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    meyumemeyuniyu

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    meyumemeyuniyu

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    コ○スコラボネタと日和の誕生日のお話です。
    金城楓×遠野日和Webオンリーイベント『僕たちTYPE4』に参加させて頂いております。
    【追記】ネップリ版できました!詳細はこちらのツリーをご参照ください→
    https://twitter.com/meyumemeyuniyu/status/1484845207900536834?s=20

    #かえひよ
    substituteDate

    キミが好きだ。「あっれェー? 誰かと思えば日和くんじゃぁーん」
     やっと見つけた。
     日和がこのファミレスでバイトを始めたと聞いて足を運んだのに、注文を取りに来たのは別の奴だったから。
    「なぁにやってんだよ、こんな日に」
    「ああ、来てたんだ」
     振り向いた日和の第一声は、相変わらず『面倒事が歩いてやって来た』、みたいな調子だった。
    「オフシーズンだからって油売ってねーで……」
    「今回は、橘くんの手伝い」
    「へえ……。七瀬のダチか」
    「今は僕の友人でもあるからね。……それよりほら、飲み物取りに来たんじゃないの?」
     ああ。そういえば。
     俺が日和を捕まえたのは、ドリンクバーの前である。
     メニュー表を前に悩んでいるポーズを取り、フロアをちらちら眺めながら選んだ『キャラメルりんごのクレープパイ』は、快活な店員の言うには「少々お時間頂きまぁす!」ということらしかった。じゃあ時間を潰すかと、プレミアムドリンクバーも追加注文したのだ。それで、キッチン担当と聞いていた日和がタイミングよくカップ類を補充しにフロアに出て来たのだから、ちょうどよかった。
     運が良い、とは思わない。何というか、俺と日和はそういうふうにできているんだと、思っている。
     この店の制服は年中半袖タイプのようで、さっきから見かける店員たちも、テーブルに来た小柄なふわふわの金髪も――そういえばあいつもどこかで見た顔である。橘の知り合いだったろうか?――一月も終盤に入ろうというのに、全員さっぱりと腕を露出させている。暖房が効いているとはいえ、俺なんてまだアウターも脱いでいないのに。
     日和も例外ではなく、ブラウンを基調とした半袖の制服を身に着けていた。なかなか様になっているが、珍しくキャップを被っているのが、昔から見てきたどの日和よりやんちゃそうで、少し可笑しい。
     カップのしこたま入ったケースを持ち上げる日和の腕に、硬い筋肉が浮かんでいる。「僕の友人」とやらの手伝いにうつつを抜かしていても、自分のコンディションは抜かりないようだった。これを確認できただけで、身体のどこかにはびこる靄が軽くなる心地がした。
     それにしても、だ。
     ここのファミレスは、ドリンクバーの種類が多い。
     日和が出してきたホット用カップを手にしてみたはいいものの、並ぶ機械たちを見渡して俺は暫し、立ち尽くす。わくわくしている、というのもまあ、嘘ではなかった。もしもガキの俺がこんな場に出くわしたら、大喜びで駆け出して、あれとこれと混ぜて変な味にしては叱られていただだろうし。
     ふ、と日和の小さな笑い声が聞こえた。背丈はほぼ変わらないのに、腰をかがめて俺を覗き込んでいる。
    「よかったら、なんでも聞いて。僕、『ドリンクバースタッフ』だから」
     誇らしげに胸のバッジを引っ張る日和が、なんだか幼く見えた。褒めて欲しがる子供みたいだ。とは言っても、幼い頃のこいつの姿を、俺は困惑の表情か、水と郁弥に焦がれる横顔しか知らなかったが。
    「じゃあ、選んでくれよ」
    「そうだねえ……」
     日和のオススメ、となるとやはりコーヒーだろうか。日和はコーヒーが好きだから。日和の好きな物を、俺にもすすめるだろうか。
