無題side、M
見てないものは、存在しないものなのだ。
例えば、本に出てくるペガサスやゴブリン。あれは誰かが創造し書いたものであって、本当は存在しない。もしかしたら自分たち吸血鬼なんて存在がいるのだから、知らない世界のどこかにはいるのかもしれないが、その姿を実際に見るまでは創造と現実の狭間の存在でしかなく、ならば、それは存在しないものでいいんじゃないだろうか。
見てない、聞いてない、知らない。
その三つが揃えば、少なくともそれはミカエラの中では存在しないものだ。
「ミカエラ」
囁く声が生ぬるい吐息と共に耳に流し込まれ、寝巻きのシャツの裾から入り込んだ手が腹を撫でる。かさついた指の皮が薄い皮膚を滑る度に、ミカエラはまるで肌を数千の毛虫に這われたような感覚になったが、それを表にはおくびにも出さず、耐えて眠っているふりを続ける。
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