かぞくのとびら(The way to say I'm home.)11.
オートロック無し、エレベーター無し、そこそこ築浅の鉄骨3階建て。悠仁の家はごく普通の1Kの単身者用アパートだった。
うちに来た帰りに車で近くまで送ったことは何度かあったけれど、中に入るのは初めてだった。車はすぐ近くの小さなコインパーキングに停めた。
「ここの3階」
エントランスの隅に何台か自転車がとまっていて、その一つは悠仁の赤いマウンテンバイクだった。
大人の男が二人並んで進むにはやや細い階段を上り、規則正しく並んだドアの先、角部屋が悠仁の部屋らしかった。
鍵を回しながら「どーぞ」と悠仁が言った。
「おじゃましまーす」
正方形の狭い三和土で靴を脱ぐ。パチ!と悠仁が電気をつけると、廊下というほどでもないスペースにおそらくトイレのドアと、脱衣場の無い風呂の折戸があった。反対側にはステンレスのキッチン。前に悠仁が言っていた通り、シンクがやたらと小さくて笑ってしまった。
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