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    現パロ再録
    報復弁当なディミレト

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    漸く終わった仕事に、腕時計で現在時刻を確認すれば昼の正午を通り越していた。休憩時間の為にデスクに置いてあるランチトートを片手に、ディミトリは配属部署のオフィスから出て行く。

    昼時間をとうに過ぎていたせいか、食堂は閑散としていた。これならゆっくり昼食を摂れると空いている席に適当に座る。持って来ていたランチトートから弁当箱を取り出すと、頬が緩む。この弁当の中身を作った人を思い出したからだ。

    その弁当を作ったのは、かつてディミトリの高校の頃の家庭教師で有り、現在は恋人として同棲をしているベレトだ。大学進学後、親を説得してひとり暮らしを始めた。それからたまにベレトが泊まりに来るようになったのだが、彼が行き来する時間も惜しくて半ば強制的に同棲に押し込んだ。親には「俺の不出来で先生がルームシェアをしないかと誘ってくれたんだ」と嘘を告げれば、息子に甘い父親は「ベレト先生と一緒なら安心だな」というお墨付きで誰にも邪魔をされる事なく、現在もベレトと仲良くひとつ屋根の下で暮らしていた。

    そして現在。大学を卒業後、ディミトリは父親の会社を継ぐ為に身分を隠してその下請けの会社に就職した。どの様な仕事でもこなせる様に父から言われたのである。慣れない仕事に早3ヶ月が経とうとしていた。

    「あれ? 殿下じゃないですか〜今からお昼なんです?」
    「! あ、ああ…シルヴァンか」

    背後から懐かしいあだ名で呼ばれて、大袈裟に肩が跳ねる。振り返るとそこにいるのは、赤毛を揺らした幼馴染みの兄貴分がいた。シルヴァンである。彼は、ディミトリの父が経営する下請け会社のひとつで幼い頃からの付き合いである。

    彼の他に、ディミトリには数人の幼馴染みがいる。その時に幼馴染みの父親から何故か「殿下」と呼ばれていたのがシルヴァン達に移り、現在も幼馴染みにはそう呼ばれていた。そしてディミトリは現在、シルヴァンの会社で働いているのだ。つまり、ディミトリの素性を知るのはシルヴァンとその家族や上層部の数人しかいない。シルヴァンは食堂で頼んだチーズグラタンをお盆に乗せながら「隣、良いですか?」と人付きのある笑みを浮かべている。断る理由はないので頷けば、「あ、出た」と声が続く。

    「愛妻弁当〜! いや、ほんと23歳の新社会人が持ってきちゃいけないやつですね」
    「あ、あいさ…!?」
    「だってそうでしょ? 大好きな大好きな先生が作ってくれたお弁当ですもんねぇ」

    隣から入る茶化すような声に顔を赤く染める。シルヴァンに指摘されて思い出すが、会社に持って来るとこういう目で見られているのかとディミトリは少し反省する。本人は気づいていないが、見た目がお伽噺の王子様と昔からよく言われていたディミトリは、社会人になってからもそれは変わらなかった。

    新入社員の年若い男に、配属先の女性陣はすぐに目を奪われていた。しかし彼が今時の新入社員にしては珍しい弁当男子であり、更にいつの間にかその弁当が恋人の手作りというのもバレているのだ。元々浮いているのに更に浮いてしまっていた。

    「それは…、その……否定はしないが………」
    「ほんっと、俺の部署の女の子たちも泣いてましたよ〜。“ディミトリ王子のお弁当が明らかに恋人の手作りで、すぐに脈がないのがわかった”って」
    「い、いつの間にそんな…」
    「女の子たちの情報網を舐めちゃいけませんよ〜本当にこわいこわい」

    シルヴァンはそう言いながら「いただきます」と手を合わせると、チーズグラタンを食べ始める。ディミトリは改めて、社内の人物から向けられる好奇の視線の意味にそうだったのかと頷くと、自分も早く弁当を食べてしまおうと蓋を開けた。

    「………え……?」

    蓋を開けたその先に広がった光景に驚愕する。大き目な弁当箱にぎっしりと敷き詰められた白米。その白さに唖然とすると、海苔で器用に切り取られた「(´・д・`)バーカ」という文字に目がいく。蓋を持ったまま停止しているディミトリに気づいたシルヴァンが、そっとその弁当の中身を見て吹き出す。

