ナルトがおうちにきたよ! かわいいね!「そういやオビト、カカシ先生がお前と付き合い始めたって言ってたんだけどそれってマジなやつか?」
久々に訪ねてきたナルトを居間に案内して共に茶を啜っていたところ爆弾が投下された。思わず持っていた湯呑みを取り落とすところだった。危ない危ない。
というかあいつなにナルトにバラしてやがるんだ。普通に考えて、誰かに言うわけがないと思ったからオレたちの関係を口外するなと言わなかったんだがそれが悪かったのか? いやどう考えても口が軽いあいつが悪い。きっと浮かれきった頭のままかわいい教え子に会ったから「ねえねえナルトー聞いて聞いて〜♡」みたいなノリで話したに違いない。だらしねえ。
「なーなーどうなんだ? 仲良くしてんのか?」
そしてなんでそんなこと気にするんだナルトよ。オレとカカシが仲良くしていようがしていまいがお前には関係が……いやまあちょっとはあるが、男同士乳繰り合っているかどうかの確認はしなくてもいいんじゃないのか。
どう答えたものか。「それは違う」と否定したあとにつきものの説明が面倒だし、あながち間違いでもないのだからここは「そうだ」と頷くのが適切なのだろう。
しかし……しかし。素直に問いかけに肯定してやるにはちょっとした恥じらいがつきまとう。如何に戦場で半裸を晒したり心の内を覗かれたりした相手とはいえ、流石にためらいが生まれるというものだ。
「で、どうなんだってばよ」
「いや、その……」
「さっきからイヤソノアノエット、そんなんばっかじゃねーか。単純にオレはカカシ先生と付き合ってんのか、仲良くできてるのかって聞いただけなのによ」
仲良く。仲良く……はない。きっとない。世間一般のなかよしとは、朝起きてすぐ寝床に潜り込んで鼻息荒くなっている友人を蹴り出すことから始まりせっかく風呂で一日の汚れを流したあとなのに意図的に汚そうとしてくる友人の頬をぶつことで終わることではないと思う。よくくだらない言い争いもするし。
ただ、互いに口論や喧嘩を引きずるタイプではないから数分したら元通りなわけだし、険悪なわけでもない。
うん、悪くはないのだ。
「仲良く……はない。悪いわけでもない。普通だ」
「ふーん。んで、付き合ってんの?」
「なぜそこまで聞きたがる……」
「いやそれ報告してきたカカシ先生があまりにも気持ち悪いはしゃぎようだったから」
かわいい教え子から気持ち悪いって言われてんぞバカカシ。さぞ傍から見てやばいテンションだったんだろうな。
「だらしないクズめ……それを聞いてお前、どうするんだ。周囲に広めたりはしないだろうが」
「いや、本当に付き合い始めたなら一楽のラーメンでお祝いしてやるってばよ」
「なぜに」
いやマジでなぜに。茶化すでも揶揄うわけでもなく至極大真面目な顔で「お祝いしてやる」とはなんぞや。ロケーションに選ばれた一楽の親父さんは、器のでかい人だからなんの祝い事に駆り出されても変わらないでいてくれるのは分かるが……そもそもなぜ祝う。
「オレはカカシ先生はもちろんだけど、オビトにだってちゃんと幸せになってほしいんだ……付き合うことになったっていうことはお前、死にたがりは卒業したんだろ?」
「正確には死にたくとも死なせてもらえない、だがな」
「なんだっていい。お前にはまだ、あと三十年くらいは死んでほしくない」
はわわ。うっかりときめいてしまうところだった。危ない危ない。ナルトはオレが黄泉がえってからというもの、死にたがるオレを引き止めては「死ぬな」と力強く右手を握ってくる。どうも年々、力強さと暖かさを増すそれに弱くなってしまった。
オレが死ねば、オレが一度殺してしまったこいつの同期の忍やカカシの部下になっている青年の父ら、その他里内外の大勢の人間が同じく死に直してしまうという仙人の言葉を信じているのだとしてもだ。
「ナルト……その気持ちは、嬉しい。だが」
「だがもしかしもねーよ。なにを理由にしても構わねえ、なんならオレにしてくれてもいいって言ってたけど……カカシ先生を生きる理由にしてくれるんだったら、先生も絶対昔みたいな無理はしない。ええとイッセキゴチョウぐらいになるってばよ」
「……多くないか?」
「多くない」
で、結局どうなんだ? と振り出しに戻ってしまったので。
「付き合うの通り越して既に肉体関係を持っているし、カカシはオレの生きる理由にはならないがあいつが生きるのに付き合ってやるのは悪くない」と正直に告げるのだった。