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    私だけの王子様(ディミレト)
    ディミトリが好きなモブ子が先生に嫉妬して手を出す話。一応ディミレト前提のモブ子視点。昔に書いたやつの供養です🪦

    #



    「♪」

    窓から差し込む朝日が気持ちいい。今日も早起きが出来た。髪も綺麗に整えた。毎日の肌の手入れと化粧も完璧。制服も自分らしく着こなして、今日も素敵な私の完成。私はタオルを片手に目的地へ一目散に駆けていく。行き先は士官学校の寮近くの訓練場。だってそこには…。


    「そこだっ!!」
    「遅い! 踏み込む位置がずれているぞ、アッシュ!」
    「はい、殿下!!」

    今日も朝早くから訓練なんて…本当に真面目だ。私の毎朝の日課となっているひとコマ。それは我が学級…ううん、我が国の王子殿下を見守る事。青獅子学級の級長のディミトリ殿下は、ファーガス神聖王国の次期国王。容姿端麗で知的で気品溢れていて、お伽噺の王子様がそのまま現実に飛び出してきた様な人。

    私は幼い頃から、ずっとこの人に恋をしている。

    殿下を追って、この士官学校に入学するまでは必死だった。年下のアネットは魔道学院での才媛と呼ばれていて、私は彼女より劣ると言われて推薦は貰えなかったけど教団への寄進や士官学校に通ずる者への賄賂でなんとか入学できた。士官学校での1年間で殿下を落として、私が将来の王妃になる……それもいいが、第一には彼に愛されたいのだ。

    そんな私には、唯一の敵がいる。


    「お前たち、朝早くから精が出るな」
    「先生!おはようございます!」

    私たち青獅子学級の担任、ベレト先生だ。そう、私の敵。先生は新任で元は傭兵だというのに、何を考えてかレア様はこの人を士官学校の教師にしてしまった。殿下……ディミトリ君は優しいから級長として、先生の世話を甲斐甲斐しく焼いている。最初はそう、思っていた。

    「(また、だわ……)」

    気づかれないように隠れながら様子を伺っている時に気づく。ディミトリ君が先生に声をかけられ、話ているだけなのにものすごく嬉しそうに笑う。最近はいつもそうだ。私がお菓子を作って渡しても、笑って受け取ってくれるが目が悲しそうなのを知っている。それなのに今のディミトリ君はとても嬉しそうで、きらきらと輝いている。本当の、王子様の笑顔。

    「(なんなの、あの新任教師……男なのに、ディミトリ君まさか……)」

    彼があの先生に恋をしているなんて、そう思うだろうか?でも実際に先生と話をしてるだけでも嬉しそうだし、なんだか顔も少し赤く見える。たまに先生が笑いかけると余裕なさ気にするディミトリ君は、私と似ている。やはり彼は、先生に恋をしているのだろう。

    「……。」

    訓練をしているからこのタオルで汗を拭いてもらおうと思って持ってきたのに、渡せない。いつの間にか先生も加わってしまっている。私は剣も槍も苦手で、唯一できる魔法もイマイチだ。いい加減成果を出さなきゃ、そろそろ退学にされてしまうかもしれない。先生がいなければ、よかったのに。

    「(先生がいなければ……?)」

    そうだ、それならいっその事、消してしまおう。私の障害になる人物を。それにこれが初めて出はないのだ。昔からディミトリ君にくっつく悪い虫は私が追い払ってきた。唯一…、帝国から亡命してきた栗毛の女だけは手出しが出来なかったけど。

    「やってやる…!!」

    ギリッと歯が音をたてる程に噛み締めていた。私は急いで訓練場から立ち去ると、自室へと逃げるように帰って行った。そんな私を見ている人物がいた事など知らずに…。



    ✽✽✽


    「……であるから、この時の計略として有効なのは…」

    いつもの講義の授業。先生の後ろ姿を私はじっと見つめる。あれから少しだけ、いたずらを仕掛ける事にした。生徒思いの優しい先生は、可愛い教え子からお菓子をもらったら無下に出来ないことは知っている。メルセデスがよく手作りのお菓子をあげているのを見ていたから、私も真似てみた。軽い毒薬入りの焼き菓子を。それを数日前にあげたのだ。

    「なので、この陣形の時には………っ…!?」

    がたんっ!先生が黒板の前から姿を消した。いつの間にか座り込む様に倒れてしまったのだ。私はそれを見てにやりと笑む。ようやく薬が効いてきた。元傭兵だから一度では効果が出ないと思い、数回ほどお菓子をあげたけどやっとか…そう思っていると一番前の席に座っていたディミトリ君が勢い良く立ち上がる。

    「先生、大丈夫か!?」
    「っ……ああ……、へいき……うっ……」
    「顔が真っ青じゃないか!!すぐにマヌエラ先生の元へ行こう。メルセデス、一緒に来てくれるか?」
    「ええ。先生、手を貸して〜」
    「他の者は自習をしていてくれ。すぐに戻る」

    ディミトリ君はメルセデスを呼ぶと、先生を抱き上げると教室から出て行ってしまった。その一連の行動が鮮やかで驚く。きっと他の生徒が同じ様に倒れたら、同じ様に対応をするのだろうけど…やはり気に入らない。……あの先生だから?