    「な、なんですか〜これっ!! 傑作!!」
    「っ〜………!!」
    「これはあれですね。昨晩、先生とケンカしたんでしょう?」
    「うっ、何故それを…………」

    真っ白な米粒がきらびやかに輝く上に乗り、更には海苔で器用に切り取られた文字に笑うシルヴァンは、すぐに何があったのかわかってしまったのだろう。彼の言葉にディミトリが項垂れると「実はそうなんだ……」と力無く返事をする。

    「昨晩、……先生の帰宅が遅くてな。それを窘めたら、まぁ……。よくよく考えてスマホを見返したら、先生から講義のレジュメ作りで遅くなるという連絡もあって……」
    「うわ〜。それ殿下がいけないやつじゃないですか」
    「ああ……今思い返しても俺が悪い。仕事の疲れも相まって、つい怒鳴ってしまって」
    「あっちゃぁ〜……。それ先生じゃなかったら、出ていっちゃうんじゃないですか?」
    「……返す言葉も無い…」

    ケンカの原因をシルヴァンに説明すると、彼は呆れている。本当に返す言葉もなかった。慣れない新社会人生活が続き、ベレトも時期的に多忙を極めていてお互いにすれ違いがあった。しかしそんなディミトリが、仕事のせいで食事を疎かにする事をわかっていたベレトは、自身の帰宅が遅いのにも関わらずに翌日の弁当の仕込みを夜中にしていた。本人は「朝ご飯の下ごしらえも出来るし、俺も弁当を持って行くから良いんだよ」と笑って言っていたのを思い出す。

    大学の頃はたまにベレトが弁当を作ってくれていたが、社会人になってからは別だった。もうそれは、毎日の様に作ってくれているのだ。ディミトリは育ちの良さと、不器用さも相まって料理が滅法苦手であった。何とか洗濯と掃除はディミトリも手伝えるレベルになったが、やはりベレト頼みになってしまう事が多い。自分に出来る事は資金面ばかりで、そこは申し訳無いと思うもベレトもベレトで「年下に家賃を全部払わせるのは、年上の威厳に関わる」と言われて泣く泣く折半をしている。(しかしベレトからもらっている分は、将来の貯蓄にしているのはここだけの話だ)

    「それにしても、可愛らしい抵抗ですねぇ〜愛されてるなぁ殿下」
    「……そう、か…?」
    「そうですよ〜。はぁ、新社会人なのにもう奥さんがいるなんて将来が安泰ですね〜」
    「お、おく……!?」

    飲んでいた茶を勢い良く溢しそうになった。ディミトリは隣でにやにやと笑っているシルヴァンを睨むと「だってほんとの事じゃないですか」と彼は言う。その言葉をもう一度咀嚼してみると、何故か顔が熱くなる。そう言われてみれば、そうなのか。他人から見たらそうなのかとディミトリが気づくと「帰ったらちゃんと謝らないとだめですよ〜」と言う赤毛の兄貴分に「わかっている」と言って、漸く弁当に手をつける。

    「……………白米の下に、何かある…?」
    「へ? ん、これは……」
    「……に、肉…なのか……?」
    「ぷっ…! 手が込んでますね〜ちゃんと下におかずが入ってるって、逆に大変だ」

    びっしりと敷き詰められた白米の下、そこをつついてみると感触が違うことに気づいたディミトリはそっと(礼儀作法的にはよろしくないが)穿り返してみると、見える肉たち。それはベレト手製の豚の生姜焼きで、シルヴァンの言う通り、ちゃんとおかずが入っていたのだ。

    「あ〜笑った……。やっぱり何だかんだで優しいんですね。はーごちそう様です」
    「……すごくしてやられた感じがする」

    何だかんだで目の前で惚気けられたと気づいたシルヴァンがそう言えば、ディミトリは顔を赤く染めて沈んだ。まだ白米に書かれた「(´・д・`)バーカ」の文字は残っている。ベレトの心理がわかった今、とにかく早く帰りたくて仕方が無かった。一先ず今日もちゃんと美味しい弁当を作ってくれたベレトに感謝しつつ、しっかりと味わおうとディミトリは決めたのだった。


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