろ、勘違いだったって。虎於も頷いてたじゃんか」
    「そっ……」
     そうだけどそうじゃない。いつかそうなるだろうとは思っていたが、まさかこんなに早いとは思わないだろ。それに、デートだってまだだ。悠がどんなプランを組むか結構楽しみにしてたんだぞ。
    「じゃ、そういうことで。オレ帰るから」
    「待て、悠!」
    「待たない。あ、みんなの前では普通にしてろよな。変に探られるの嫌だし」
    「そうじゃない……! お前、不誠実だと思わないのか⁉」
    「今までの虎於だってそうだったんじゃん」
     何も反論できなかった。ああそうだ。本気で付き合おうとしなかった時点で不誠実なのは俺の方だ。別れる覚悟だって最初からしていたし、それが悠から言われることだってあるだろうと思っていた。慣れている。慣れているはずだったじゃないか。
    「バイバイ、また現場で」
     無言を貫く俺を置いて、悠は家を出て行く。追いかける気力も、立っている気力もない。ずるずると廊下に座り込んで、自分の足が震えているのに気づいた。いや、震えているのは足だけじゃない。全身がガタガタと震えて、指先は氷のように冷たくなっている。
     悠と別れるのがショックだ。それを認めるしかない。撤回が早すぎるとか、発言に矛盾があるとか、気になる点は山ほどあったが今はそれどころじゃない。別れることを実感した瞬間に血の気が引いた。冷や水を頭からぶっかけられたような心地だった。今でもずっとその寒気が続いている。抱きしめられた時のあの温もりがただ恋しかった。
     まだろくに恋人らしいこともしていないのに、と未練がましいことを思う。悪い夢なら早く覚めてくれ。必死にそう願いながら目を閉じた。
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