    「殿下ってば、焦っちゃって〜」
    「こら、シルヴァン。大人しく自習してるわよ」
    「でも、先生…。大丈夫ですかね?」
    「大方また食べ過ぎだろう」
    「そうかなぁ……?すごい顔色悪かったけど……心配だなぁ」

    先生に懐くシルヴァン、イングリット、アッシュ、フェリクスにアネット。彼らの呟きに教室もざわめき出す。それからすぐにセテスさんが駆けつけて、自習を余儀なくされた。すぐにメルセデスは帰って来たけどディミトリ君は一緒ではなかった。

    「(まさか、あの教師についているつもりなの……?どうしてそこまで…)」

    最初の作戦は成功した筈なのに、私の負けだった。彼は倒れた先生を心配して、その日は姿を見せなかった。翌朝もいつものように訓練場に足を運んだけど、ディミトリ君はいなくて…。

    「あれー?どうしたの、こんな朝早くから」
    「あ……、シルヴァン君」
    「殿下なら先生の見舞い行くって朝イチで飛んで行ったけど?」
    「え!? な、なんで私にそんな事を…」
    「あれ、違うの?君、毎朝訓練場で殿下のこと見てるから今日もそうだと思ったんだけど」
    「!」

    バレている…。私は話しかけてきた赤毛の男…ゴーティエ辺境伯の嫡男のシルヴァンから視線を背ける。こいつを相手にしてはいけない。女好きと公言しているが、付き合う子全てと長続きしないし全部遊びだ。本気の子を傷つけて楽しんでいる。私は逃げようと彼の横を通り過ぎようとした時だった。

    「ね、昨日先生が倒れたのって君のせい?」
    「なっ…!?どういうことよ」
    「いんや、先生が最近君からお菓子をよくもらうって言ってたからね。その時期と倒れたタイミングが合ってるからさ〜」
    「それだけで私を犯人にするの?酷い言い掛かりね」
    「そうだねー…」

    逃げないように右手を掴まれる。彼の言葉に内心驚いたが、察しがつかないように嘘をつくが、どこまで言い逃れ出来るか。するとシルヴァンは私の手を離すと人好きのいい笑みを浮かべた。

    「現行犯のが確実だよね。ごめんね、疑って!」

    そう言うとすぐに去って行く。私はその場から動けない。やっとの思いでスカートを握りしめると「あ、そうそう」と彼ののんびりした声が聞こえた。

    「うちの殿下、怒らせない方が身の為だから。大切な人をたくさん失ってる人だからさ」

    その言葉と共に向けられた笑顔は、冷たかった。背筋に冷や汗が伝う。私は歯を食いしばって耐えた。だから、なんだというのだ。ディミトリ君は、次期ファーガス神聖王国の国王なのだ。一国の王子が恋をしている相手が教師で同性の男で、結婚どころか世継ぎも出来ないのに。それなのに…。

    「ふふっ………」

    それなら…いっその事、めちゃくちゃにしてやろう。最初は脅そうと思ったけど、もういい。消してやる。



    ✽✽✽


    「先生、フレンさんの居場所がわかったんです!!私が死神騎士を見張っているので、早くみんなを連れて来て下さい!」

    大司教補佐のセテス殿の妹であるフレンが姿を消した。それは先節から大修道院での間で騒がれていた。巷で有名な死神騎士が夜な夜な人を攫っているという噂がたっていた。そんな後に青獅子学級の今節の課題はフレン捜索で、今しがたまで彼女を探していたのだ。

    「いや、俺が行こう。君が皆を呼んできてくれ」
    「…わかりました…!!あ、でも先生に何かあったら大変なのでこれを…」

    差し出した指輪は魔法具の一種だ。先生は特に気に止める事もなく「ありがとう」とお礼を言って指輪を受け取り、そのまま別れた。伝えた場所へと一目散に走り去る姿は流石元傭兵なだけあって素早い。私も駆け出して物影に隠れる。

