Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    終始.

    @ohasyu1116



    えふいー関連おえかきもそもそしてます

    ※背景はフリーのものお借りしています!※


    ぴくしぶ : https://www.pixiv.net/users/7519885
    たいっつ : https://taittsuu.com/users/ohasyu/profiles
    すけぶ :https://skeb.jp/@ohasyu1116
    ついった : @ohasyu1116

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 85

    終始.

    ☆quiet follow

    尻切れトンボ状態になってしまったヘルユルSS供養

    #FEH

    へいわなせかい


    「あーっ、忘れ物しちゃった……ごめんなさいっ、すぐに追い駆けるから先に行ってて~」

    「あぁ? 何を忘れたってんだよ」

    「お弁当~!」

    「いっちばん重要なモンを忘れてんじゃねーよ! クソガキ!」

     賑やかなやり取りが静かな庭園に響き渡る。返答待たずに駆け出し、あっという間に城内へと消え行く小さなユルグの背を、盛大な溜息を持って見送ったヘルビンディは、やれやれとばかりに傍の花壇縁に腰を下ろした。
     そろそろ花も咲く頃、日中ならば未だ風は冷たくとも日射しは暖かい。厳しい寒さの続く冬は終わり、もうすぐ春がやってくる。となればピクニックがしたい、遠出は出来なくとも、せめて城の庭園で弁当を食べるくらいは良いだろう……などと散々に強請り倒され、他を当たれと言っても聞く耳持たれず、遂には引き摺られて来た ── こんなにも小さな身体であるのに、鍛え上げている己を引き摺るとは化け物かとも思ったが ── その結果が、これか。もう一度溜息を吐いたヘルビンディは、暇を持て余して天を仰いだ。

     雲ひとつ無い青空には鳥達が悠々飛び回り、時折歌のひとつも挟んで楽しげだ。ヘルビンディが生まれ育ったムスペル王国は灼熱の国で、火山も複数あり、空には常に重たげな雲や灰が散っていた。青空なんて見た事も無かったし、飛び回っていたのは死臭を探る鴉くらいだった。何か塵でもぶら下げているのかと思えば、散々に弄んだ死骸を巣に持ち帰る凶悪な飛竜を見た事もあった。それが獣だったのか、もしかすると人だったのかは定かでない。そこまで気を回す余裕は無かったが、然し明日は我が身と肝を冷やしたものである。
     そんな荒れた故郷と比べると、此処はまさに天国そのものに思えた。自分が向かうのは地獄だと思っていたし、そちらの方が相応しい筈。なのに今こうして、ぼうっと呆けて青空を眺めている現状に失笑する。声を押し殺しながらも一頻り笑ったところで、一息吐いた。

    (……アイツにも、見せてやりたかったな)

     改めて青空を見上げれば、ぼんやりと思い浮かぶものがある。最愛の妹、メニヤの姿。戦乱に巻き込まれ命を落としたと聞いたし、またヘルビンディも戦の最中に身を置いていた為、遺体の回収すらままならなかった。とはいえ暴君の業火に焼かれたとの話であったので、もしかすると亡骸は元より回収する事が叶わなかっただろう。全てに置いて悔いが残る。
     ヘルビンディは、彼女を護る為だけに生きてきた。妹の為なら何だってするし、何だって出来た。絶望しかない世界の中で、たったひとつの生きる希望であり、ヘルビンディのすべてであった妹、メニヤ。そんな彼女を護る事が出来ず、喪い、弔いすら満足に行えていない。自分は此処でこうしてのんびりと構えてしまって良いのだろうかと焦燥に駆られる。
     しかし、彼もまた酷く傷ついていたし、疲労は相当なものだった。直ぐに立ち直る事も、行動を選択する力も、回復が追いつかない。妹を喪った衝撃も大きければ、一度命を落としてもいる。メニヤの仇である暴君に一矢報いる事は出来たが、己の命を代償としてだった。そうして、てっきりそのまま地獄へ逝くものだとばかり思っていたが、次に目を開いて見たものは、何とも間の抜けた顔だった。
     己を喚び出したにも関わらず、驚いて腰を抜かしている姿を見て、先ず呆気に取られたのを思い出す。アスク王国の、召喚師。死んで地獄へ向かう己を引っ張り上げ、再び現世へと喚び覚ました者 ──

    「ごめんなさ~い! 先に行ってくれても良かったのに!」

     ──明るい声がヘルビンディの耳に飛び込んできて、彼はハッと我に返った。相当に急いで来たらしく、弁当が入っているのだろうバスケットを抱えて走ってくるユルグの顔は、真っ赤だった。
     そうしてヘルビンディの前までやってくると、はーはーと何度も上がる呼吸を繰り返し、己を整えようとしている。そんなに焦る事も無いだろうに、とヘルビンディは呆れ半分、ユルグが落ち着くのを待って、彼女からバスケットを取り上げた。小柄な彼女が持つには大きすぎるものだったから、せめて、と無意識にも働いた結果だった。ユルグは少し驚いた様子であったが、次いでにっこりと嬉しそうに笑う。

    「たっくさん作って貰ったから、たっくさん食べてね!」

    「元よりそのつもりだ、無理矢理付き合わされているってのに、見返りが無いなんざやってられねえしよ」

    「……ふふふっ」

    「んだよ」

     ユルグは悪態を吐くヘルビンディを一度見上げた後、少し可笑しそうにして声を弾ませた。そんな彼女にヘルビンディはまたぶっきらぼうに問うも、なんでもない、と笑いながら歩き出すユルグ。先程まで顔を真っ赤にして息を切らしていたというのに、もう復活しているのだから、子供の体力とは実に無尽蔵なものだ。

