Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    SA515space2

    @SA515space2

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    SA515space2

    ☆quiet follow

    お仕事するしらさめSS

    深夜。廃工場の中を走る人影。焦っているのか、時折足をもつれさせながらも転ぶことはなかった。必死に逃げ続け、幾つ目かの物陰に隠れる。息を整えながら、自らが来た方向の様子を窺う。必死に、紫色の行方を探す。
    「どこ見てんだよカス」
    背後から、聞こえてはいけない声がした。振り返るよりも早く視界は暗転する。二度と戻れない暗闇へ、名も無き裏切り者は落とされた。

    「ハズレ、か」
    今しがた作ったばかりの死体を漁る白百合。目的の物はなく、苛立ちながら死体を床に叩きつける。この日の“仕事”の対象は2人。ある物を盗み出し、逃げ出した裏切り者。そんな奴らの尻尾をようやく掴んだのが昼間の話。わざわざ捕まえる、なんて警察のように優しくしてやるはずはない。とにかく、雲隠れさせないためにも今夜中に蹴りをつけなければいけなかった。しかしこちらが目的の物を持っていないとなれば、片割れが本命であることは明白。
    (ゴミのくせに頭回りやがる)
    逃げることを目的としている以上、二手に分かれるのは当然ではある。それでもやられた側としては腹立たしいことこの上ない。煙草を取り出そうとポケットの中に手を突っ込むと、入れてあった端末が震えた。表示されているのは、場所だけが記された通知。それを見た瞬間、白百合の口から笑いが零れた。

    廃工場から数百メートル。コンテナや廃材が山積みにされている倉庫。広い屋内に、狭い道。そこを走る、今夜の本命。
    (おかしい、何かおかしい)
    逃げ続けながら、彼は必死に考える。随分とヤクザらしくない顔の追手。足音はするものの、姿が見えないことから距離は取れている。そのはずなのに、何故か焦りが消えない。せめて相棒と連絡を取り合えたなら、どれほど安心できただろう。早く、早く逃げ切らないと。そうして、目の前の道を突っ切ろうとした。
    「っ、行き、止まり……?」
    作業のため、いくつも用意されている道筋。逃げ続ければ、通ってきたのとは別の道から出入口に戻って脱出できるはず。それなのに、辿り着いたのは廃材に囲まれた袋小路。
    「お疲れ様でした」
    冷たく響く労いの言葉。振り向くと、1人の男が立っているのが見えた。
    「また、お会いしましたね」
    そう言いながら、歩み寄ってくる。丈の長い上着に焦茶のローファー、その顔立ちも相まってとにかく堅気じみた青年。その姿に、手の拳銃と太腿のガンベルトは余りにも不釣り合いで。日頃ならどうでもいいはずの違和感が、今だけはひたすらに恐怖を煽った。
    「申し訳ありません。綺麗な場所は用意できなくて」
    その言葉に、すべて仕組まれていたことを悟る。この場所に逃げてきたことも、倉庫の中の道も、すべて目の前の青年の策だったのだと。
    「氷雨」
    緊張を打ち破るような声がした。向かってきた声の主は、もう1人の追手。拳銃を手にする彼が声に気を取られた今こそ、最後の好機だと確信した。
    背後から、首に腕を回す。拳銃を奪い、その頭に突きつける。荒事には慣れていないらしく、氷雨と呼ばれた青年を捕まえるのは容易かった。そして、もう1人の追手、絵羽嶋白百合に言葉を吐きかけようとした瞬間。裏切り者の胸に、熱い痛みが走った。

    「ごめんなさい。相手から目を離すべきではありませんでした」
    そう謝る氷雨の背後には、死体がひとつ。白百合に気を取られた相手の隙を突き、腰のベルトから取った拳銃で上着越しに撃ち抜いたのだった。もちろん、上着は焦げ穴と返り血で無惨な状態に成り果てている。
    「次から気をつけろよ」
    それだけ言うと、白百合は本日二度目の死体漁りを始める。今度は目的のものがちゃんと出てきた。メールで簡単な報告を済ませ、氷雨と向き直る。
    「そのうち、新しい服買いに行くぞ」
    血と硝煙の匂いが混じる空気に似合わない、平和な提案。それに微笑みながら頷く氷雨。
    人殺しも、買い物も、二人にとっては日常のひとつだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏💴🙏💴💴❤💘💴💴💴🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    SA515space2