     日和は黙って、俺の頭のてっぺんから爪先までを、見つめた。
     ついスニーカーの先で床を叩いた間に、もう一度視線で身体をたどり、顔まで戻ってきて、真正面からじっと俺の瞳を見据える。俺は反射的に、顔をしかめる。
    「コーヒーも美味しいけど……ハーブティーなんてどう? 体もあったまるし」
     日和がやたらかしこまった手振りで示した棚には、よくあるティーバッグとは違い、小洒落た瓶が並んでいた。茶葉の種類を記した、揃いのラベルが貼られている。こういう空間は、なんとなく日和好みの感じがする。見た目も気に入って、張り切って種類と特徴を調べて全部暗記してしまって、誇らしげに「ドリンクバースタッフ」のバッジをつける。ヘルプで入ったほんの短期間のバイトでもそうする、そういう姿が想像に難くなく、日和らしい。
    「今のキミには、ローズヒップピーチティーなんていいと思うよ」
     話しながら、台の下から透明の簡易ポットを取り出した。白いラベルの瓶を開け、備え付けの木製スプーンで二杯掬って、赤い茶葉をポットへ落とす。コーヒーマシンの湯を注ぎ、蓋をする。
     そこまでを、実に慣れた態度で日和は行った。さも、自分がこうするのは当然と言うような動きだった。
     途端、俺はそわそわするようなイライラしているような、とにかく落ち着かない感覚に襲われて、コートの襟もとを掴んだ。ぎゅうっと喉が絞まる。
    「はい。あとは三分蒸らしてお召し上がりください」
     ポットに広がったのが、随分鮮やかなピンク色で驚いた。こんなのを、日和は俺に合うと思って選んだというのか。
    「ビタミンCたっぷりで、疲労回復、風邪予防にも効果的。ハチミツを入れるのもオススメだよ。……なんて、ネットの受け売りだけどねぇ」
     そんなセリフとともに、ソーサーを手渡してきた日和は、なぜかやたらにこやかに笑っていた。俺はつい返事をし損ね、おう、とも、ああ、ともつかない曖昧な声だけを発する。
    「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」
     席に戻ろうとして、もう一度振り返った。日和が、まだこっちを見ている。
     だけど俺と目が合うなり、バックヤードへ引っ込んで行った。昔から時折俺へ向ける、「しょうがないなあ」、みたいな顔をしていた。
     
     硬めのソファに、体がじりじりと沈んでいく。
     隅のテーブルにひとり座り、妙な脱力感のまま、椅子に背を預けた。コートを脱いだら少し震えが来て、腕をさする。暖房が効いていると思ったが、やっぱり寒いじゃないか。あんな格好で、日和は大丈夫なのだろうか。慣れないバイト疲れと相まって、熱を出したりしないだろうか。
     俺がずっと日和のことを考えている間にも、ポットの中のハーブティーは色を増していった。初めは薄く鮮やかなビンク色だったのに、いつしかすっかり、鮮烈な赤に変わっていた。そろそろ、日和が店員ぶった営業スマイルで話していた、飲みごろの時間になる。
    「疲労回復・風邪予防」に効くとも、日和は言っていた。
     それが、俺にこれを選んだ理由だったということか。沢山のドリンクの中から、これを。最近の靄がかったように疲れも、だからバイトの冷やかしにかこつけて日和の顔を見に来たのも、頭から爪先までを見た日和に見透かされてしまった。
     俺が「元気がない」と、日和は気づくらしい。去年大雪の清水寺で、元気のない背中をしているから驚いた、と言われたものだった。そして、俺を気遣ってくれる。また、喉がぎゅっと痛くなる。この店乾燥してんじゃねえの、なんて頭の内だけで悪態をつく。
     夏に、七瀬遙と泳いだ。暑い陽炎の中に、俺は「水泳のためすべてを捨てる」意地を、置いて行くことにした。引き返せないと思い込んでいた道を、もう一度歩みはじめた。
     悪辣な態度を取るのをやめてしまってから、いくらか素直な自分に戻って日和と話すたび、胸の奥がむず痒くてどうしようもなくなる。
