四つ葉のクローバー ぽかぽかと暖かい日差しが差す平日の昼下り。子どもが遊び回る河川敷の側の土手をウララギはのんびりと散歩していた。
「子どもたちは今日も元気ですね」
賑やかな声に誘われるように視線を河川敷に移す。元気に走り回る子どもの姿に穏やかな日常を感じ自然と笑みが溢れる。ふと、緑に覆われた土手の坂道、橋の下の影になっている場所にぴょこんと見慣れた薄黄色のカラフルな毛玉が目に入った。ぴょこぴょこと揺れる毛玉は丸いしっぽで、心当たりのあるウララギはそのしっぽに向かって足を進める。
「ジャロップさん、何をしているんですか?」
「うわっ!?ウララギちん!驚かさないでよ〜」
「ふふ、すみません」
揺れていたしっぽはウララギと同じバンドメンバーのジャロップのものだった。急に声をかけられて驚いたジャロップは驚かされたことを対して気にした様子もなく、むしろウララギに会えたことを喜ぶように耳をピコピコと揺らしている。
「それで、何をしていたんですか?」
「えっとね、四つ葉のクローバー探してたんだ〜」
「クローバー、ですか」
「そ!四つ葉のね!」
ジャロップはジャププ!と笑いながらそう答える。
「今日休みだからさ、天気いいしお散歩しよ〜って歩いてたらここに辿り着いたんだよね。ここミドリ多いし久々に四つ葉のクローバー探しチャオ〜って」
「なるほど、ジャロップさんらしいですね」
にこにこと楽しそうに話すジャロップにウララギも頬が緩む。この土手はクローバーがよく生えている。四つ葉となればなかなか見つからないものだが、こうも多ければ探せばどこかに1つでも生えているかもしれない。
「僕もご一緒してもよろしいですか?」
「ウェイ♪もちもち!オレィたちでリカオちんとクースカちんの分も四つ葉探しチャオ〜!」
さらりと見つけるクローバーの数が4つに増えていることに笑うウララギ。いや、ジャロップのことだからもしかすると始めから4人分探すつもりだったのかもしれない。
「それは気合いを入れて探さなければいけませんね」
「ウララギちんが来てくれたからラクショーっしょ!」
そう笑ってふたりで四つ葉のクローバー探しに精を出す。ふたりだから話しながら探すのか思いきや、黙々とクローバーを探しているジャロップ。それを少し不思議に思いながらウララギも緑の葉っぱを優しくかき分けながら四つ葉を探す。しばらくすると、ジャロップが口を開いた。
「お客さんから聞いたんだけどね、四つ葉のクローバーって、日陰でよく見つけれるんだって」
「そうなんですか?」
「オレィも知らなかったんだけどね〜」
お客さんっていろんなこと知ってるよね、モノシリ〜。と緩く笑うジャロップ。
「それでね、その話聞いたときにオレィウララギちんのことが思い浮かんだんだ」
「僕の…?」
「そ」
ふたりの目線は地面、クローバーを探す手は止めずにそのまま話を続ける。
「前にウララギちん話してくれたよね。昔は悪いコトしてたって」
「それは……ええ、そうですね……」
「悪いコトしてたから日の当たる場所に出てこれない、ヒカゲモノ?だって」
昔、ウララギはとある組織に所属しており色々と手を汚していた。そのことはすでにジャロップにも、ヨカゼの仲間にも話はしている。今更ジャロップがそのことを攻めるとは思わないが、その時の話をされると突き放されてしまうのではないかと不安で胸が締め付けられる。
「ウララギちんはさ、四つ葉のクローバーなんだよね」
「え…?」
「夜風でさ、オレィたちが出会う場所を作ってくれた。オレィとか、クースカちんとか、繋がるきっかけを作ってくれたのはリカオちんかもしれないけどさ。ウララギちんのお店がなかったらオレィたち1ヶ所に集まってないし……みんなが会うこともなかったわけだし……ウララギちんは、オレィたちにバンドっていう幸運を運んでくれたってこと!」
突拍子もなく続けられた言葉にウララギの手は完全に止まった。ジャロップはそれに気付いているのかいないのか、四つ葉を探す手を止めずに話を続ける。
「オレィだけじゃなくってリカオちんもクースカちんもそう思ってるよ〜?もちろん、夜風のお客さんだって。どんなに暗い表情で来ても帰るときにはニコニコ笑ってるじゃん!」
「あったー!」と大きな声をあげて四つ葉のクローバーを摘むジャロップ。摘んだクローバーを大事そうに手で持ち、地面から顔を上げてニイッと笑いながらウララギと目を合わせた。
「日陰にいても見つけてくれたミューモンに幸せを運んでくれる、だからウララギちんは四つ葉のクローバーみたいなんだよね!」
「……そんな大層なものじゃありませんよ」
「ジャププッ!ウララギちんはそう思わなくてもオレィにとってはそうなの〜!」
「はい!」と差し出された四つ葉のクローバーを手に取る。「オレィ落っことしちゃいそうだからウララギちん持ってて!」と言われ、確かにジャロップが持っていたら探すのに夢中になって落としてしまうのが想像でき、笑いながら承諾した。
――それにしても。
「僕にとっては皆さんが四つ葉のクローバーなんですけどね」
「え?ウララギちんなにか言った?」
「いえ、あと3つ見つかりますかね?」
ヨユーっしょ!と言うジャロップと顔を合わせて笑う。ウララギにとっては3人と出会えたことが、こんな自分を受け入れてくれた3人が幸せを運ぶ存在であり、その中に自分が入っているなど思いもしなかった。しかしジャロップがそう言うのなら少しでも誰かを幸せにできているのかもしれない。
――そうだ、今度新しいデザートを作ろう。僕たちのバンドをモチーフにして。
―――――その名前は。