奔走するA/違和感のある街 Wと共にドーパントとの戦闘中、気が付けば風都の雑踏の中にいた照井。不思議に思いながらも翔太郎達と合流するため鳴海探偵事務所へ。しかしそこに居た翔太郎は、何故かトレードマークのソフト帽を被っていなかった。
「左、帽子はどうした?」
「あぁ? 嫌味かテメー」
「所長、左はどうしたんだ」
「なぁに所長って。竜くんお父さんに用があるの?」
「『お父さん』……?」
「何だ若造、俺に用か」
この男が、左の師にして所長の父親。
「鳴海、荘吉……」
「……フィリップはどこだ?」
「フィリップ? 誰だそりゃ」
「お前の相棒だろう」
「知らねぇよ、そんな奴」
死んだはずの妹から掛かってくる電話、今日の夕飯はハンバーグだと、母と父も待っているという。
違和感だらけの街で照井は焼け落ちたはずの園咲邸へと辿り着く。
藁をも掴む思いで照井は一人の少年の名を出した。
「園咲来人はいるか」
「待っていたよ照井竜」
「フィリップ、なんだな?」
「その通り。ぼくは君の知っているフィリップで間違いないよ」
「何故精神攻撃に耐性のあるぼくらだけがこんな妙な世界に飛ばされたのか、考えなければならない」
「フィリップ、お前は戻りたいと思うか。この街は妙だが、それでも大事な人達が生きている」
所長は父、左は師、俺は家族。
「お前の家族だって……」
「……そうだね」
「けれどぼくは決めたからね、翔太郎と『この街』を守ると」
「ぼくの愛する風都は、ぼくの愛する人達が暮らす街はここじゃない。君はどうだい照井竜」
「……あぁ、俺もそうだ」
「若造、俺に話があるらしいな。来人も」
「あぁそうだ。鳴海荘吉────いや、リグレット・ドーパント!」
「俺は俺の愛する人のところへ帰る。その未練────全て、振り切るぜ!」
「──男の仕事の八割は決断だ。娘のことはお前に任せる」
「ようやく帽子が様になってきた、弟子のこともな……」
「……ここは沢山の未練が積み重なって出来た街だったんだな」
「あぁ、その未練が街ひとつを呑み込んで、人々の記憶を書き換え死者を甦らせた……」
「ぼくらが飛ばされたのではなく、この街が改変されていたんだ」
「帰ろう、照井竜。亜樹ちゃんと翔太郎が待っている」
「そうだな、帰るか。俺たちの街に」
END