     庭園の中央には噴水があった。ユルグはバスケットから大きなシートを取り出すと、それを噴水の傍に敷き、腰を下ろす。ヘルビンディも彼女に続き、対面の位置に胡座をかいた。満を持して、バスケットから弁当が取り出される。具沢山のサンドイッチ、ポットに詰められた紅茶。瑞々しいフルーツなどもあって、それはそれは豪華な弁当だった。
     早速と手を伸ばすも、ユルグに窘められる。食べる前は、挨拶をしてから。面倒臭い、何とも躾の行き届いたものだ、とヘルビンディは鼻で笑った。

    「氷竜ニフルよ、あなたの御恵に心から感謝致します。 体の糧が心の糧ともなりますよう、祝して下さい。 ……いただきます!」

    「…………」

    「……いただきます!!」

    「はいはい、……いただきます」

     小さな手を合わせて祈りを捧げるユルグをぼんやりと眺めていたヘルビンディだったが、彼女の睨みが飛んでくれば、また鼻息一つ、おざなりな挨拶を返した。ユルグは少し不満そうであったが、彼女も空腹だったらしい。反論は無く、いそいそとサンドイッチに手を伸ばした。ヘルビンディも続く。
     彼が手に取ったのは、肉汁詰まるローストビーフサンドイッチだった。ボリュームも勿論、一口で食べるには惜しい程の濃厚な味わいだ。その隣は新鮮な野菜とチーズをふんだんに使ったサンドイッチ、その隣はポテトサラダ、その隣は……と、目も楽しませてくれるラインナップだ。確りと味わい、舌鼓を打つ。

    (あいつにも、食わせてやりたかったな)

     指についたソースを舐め取るヘルビンディが脳裏に浮かべるのは、妹の事だった。故郷では食べるどころか、存在すらしなかった、温かく柔らかで、味のある食事。幸福の象徴に触れるたび、密かに胸が痛む。苦しくて、申し訳無くなる。それを誤魔化すように、紅茶を喉奥へと流し込んだ。

    「やっぱり、兄様には会えないかぁ」

     唐突なユルグの呟きが耳に入った。本当に脈絡の無いものだったので、やや驚愕も入り、おかげで自責の念を少し流す事が出来た。いきなり何だよ、と問いかければ、ユルグは小首を傾げて見せる。

    「最近、兄様はよく此処に出掛けていたみたいだから、会えるかな~って思っていたんだけど」

    「だったら俺を無理矢理連れて来るんじゃなくて、てめえの兄貴と此処へ来れば良かったじゃねえか」

    「あなたとピクニックしたかったから、それはいいの。 ……それに、兄様はいつもこっそり出掛けていたから、声を掛け辛かったし」

     そこまで言って、ユルグはちょっぴり寂しそうに肩を竦め、サンドイッチを食んだ。
     ユルグの兄、フリーズ。ヘルビンディは彼とあまり接触しないが、二、三言くらいなら挨拶を交わした事はある。それも矢張りユルグに無理矢理引き摺られての事だったが。
     嘗ての侵略対象であった国の第一王子である彼と、一応は将という位置を与えられてはいるが、最下層の人間である自分が対峙したとして、何を言えばいいのか解らず、大層困った覚えがある。面倒臭くて仕方無かったが、フリーズの方はそうでもなかったように思えた。
     彼が大切にしている妹が、友人を紹介しに来た。その事項だけに、注視している。そんな印象を受けた。己を見ているのに、その視線は己を捉えてはいない。ヘルビンディ自体には、興味を持っていない。凛とした佇まいがそう思わせるのか、否、ヘルビンディはこの感覚を以前にも受けた事があった。

    (そう、何となく、だが…… “王” によく似ている目付きだった)

     フリーズと、自国の王を重ねれば合点がいった。まるで似ていない二人だ、対極そのものであるのに、何故だか同じように思える。王族とは皆こういうものなのだろうか、と、目の前に居るユルグを見て、直ぐに頭を振った。あの二人が異質なだけだろう。
     自国の王、スルトは人を人とも思わず扱わずの暴君だ。自分の事など、塵としか見ていない。対してフリーズはどうだ、己の国や民を心から愛している優れた王子と聞いていたし、実際に対峙して、貧民街出であり敵国の民である自分にも構わず声を掛けてくれる。分け隔て無くというのは誰しも出来るものではない、そこは流石というものだし、立派だとも思えたが、ならば何故、フリーズとスルトを重ねて見てしまうのだろうか。

    (……感情っつーのか、人間味っつーのか、それが無い所為、なのかね)

     パン続きでパサパサに渇いた口内を、温かな紅茶を流し込んで潤す。爽やかながらほんのり甘味のあるそれに、口だけでなく気分も癒えた。

     何者であろうと構わず焼き尽くす炎の王、対して何者であろうと構わず凍らせる氷の王子、そうだ、二人は対極ながらも、よく似ている ──

    「あーっ!!」

    「うわビックリした! いきなり叫ぶな! 何だ! うるせえ!」

     廻らす思考はユルグが挙げた突然の大声で断ち切られた。跳ねた心臓、胸元を抑えながら咄嗟に言い返すヘルビンディだったが、ユルグは反省の素振りすらなく、にこにこと満面の笑顔を浮かべている。

    「それ! やっぱり好きなんだね」

     ユルグが指したのは、ヘルビンディが手にするサンドイッチだった。生クリームたっぷり、苺サンドイッチ。

    「さっきからそればっかり食べてるもの。 えへへ、嬉しいなぁ気に入ってくれて。 それね、私が作ったんだよ~」

     笑顔はますます強さを増し、輝いている。故に眩しさと、そして気恥ずかしさを覚えるヘルビンディは、そっぽを向いた。

     そうかよ、旨いよ。 そう、ぶっきらぼうに返して。


    Tap to full screen .Repost is prohibited

    related works