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    ディミレト
    ディミトリとの逢瀬が、自分の風邪で破綻になってしまいそれでも無理をして会いに行くお話。昔々に書いたものなので文体が今と全然違います。

    #




    「そういえば陛下への縁談、大司教猊下も誰か良い方はおりませんかね?」

    数節程前に元王国領のとある貴族が謁見の際にそんな事を言ってきた。俺は出された茶を飲む手を止める。流石に茶器を落とさなかっただけ褒めて欲しい。ゆっくりと茶器をテーブルに置くと我ながら恐ろしい程の演技をした。

    「そうですね…。それは難しい事案ですね」

    それだけ返すのがやっとだった。俺の返事に目の前の貴族の男性は特に変な顔をすることも無く、ひとりで唸っていた。

    フォドラ統一国王となり、終戦後の今も奔走しているかつての教え子の姿が目に浮かぶ。彼は今もきっと王都フェルディアで執務作業にでも追われているのだろう。互いに似た立場になると大変なものだなと何処か他人事のように考える。

    「終戦から時が経ったとはいえ、未だに華やかな話題にかけます。早く陛下が結婚し世継ぎが生まれれば、民もさぞ安心すると思うのです」  

    そう捲し立てる彼に何も言えなくなる。大司教としての立場がなかったら叫んでいたのだろうか?わたしはその国王陛下の恋人で、将来を誓いあった仲なのだと。


    「……はぁ…」

    ぱたんと閉まる私室の扉に漸く張り詰めていた息を吐く。そっと寝台の側に備え付けてある鏡に写る自分は酷くやつれて見える。服の中に隠れている首飾りを取り、掌におさまるそれを見て切なくなる。

    「会いたいな…」



    ✽✽✽



    「……セテス。急ですまないが今節、暇をくれないか?」

    昼下がりの執務室。その部屋で出された書類に確認をしながらぽつりと言葉を紡ぐ。目の前の、かつての威厳の塊の様な絆で結ばれた父に。傍らにはその父の愛娘のフレンがいた。フレンは3人でのお茶会の準備をしていた。

    「本当に急だな。何か予定でも出来たのか?」
    「お父様。先生が予定と言ったら一つしかないですわ。それにもう確定事項ですし、諦めて許可を出してあげません?」
    「フレン……私はベレトに尋ねているのだが」

    最後の書類に確認の署名と印を押す。俺はそれを綺麗に束ねるとセテスの目の前に置いた。そしてそっと息を吐き出し、遠くを見つめる。

    「…会いに行きたいんだ。駄目だろうか?」
    「誰かなんて聞かなくてもわかるが……。まぁ、最近は祭儀も多かったからな」
    「そうですわ。先生もたまには大司教猊下ではなく、普通の人としてお休みしないと疲れてしまいます」
    「フレン……ありがとう」

    思わず涙ぐみそうになりながらフレンに礼を言う。今このタイミングでなければこの話は出来ない、そう思った。俺が大司教として勝手に大修道院の外に出る事は不可能で、それにはまずセテスの許可が必要となる。だからフレンがいる今この瞬間に落とさなくてはならない。連携計略だ。

    「それに許可を出さないと、先生の事ですから今すぐにでも飛竜に乗って飛び出してしまいますわ」
    「………その例えは現実にしたくないので、すぐに予定を確認しよう」
    「! ありがとう…!」

    フレンとハイタッチをしながら喜び合う。俺が会いたい人。それはかつての教え子で、今はフォドラ統一王として日々奮闘しているディミトリだ。もう数節ほど彼と会っていない。忙しい合間を縫っては手紙を交わすぐらいだ。たまにディミトリが大修道院に公務で訪れる事はあるが、俺が逆にフェルディアの王城へと赴いたのは戴冠式後に片手で数える程くらいしかなかった。

    「先生の嬉しそうなお顔、久しぶりに見ましたわ」
    「あ、ああ…すまない。つい顔が緩んでしまって…」
    「いいえ。素敵ですわ。私もディミトリさんやかつての学級の皆さんと久しぶりにお会いしたいですわ」
    「今度また同窓会でも計画しないか?皆にも息抜きが必要だろう?」
    「ま!それはいいお考えですわ!」