     日和が用意してくれた紅茶を、カップへ注ぐ。白い陶器に、赤い液体が映えて綺麗だ。桃の甘い香りもするのに、口をつけると随分酸っぱく喉に沁みて、慌ててカップを置いた。ひとりきりでやたらやかましく、空回っている。なるほどこれはハチミツが欲しいな、取りに行くの面倒くせえな、などとうだうだしている間に、尻が座面を滑って俺はどんどん行儀の悪い姿勢になった。酸っぱくつれないけれど、あったかくて、身体に良いらしい。なんだか日和みたいだ、と思う。
     もう一度水面を覗いてみると、しかし十分に抽出された赤は、桐嶋郁弥の瞳にも似ていた。日和みたい、なのに郁弥の色をしている。じゃあこれは、郁弥の瞳を映す日和、か。
     ああ、まただ。イライラする。それ以上に内臓がそわそわ落ち着かなくなる。郁弥の側で人魚姫ごっこしていた日和を歯がゆく見ていた頃のあの苛立ちとは、そこがちょっと違っていた。
     でも俺はさっきの、俺のためにハーブティーを手ずから淹れてくれた姿を、シャツ越しにもわかる鍛えられた背中を、硬い髪の跳ねるつむじを、楽しそうな横顔まで、たしかに知っているのだ。俺のためにそうする、日和を。
     わかんねえ感情とわかんねえ感情がごちゃまぜになって、もうすべて飲み干してしまいたくなった。一気に、カップを傾けた。


     裏口の戸が、ひらく。出てきた日和が、「まかない遠慮して来ちゃった」と笑う。そんな顔でそんなこと言ったら、なんだかすごく楽しみにしていたみたいじゃないか。
     火傷した舌でもたもたクレープを食っているうちに、スマホが鳴ったのだ。客もあまりいないから時間があったのか、こっそりサボっていたのか知らないが、日和からのメールであった。
    『ゆっくりしてくなら、一緒に駅まで帰らない?
     あと一時間弱で上がる。』
     夏を過ぎたあたりから、日和も俺に連絡を寄越すようになった。去年の今頃は、向こうから連絡してくるなんて珍しいことだったのに。俺が変わったからか、日和も少しずつ変わっている。
    『腹減ってる?』
    『ご飯食べに来たんじゃないの。』
    『間食』
    『じゃあ夕飯でも食べようか。』
     了承の返信をし、往復は終わった。思いがけず約束を取り付けてしまった。スマホを胸に伏せ、深い溜息が漏れる。なんで緊張したみたいになってんだと自嘲した。
    「さっみぃ……雪降ってんじゃねえか」
     コートの首もとを詰める。さほど待たされたわけではないが、この雪空なのだ。どうりでずっと寒いはずだ。冷気に刺激されて、いくつか咽せた感じの咳がこぼれる。
    「わ、本当だ。都内でこれだけ降るなんて、珍しいね。こんなに冷えるなら手袋も持ってくればよかったなぁ」
     去年会った日と同じ、襟周りにファーの付いたもこもこのコートに身を包んで、日和は指先を擦り合わせる。しかし見上げる目もとも口調も、どこか楽しそうなのを隠していない。
    「日和さあ、誕生日だろ」
     大寒。
     一年でいちばん寒い日。
     一月二十日。
     必ずそうってわけじゃないらしいが大方その日で、今年は日和の、二十歳の誕生日。
    「……金城は相変わらず、記憶力がいいねえ!」
     一瞬、眼鏡の奥の瞳を見開き、それから日和はけらけら笑った。
     皮肉だろうか。それとも自虐か。
     幼い日、日和は俺と出会い、そしてすぐに消えてしまった。数年後ようやっと上位大会で再会を果たしたとき、日和はまったく俺のことを覚えておらず、そのくせ初対面と変わらぬ迷惑そうな顔だけ、向けてきやがったのだった。もっともそのせいで、「幼少期の記憶なんてそんなものだ」と考えた日和が、郁弥の側で人魚姫ごっこに甘んじることとなったらしいのだが。
     まったく、俺を競泳に引きずり込んだのは誰だと思ってるんだ。ヒトの人生、たったひと言で決めてしまったくせに。
    「今日、何も予定なかったんだな」
    「うん、今日はね。バイトのシフトも入れたし。週末に集まろうってことになってて、みんないろいろ準備してくれてるみたい。……郁弥が、メール越しでもそわそわしちゃってて、ふふっ。どうやら夏也くんと何か企んでるみたい」
     また、あの苦しさがやって来る。しかし郁弥だけでなく兄貴の名前も一緒に出たことになんとなく安堵していて、俺は誤魔化すように咳払いをした。


    「あ、あのっ!」
     ねえ彼、金城のこと、呼んでるんじゃない?