    フレンが見つかったなんて嘘だ。青獅子学級の生徒だからと油断していたのだろう…先生は私が嘘をついているなんてこれっぽっちも思っていない。先生が向かった場所には私が依頼してあるごろつきの男達がいる…そいつらに好きにしていいと伝えてある。

    暴力でも強姦でもなんでも……やはりあの先生は可笑しい。あんな鉄仮面なのに、酷く人を惹きつける。それが男女問わないのが質が悪い。私の依頼した男達も先生の顔を見て「犯してもいいのか?」と聞いてきた奴もいた。私は先生が…、あの悪魔がディミトリ君の前に現れなければ何をしてもいいと言った。

    「ふふふっ…やっと、やっとだわ…!」

    そのまま足取り軽く青獅子学級の教室へと戻る。皆はフレン捜索の作戦会議中で慌ただしく情報交換をしている。暫く先生不在で事が進んでいたが、いくら定刻になっても現れない先生に口を開いたのはやはりディミトリ君だった。

    「……いくらなんでも遅いな。探してくる」

    そう言ってディミトリ君が教室を出ようとした瞬間だった。外から「殿下ー!!」とディミトリ君を呼ぶ声が聞こえる。この声、まさか…。

    「さっき門番の人が、先生がひとりで大修道院の外から出て行くのを見たって言ってて……!!これやばいかもって俺、」
    「っ!」
    「殿下!?」

    扉を勢い良く開けた先に見た赤髪に舌打ちをする。シルヴァンの叫びに、ディミトリ君は何も言わずに彼を突き飛ばす程の勢いで教室の外へと走り出す。それを見たシルヴァン君が自分達の幼馴染みとディミトリ君と先生に親しい級友の名前を呼び、追い掛けるように出て行った。取り残された私達は何も出来ずにいる。

    「ちっ…!!」

    計画は失敗に終わる。そう直感した私は、ここにいるのは得策じゃないと追うように教室から出て行った。もう、逃げるしかない。



    ✽✽✽


    「先生…っ、…先生……せんせ…っ……!!」
    「ん…、大丈夫だから……ディミトリ…」

    泣き崩れるディミトリ君を、先生の白い手が優しく撫でる。

    私は、呆気なく捕まった。

    寮から荷物を抱え、部屋を出ると待ち構えていたシルヴァンとその幼馴染みに有無を言わさずに先生の居場所を問い質された。あの時と同じ、冷たい笑顔。私は決して言うもんかも歯を食いしばったけど、ブレーダッドの盾であるフラルダリウスの後継者の剣が向けられた瞬間、死を実感した。

    崩れ落ち、先生の居場所を言うと「イングリット、すぐに殿下の元へ。お前の天馬が一番早い」と言う指示にイングリットが駆け出す。そして私は彼に捕まり、変わらない笑顔のまま「じゃあ、行こうか」と手を引かれた。

    着いた先には、案の定私の依頼した男達に嬲られている先生がいた。私があげた魔法具の影響で、紋章の力を封印されていたのだ。それから男達が各々用意した薬や媚薬だろう、それを使わないとこの元傭兵は屈する事などない。服を引き千切られ、布切れだけを身に纏う姿に好き放題させられて、それだけ見られて満足した……と思うと、何故かどうも違う。

    この空間に感じる臭いは、青臭いというより血生臭い。よく見るとディミトリ君の白い頬や制服に鮮血が飛び散っている。私が視線を向けようとしたら「見ない方がいいよ」と声を掛けられる。

    「それ以上は。君、実地訓練あんまり参加してないから、死体に免疫ないでしょ?」
    「っ…!!」

    暗がりの先に見える血溜まりと、全く動かない人間の手。そしてシルヴァンの言葉に何を指すか理解すると、込み上げる吐き気。縛られている両手でなんとかその衝動を押さえ付ける。死体…殺した…、ディミトリ君が殺した。彼は確かに王国の王子として、戦場にも出ている。人を殺すのにも…それを実感して、背筋が凍り付く。

    「だから俺、忠告したよね?殿下を怒らせない方がいいって…」
    「ぁ……あっ……っ……」
    「…既に大司教殿には通告してある。本来なら王国の民がした所業だが、ここはガルグ=マク大修道院の敷地内。裁きは大司教殿からになるだろう」

    膝から崩れ落ち、頬から伝う涙を拭うことさえ出来ない。負けた。彼を…ディミトリ君の為を思ってした事も、ディミトリ君への想いも…彼が先生に向ける恋幕も全て叶うはずもないものだった。私は初めから叶うはずもない人を好きになってしまっていたのだと、思い知らされた。