    それから3人でお茶会を楽しんだ。セテスが久しぶりに街に降り立って買った茶菓子が美味しくて、フレンとたくさん食べた。

    次の日には今節の中旬頃になら1週間ほど休みを取れる様に調整出来たと告げられた。ただし予定通りに業務を済ませる事と釘を刺されて。それでも俺は笑顔で応えた。

    ディミトリには今節の中旬に会いに行ってもいいだろうかとお伺いの手紙を出した。すぐに帰って来た伝書梟からの手紙には綺麗な字で「俺もその日までに仕事を片付けておく。楽しみにしている」という返事が来た。嬉しかった。

    久しぶりにディミトリに会える。直接会って、話したい事がたくさんあった。この前セテスとフレンと一緒に食べた菓子をディミトリにも食べてほしい。日持ち出来ないから似たようなものを王城で作ろう。

    そう考えていたのに……。


    「先生…?お加減、いかがです?」
    「…は…、のど……が…」

    喉に何かつっかえているみたいで、上手く声が出ない。呼吸もなんだか覚束なくて、全身で呼吸をしているみたいだ。俺の顔を撫でるフレンの手が酷く冷たくて、思わず擦り寄る。

    「前日になって熱を出すとは……。やはり昨日の公務で雨に濡れたせいか。悪いことをしたな…」
    「本当に……。先生、残念ですが今回はお身体の為に無理をしてはいけませんわ…」

    たかが風邪で熱が出たくらい…と言いたいが、病気とは無縁の俺は一度熱が出るともう最悪だ。幼少期に酷すぎて1週間寝込んだ時は、あの父ですら肝を冷やしたと言った程だ。呼吸を整え、フレンの言葉を頭で反復して涙が出た。

    「……ディミ、……トリ……っ………」

    2人が部屋から出て行って、人の気配が無くなると途端に嗚咽がこぼれ落ちた。枕に滲みが出来る程に泣くなんて、昔の自分からは想像がつかない程だ。



    ✽✽✽


    「……っ…」

    夕刻の空がいつの間にか沈み、星が瞬いていた。だけど、それも西側は白んでいて朝焼けが見える。今まで泣き疲れて眠ってしまっていたのだろう。目元が痛い。すると頭が少しだけクリアになっていた。俺は急いで起き上がると寝間着を脱ぎ捨て、かつての平服を取り出した。今なら闇に乗じて黒がいい…外套は髪を隠せるものにしなくては…。

    ブーツを穿いてフードを被り、部屋からゆっくりと抜け出す。先程よりは下がったが、まだ熱があるのか少しだけ吐く息が熱い。俺はゆっくりと階段を降り、厩舎からツィリルが世話をしていてよく背に乗せてくれる飛竜に「お願いを聞いてくれないか?」と言って、連れ出した。

    それから飛竜は一目散に王都フェルディアへと向かって飛んで行く。もう既に太陽は上り、朝を迎えていた。風を切る寒さが、顔が痛くなる。不意に出た咳が苦しい。飛竜がこちらを振り返るのに背を撫でて大丈夫だと答える。


    もう少し、もう少しだ…。

    そう自分に言い聞かせ、手綱を握りしめる手に力を篭めた。下界に広がる町並みに王都に辿り着いたと安心したのも束の間、空上警備をしていた天馬騎士に見つかってしまう。俺の今の格好は大司教ではないから、他の者が見たら王に仇なす敵に見えるだろう。

    「立ち止まれ!ここより先は王城だ!何用か、顔を見せて申し出でよ!!」
    「……王に、ディミトリ…、陛下に……」
    「だから顔を見せろと言っている!」

    視界が、揺れる。また熱が上がっているのだろう。目の前で槍を突き立てる天馬騎士に、俺は仕方ないとフードを取ろうと手を伸ばそうするも、ずっと手綱を握りしめていてかじかんだ手が上手く動いてくれない。

    「はっ……ディミトリ……」
    「国王陛下を侮辱する気か、貴様!!」
    「待ちなさい!何をしているのです!!」

    毅然とした厳しくも慈愛に満ちたあの声は、騎士に憧れ、念願叶った彼女の声だ。最早飛竜に座ることすら難しい俺は、その背に身を預けて声だけを聞いていた。

    「この方はまだ何もしていません。手を上げる事は、私が許しませんよ」
    「ですがイングリット様…!」
    「…私の部下がとんだ失礼を。お顔を、拝見願えますか?」