     日和が俺の袖を引く。
     日和のすすめる店への道すがら、振り向くと子供が立っていた。小学校へ上がったばっかり、くらいだろうか。一人で出歩いているんだからもう少し大きいのかもしれないが、華奢な身体は逆にもっと幼い可能性も伺わせる。
     ミニチュアみたいなニット帽を被って、手袋のこぶしを握りしめ、それでも鼻先を真っ赤にしながら、道路に薄く残った雪を踏みしめ俺を見上げている。
    「きんじょー、かえで選手ですかっ」
    「……ああ、そうだけどぉ?」
     しゃがんで目線を合わせると、少年の目はより一層、キラキラと輝いた。まるで熱い夏の光を受けるビー玉みたいだった。そんな目で、俺を見ている。
    「あの、ぼく、水泳やってて、テレビで見て! シドニーの! 大会、ぼくも、金城選手みたいになりたくってっ!」
     熱心に語るたび、白い息が広がった。そんなことも気に留めず、夢中で話し続けている。
     俺が手を差し出したら、唐突にマシンガントークが止まった。目をもっと丸くして、鼻の穴まで丸くなって、少年が投げ捨てそうな勢いで右手の手袋を外す。そのくせ急にためらいだしてなかなか手を寄越さないから、こっちから引っ張って握った。子供の手は、想像したより小さくて熱い。
    「おう、頑張れよ。よく食ってよく寝て……周りの人たち大切にしろ」
    「あ、自分のこともね?」
     斜め後ろから日和の声が降ってきて、少年はちらとそちらを見やった。俺の手を固く握ったまま、何か引っかかっているのか、首を傾げる。日和のこともどこかの試合中継で見かけたけれど、はっきりとは思い出せないのかもしれない。あるいは、日和の言っている意味がまだ理解できないか。まったく、誰に向けて喋っているんだ、日和は。
    「じゃあ、あの、ありがとうございましたぁー!」
     深々と頭を下げてから、照れくさそうに一目散に去って行く背中を見送る。
    「滑るなよ!」
     危なっかしい足もとを眺めながら、俺はその背中に、昔の俺を見ていた。小さなちいさな俺の、記憶。
     俺に憧れていると言ってくれたあの子は、何のきっかけで泳ぎだしたんだろう。運動神経が良くなるから、体が強くなるから、長い時間預かってくれるから、子供は大抵、そんな理由で親にスイミングスクールに入れられるのが始まりだ。それが、普通。
     俺みたいなのは、珍しいのだ。きっと。
     幼い俺の幻影が、冬道を駆けて行く。小さい俺は一心不乱に、どこへ向かって走ってんだろうか。通っていたSCか、まだ生きていてくれたきよ兄ちゃんの元か。それも正解のはずだけれど。
     顔を上げると、そこには日和が立っていた。昔はずっとずっと遠くて、追いかけるばかりだった日和が。こんなに近くに。
    「金城も有名になったものだねえ。もしかして、そういうので疲れてる? 有り難くても、気は張るよね」
     手が差し伸べられ、俺はそれを握った。日和は引っ張り上げようとしてくれようとしたのに、俺が反対の手でコートの胸もとを強く掴んでしまったから、バランスが取れずに立ち上がれなかった。
     喉が痛い。寒い。熱い。心臓が、速い。
     締められてるのは首じゃなくて胸なんだ、畜生。