    DONEぜろきづ 掛け算ってより足し算宗崎は情報屋であり、殺し屋である。その仕事ゆえに、目立たず偏らず。味方させたいなら、金と信用を。
    そんな家の次期当主、宗崎近月。たった18歳で歴代の当主に劣らない量の仕事をこなす彼は今、この上ない窮地に立たされていた。
    (残り8発。向こうは残り6人。まだいる可能性も、ある)
    たった1人、得意先の邪魔者を消すだけの仕事だった。そのはずなのに、現場である埠頭にに着いた瞬間、10人近い男に囲まれた。嵌められた、と思うより先に身体が動いたのは鍛錬の賜物だろう。しかし、10倍の戦力に立ち向かうのに自動式拳銃1丁と刀1振りはあまりに心許なく。どうにか6人まで減らしたこの時点で、近月の右の手足は半分使い物にならなくなっていた。
    (ここで死ぬわけには、いかないんだけどな)
    ここで近月が死んでしまえば、代わりに遙日が次期当主の座へ据えられることは分かりきっていた。代わりに、というよりは元に戻るだけなのだが。一部の者からすれば、遙日は愚かで扱いやすい、傀儡にできる子どものように見えていることを近月は知っていた。強靭な意志と自由さを併せ持つ、そんな遙日を愛する近月からすれば、到底許せることではない。遙日を守 1425

    SA515space2

    DONEりんはるSS みじかい薄汚れた路地裏に、ガラスの割れる音。転がるのは、意識を刈り取られた複数の人間。
    「喧嘩売る相手は選べよ。ま、楽しいからいいけどなァ!」
    この場で1人だけ楽しそうに笑う仇嶋林檎。本人の性格と父親譲りの強さが、シンプルな暴力という形をとって敵を屠る。武器を持ったまともな人間より、タガの外れた手ぶらの人間のほうが恐ろしい。それを身をもって証明していた。
    一応、喧嘩を売られたという彼の認識は正しい。こんなことになってしまう直前まで、林檎は遙日と一緒にいた。何日も前から約束していて、それなりの準備をした上でのデートだった。それを邪魔したのが、地面と熱い抱擁を交わしている彼ら。すれ違いざま、遙日の服に思いっきり飲み物をぶちまけたのだ。そのうえ、謝るどころか暴言を吐いて去った。その場では被害者である遙日に止められ、着替えを買いに行くことを優先した。が、それから1時間もせずに彼らを見つけてしまった。遙日に近くの喫茶店で待つよう言い、林檎は彼らが消えた路地へと飛び込んだ。
    あえて音を鳴らして存在を知らせれば、彼らは一斉に振り向いた。ニヤニヤと笑ってナイフだの鉄パイプだのを持ち出す彼らが声を発するより、林 1135

    SA515space2

    DONEお仕事するしらさめSS深夜。廃工場の中を走る人影。焦っているのか、時折足をもつれさせながらも転ぶことはなかった。必死に逃げ続け、幾つ目かの物陰に隠れる。息を整えながら、自らが来た方向の様子を窺う。必死に、紫色の行方を探す。
    「どこ見てんだよカス」
    背後から、聞こえてはいけない声がした。振り返るよりも早く視界は暗転する。二度と戻れない暗闇へ、名も無き裏切り者は落とされた。

    「ハズレ、か」
    今しがた作ったばかりの死体を漁る白百合。目的の物はなく、苛立ちながら死体を床に叩きつける。この日の“仕事”の対象は2人。ある物を盗み出し、逃げ出した裏切り者。そんな奴らの尻尾をようやく掴んだのが昼間の話。わざわざ捕まえる、なんて警察のように優しくしてやるはずはない。とにかく、雲隠れさせないためにも今夜中に蹴りをつけなければいけなかった。しかしこちらが目的の物を持っていないとなれば、片割れが本命であることは明白。
    (ゴミのくせに頭回りやがる)
    逃げることを目的としている以上、二手に分かれるのは当然ではある。それでもやられた側としては腹立たしいことこの上ない。煙草を取り出そうとポケットの中に手を突っ込むと、入れてあった端末が震 1603

    SA515space2

    DONEなるみやさんの子と雨ままの子しか出てこないです狂ったような笑い声が響く。いや、「ような」ではない。とっくの昔に声の主は狂っていた。
    「釛、釛、俺の釛!!もっと来なよ、刀も弾も全部受け止めてあげるからさ!」
    斬り捨てられたはずの首も、鉛玉を撃ち込まれたはずの脳天も無傷。痛みも感覚も確実にあるはずなのに、仇嶋釛に与えられたというだけで悦に浸っている。その動きだけは、美しく舞うようで。彼を、絵羽嶋暁を仕留めようとする者たちを苛立たせる。
    「……化け物」
    捨て駒として雇われた名も無き青年の言葉は、雇い主だけに向けられたものではなかった。人間離れした動きについて行く、2人の男。憎悪に燃える赤色が重い一撃を放つ。自分以外を守ると決めた黄金が周囲を斬る。全てを狂わせた紫色を、始末するため。
    「殺してやるから、さっさと死ねよ!!」
    その赤髪に象徴されるような激情を滾らせ、乾楓は叫ぶ。過去の精算と、未来の礎のために。こいつだけは、絵羽嶋暁だけは絶対に殺すと誓っていた。そんな楓の猛攻を、暁は軽く躱していく。釛のもとへと行こうとするのだけは、どうにか阻止されていた。
    一方の釛は、襲いかかってくる見知らぬ男たちをひたすら斬り捨てていた。金につ 960