    そう言えばイングリットは王城で天馬騎士団を設立したと言っていたな。今では立派な騎士団長か……。そんな事を思いながら、動かない手に力を籠める。今はきっと喉もやられているから、まともな声は出ないだろう。だから姿を見せなくては…。そう思って俺がゆっくりと起き上がった時だった。

    「敵襲ー!敵襲ー!!」
    「王城前に不審な飛竜を確認!」
    「弓兵部隊、位置につけ!」

    その声に、俺は息を呑む。イングリットが王城の騎士達に「待ちなさい!」と声を掛けるも皆、耳を傾けない。俺はツィリルが世話をしていた大事な飛竜を怪我させてしまっては駄目だと一度引こうとした時だった。

    「危ない…、避けて!!」

    弓兵部隊が射的兵器で一目散にこちらを狙って攻撃してきたのだ。仕方ない、魔法で一時的に攻撃を避けるかと手に魔力を集中した時だった。きらりと光る閃光…サンダーストーム、遠距離の黒魔法だ。驚いた飛竜がそれを避けると同時に、勢いで俺のフードが取れた。

    「せ、先生……!?っ、攻撃を止めなさい!この方は大司教猊下です!!」
    「イングリット様…!?」
    「な、なんで大司教猊下がここに…!?」
    「でもあの髪色は確かに…」

    先程までの空気は一転、ざわめき立つ。大司教だとバレたくないが為に無茶をしてまで来たのに、これでは意味がないじゃないか…。俺はそう思ってフードを被り直し、ゆっくりと地上に降り立つ。そこには騒ぎを聞きつけた他の兵士と…懐かしい顔ぶれがいた。

    「あれま、先生〜。こんな朝からどうしたんです?」
    「…まさか猪に会いにひとりで来たのか?」

    王城前に馬に乗ったシルヴァンと腰に剣を携えたフェリクス。珍しい、2人も王城にいたのか。なんて思っていると急に周りの騎士や兵達が膝をつき、頭を垂れる。俺は乗っていた飛竜からなんとか降りるも、足元がふらふらする。立っているだけで精一杯だ。

    「フェリクス。それ以外に何があるのだ?」
    「…チッ」
    「あーほんと、陛下のその自信が羨ましいなぁ〜」
    「…貴方は肝心な所で駄目な時があるものね」
    「おいおい、イングリット〜?そんな俺を支えてくれるのがお前だろ?」

    幼馴染み同士の会話にくすりと微笑んでしまう。視界はフードに覆われて見えないけど、“彼等”が目の前にいる。たくさんの騎士や兵達の視線を受けてもそれを気にせずこちらに向かってくるのは、国王陛下。きっと俺の心臓が動いていれば、どきどきと早鐘を打っているのだろう。だけど俺は、急に顔が合わせられなくてフードを握りしめる手に力が篭もる。

    「フードを取って…その綺麗な髪と顔を見せてくれないか?先生」
    「っ…うっ……ディミ、トリ……」
    「では、失礼ながら俺が取ろう。良いですね、大司教猊下」
    「っ!」

    俺がディミトリにそう呼ばれるのは嫌いなのを知ってわざとやっている。顔を上げた瞬間に勢い良くフードを取り上げられた。久しぶりに見たディミトリは、朝日にも負けないくらいの良い顔をしていた。俺の頬に触れる手が冷たくて、思わず擦り寄ってしまう…。

    「…? 先生、顔が赤くないか?」
    「も……、むり…だ……っ…」
    「!? 先生!?大変だ、シルヴァン、医者を呼んで来てくれ!!」

    ディミトリの顔を見たらなんだか安心してしまった。その逞しい身体に倒れ込み、俺は意識を手放しかける。ふわふわする意識に、だけど確かに俺をしっかりと抱き留めてくれるディミトリの力強さと優しい体温と…彼の存在を確かに証明してくれる心音だけは、確かにしっかりと覚えていた。


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