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    らなこ

    @in_ranar

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    らなこ

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    こっちも書いた

    冬の待ち合わせする現パロの土斎の斎視点『悪い、遅れる』
     そのメッセージが送られてきたのは、斎藤が到着してから二十分ほど経過した頃。ここまできたらいくら待とうが一緒だと、すぐさま『了解』のスタンプを送り返した。
     とは言え約束の時間自体はまだ数分先だ。久しぶりの恋人とのデートに浮かれまくって、斎藤の方が早く来すぎてしまったのである。
     学生の身分である斎藤と違って、やり手のエリートサラリーマンの土方はいつも忙しい。スマホでやり取りはできても直接顔を合わせるのは先月ぶりだった。多忙な中、斎藤のために時間を割いてくれるだけでもありがたいのだが。
     不意に彷徨わせた視界の中に喫茶店が入った。流石にこのまま寒空の下、待ち続けていては凍えてしまうだろう。何か暖かいものでもと自然に足がそちらに吸い寄せられる。
     店の中に入ればやや効きすぎた暖房が斎藤を出迎えた。冷えてこわばった身体が少しほぐれ、無意識にほっと息を吐く。
     土方がどのくらい遅れるのかは見当もつかない。要件は電話で伝えてくることの方が多い彼が、メッセージだけというのはそれだけ手が空かないのだろう。それならば連絡があるまでここで待っているべきだと思えた。
     とりあえず注文したホットコーヒーを受け取って、窓際のカウンター席に腰を下ろす。しかし窓の向こうは行き交う雑踏に遮られて駅の方がよく見えない。どうにか頭を動かしてみるが、隣の客に不審そうな視線を向けられているのに気づいて大人しく席に収まる。
     それでもやはり、どうにも気になって、結局斎藤はすぐに席を立った。
     いつも待ち合わせの目印にしているカラクリ時計の横。ここからなら駅の改札までよく見える。
     SNSの投稿をスクロールしながら、人の波が出てくるたびに見知った顔を探して、いないとわかればまたタイムラインに視線を戻した。通話アプリに着信がないかと忙しなく開いては閉じるも繰り返す。
     そうしてどれぐらい経っただろうか。飲みかけのコーヒーはすっかり冷めて、スマホを持つ手もかじかんできた。どんなにスクロールしても動かなくなったタイムラインに辟易して、画面を切ろうとした瞬間――待ち望んだ着信がポップアップした。慌ててタッチして、けれど焦りを感じさせないように「はいはーい」とあえてのんきに答える。
     スマホ越しに聞こえる声だけで胸がキュンと高鳴って、斎藤は駅の方へ顔を向ける。と、高そうなコート姿の待ち人が見えて、招くように片手を上げた。
    「土方さん、こっちこっち」
     向こうもほぼ同時に気づいたらしく、足早に近づいてくる。
    「遅くなって悪かったな。待ったか?」
     遅れたことを詫びてくる土方に、勝手に二十分追加で待っていたなんておくびにも出さず、斎藤は肩をすくめてみせた。
    「いえいえ、僕も今来たとこなんで」
     けれどそんな虚勢は簡単に見破られたようだ。
    「嘘をつけ」
     土方は自身のマフラーを解くと、斎藤の首に巻き付ける。ふわりと、鼻先を土方お気に入りの匂いが掠めた。そしてスマホをしまおうとする手を捕まえて、
    「いったいいつからいたんだ。店の中で待ってろよ」
     風邪をひきたいのかと嗜められ、つい気恥ずかしいさにはにかんでしまう。
    「ここなら駅から出てくる土方さんをすぐ見つけられるじゃないですか」
     本心を言った途端、ぎゅっと掴んだままの手を握り締められた。
    「あ、ちょっと、人が……」
    「誰も見てやしねえよ」
     男二人が手を握り合ってるなんて周囲から変な目で見られないだろうか。そんな斎藤の心配などお構いなしに、土方はその手を自分のポケットへと招いた。
     ブワッと体温が一気に上がる。冬の寒さなど一瞬で吹き飛び、頭から湯気が出そうだった。
     思わず固まってしまいそうになる斎藤を土方は無理に引っ張って歩みを進めた。
    「おら、とっとと行くぞ。ただでさえ遅れてんだ」
    「そりゃあんたのせいですけどね」
    「うるせぇ、これでもお前に会いたくて死ぬ気で終わらせたんだ」
     会いたくて堪らなかったのはお前ばかりじゃないぞと暗に言われて、斎藤は「おごぁ……」と声にならない呻きを上げることしかできなかった。
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