「好きなものを選ぶと良い。何、今日はお前のための日だからな」
ここには何度か来ているから、帰りは心配するなと付けたしながら慣れた手つきでジャケットを脱ぎ、カウンターへと座るカイトを見て、ああ、頭では理解していてもこうして見るとやはり此奴は年上なのだと認めざるを得ない。
ささやかなむず痒さと、少しだけ、届かない焦立ちがミザエルの背を煽る。
しかし今日はカイトの言うように、私が成人したからと祝いの酒の場を用意してくれたのだ。幾らカイトが私財を有しているとはいえ、時間は有限である。
こうして気遣って、2人の夜を用意してくれたのだから無碍にすることなど無いのだ。
顔見知りなのだろう。バーテンダーの男と言葉を軽く交わし、ミザエルが酒が初めてであることを快く了承したと思えば、小洒落た黒いレザーに包まれた長方形のメニュー表をカウンターへと差し出した。
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