    「…殿下、これを。私ので申し訳無いのですが…」
    「ドゥドゥー…ありがとう、助かる」
    「せ、先生…!今、メルセデスが来ますからもう少しの辛抱ですよ…!!」
    「アッシュ…それにドゥドゥーも、ありがとう…」

    ディミトリ君の従者が制服の上着を脱ぎ、先生の身体に掛ける。心配そうに見つめる彼は平民の出……いつの間にこんなに仲良くなっていたのか。それも全部この先生の力という事なのか。

    「…ディミトリ、流石に歩けるから…」
    「駄目だ。お前はもっと自分を大切にしろ。なにより顔色が悪い」
    「そうか…?変な物を飲まされたからかな…。それに傷の治りも遅くて…」

    大の男を軽々と抱き上げ、目の前で繰り広げられる会話に耳を塞ぎたくなる。縮まる距離に、彼に触れるなと叫びたい。時期国王が民を裏切る行いだと、罵倒したい。だけど私には、もうそれが出来ない。敗北者に、残された道などないのだ。

    「多分、この指輪のせいね…。呪具魔導の指輪ね〜」
    「メーチェ、それって紋章の力を封印するやつだよね?初めて見た…」
    「えぇ。先生の紋章の力が発揮出来ないから、傷の治りも遅いのね。さ、ディミトリ。先生の傷を診るから、こっちへお願い」

    メルセデスが私が先生にあげた指輪を抜き取る。アネットの言った通り、呪具の一種である指輪は、見慣れない闇商人から買ったものだ。こつこつとブーツを鳴らし、扉の入り口まで来るディミトリ君を見ることが出来ずに私は項垂れる。

    「殿下、首謀者は彼女です」
    「……まさかとは思っていたが、自学級の級友とはな…」
    「ふん。少しはお前に否がある事を自覚しろ、猪め」

    シルヴァンとフェリクスに挟まれ、私はもう死を覚悟した。それと同時に気づく。彼になら、殺されてもいいと。片想いではあったけど、好きな人に殺されるなら本望だ。私は口を引き結んだ。

    「何故、この様な事を?」
    「……私は、貴方を好いていました。だけど、貴方の好いている人は先生だと知って悲しくなりました。ファーガスの時期国王が師を、そして男性に恋をしている…。それを知った民のひとりである私はそれを見逃す事が出来なかった。だから先生に消えて欲しかった……」
    「………御忠告、しかと受け取った。ただ、やっていい事と悪い事の分別ができない程、君も愚かではないだろう」

    吐露する言葉に、彼は苦い笑みと共に私に背を向ける。恋をした碧眼は昔と変わらないのに、やはり先生へと向ける輝きは私にはない。もう、死ぬしかないのだ。そう思って隠し持っていた短剣をスカートの中、太腿のベルトから抜き喉元に立てようと振り上げた瞬間だった。

    カチャン!

    ぶつかる金属音が、薄暗い室内に響く。

    「…だ、めだ…」
    「先生!薬が抜けていないのだから無理に…」
    「へいきだ…指輪がなくなったから、紋章の力でな……」

    からんからんと床に落ちる2つの短剣。自身の振りかざした短剣と共に別の…黒い柄の短剣は先生の物だった。引っ掛かる様に服にあったそれを、私に向かって投げたのだろう。上手く相殺して私は自身が振りかざした短剣で絶命する事が出来なかった。

    メルセデスに身体を支えられて上半身だけ起こした先生が、息も絶え絶えに私に訴える。

    「例え君が、…俺を嫌っていたとしても……俺は、君の担任だ。俺のいる間は殺させやしないし、死なせはしない……」

    完敗だった。今度こそ、本当に。私はこの先生を見縊っていた。本質を見抜けていなかった自身に涙が出る。私が好きなディミトリ君が、何故この人に惹かれたのか身を持って知った。過ちを犯しても尚変わらずに私を生徒と捉える彼に、もう憎しみなど向けられなかった。

    「…この件はレア様に委ねる。連れて行け」
    「了解」
    「チッ……」

    力無い足を立つように促される。私に更生の余地などあるのだろうか。ぼんやりとした意識のまま、手を引かれる。

    見上げた空は酷く綺麗で、好きな人の瞳を思い出してまた涙が溢れる。否、はじめから私は彼を好きになる資格などなかったのだ。

    だからせめて最後に、彼が好いた人と共に幸せになれる事を、天上の女神に祈る事しか出来なかった。



    私だけの王子様
    (ありがとう、さようなら。私は貴方の幸せを願っています。)



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