外に出ると、暦に似つかわしくないどんよりした雲が広がっており、水分を含んだ重たい空気がまとわりつくようだった。
息を吸い込むと、鼻の奥に抜ける夏の香り。
「ん。雨の匂いがしますね。」
「夜に雨が降るかもしれません」
「お祭りの気分です」
「お祭り…ですか」
浮き立つ心で隣を歩く彼を見ると、きょとんとした表情だった。ぱちぱち、と瞬きをしている。
「覚えてますかねえ…手塚くんと昔、お祭りに行ったじゃないですか。部活の帰り」
「はい、あの…中学の頃。途中で雨が降ってきてしまった…」
「そう!あの日も部室から出たらこんな匂いがしていたんです。雨が降りそうだからって、君も早めに切り上げて…すごく楽しかったなぁ。」
「まさかあんなに急に土砂降りになるとは思いませんでした。」
土曜日の部活の後、午後まで残っていたのが手塚くんだけだったから。楽しみにしていた近所のお祭りに、一緒にどうかと誘ったのだった。
「あの日は家に帰ったら母に驚かれました」
「ふふ、僕もです。傘差す意味ないぐらい降りましたもんねぇ…りんご飴片手に全身びしょびしょで呆然とする手塚くん、雨降りそうな日はいっつも思い出しちゃいます」
絵が描けそうなくらい。というと彼はちょっと困った顔をした。あ、いや、どちらかというと恥ずかしがっている顔かもしれない。
「…あの、今日も…、」
「ん?」
「今日のことも、いつか思い出してくれますか。」