    「えっ、大丈夫? 体調悪い?」
     ああ、なぜかこんな瞬間にわかってしまった。
     わからないふりを決め込んでいたことから、もう目を逸らせなくなった。もう、すべて捨てた気になるのもやめてしまったのだから、道理なのかもしれない。
     好きだ。
     日和が、好きだ。
     俺は初めて会った日からのこれまでも、遥か遠くまで続くこれからも、一生この気持ちを抱えて生きていく。それも同時に、理解した。


    「行こっか。僕、グラタンの美味しい店知ってるし」
     今度こそ手を握って立ち上がった。俺たちは薄暮の雪道を、日和の好きなカフェへと急ぐのである。
     こうして近くにいられて、つれないくせによく俺のことを見ていて、心身を気遣ってくれる。そんなの、俺だけにじゃないとでも言うだろうか?
     だけど、日和は俺のこと、嫌いじゃないじゃないか。これはきっと、俺がずっとずっと日和のことを好きでいるから、だ。押し勝ちというやつだ。最近は、向こうから連絡だって寄越すのだ。
    「看板メニューは牡蠣グラタンだけど、チキンの方も美味しくって……」
     俺の手を引いたまま日和が呑気にペラペラ話し続けている、この瞬間に。思いのまま道端で抱きしめてキスしてしまっても、日和は拒まない気がしている。
    「日和!」
     自然と離れていきそうになった手を、俺はつかみ直した。
     振り向いた日和は、今日イチの吃驚した表情を浮かべていた。胸がぎゅっとなって、苦しい。冷えた手を強く握る。離したくない、欲しい、もうわかっちまったから。
    「日和、俺は、……」
     お前のせいだよ。
     泳ぎ始めたのも。一生続く思いも、甘い苦しみも、全部全部。
     日和の頬に、舞う雪が落ちる。肌の上ですぐ水に帰って、硬直していた顔が、ふっと緩んだ。初めて会ったあの日に望んだような、自然で淡い微笑みだった。
     捕まっていない右手が、すっとこちらに伸びてくる。
    「こんな寒い日にそんな顔してたら、ほんとに風邪引いちゃうよ」
     日和の指は、俺の下まぶたを拭った。わずかに雪の水分がついている以外は、まだ濡れていない。そのまま手のひらは上っていって、俺の髪をぐしゃぐしゃと、幼子にするみたいに、撫でた。心臓が、ドクドク早鐘を打ちはじめる。
     日和の手が、あたたかかった。今この瞬間たしかにここに、俺と日和の幸福はあると、それを示されたようで、俺はこれでいいのだと思った。
    「さ、早く行こ! やっぱり、コーヒーも飲んでほしいしねえ」
     歩き出した日和の隣を、俺も自然とついて行った。二人は背格好が似ているから、隣同士あゆむ歩幅も、よく似ている。離すタイミングを逃したふたりの手が、上下の位置の差がなくなって、「差し伸べる」から「つなぐ」になっている。
     俺はおどけたふりでふたり分の手を、日和のコートのポケットに突っ込んだ。日和が「ええ」、とか不満そうな声を出しながら笑う。ひと呼吸して、今日のところは手を離した。
    「やっぱファミレスのコーヒーより、カフェのが美味いのか」
    「聞き捨てならないね。ココスのドリンクバーは馬鹿にできないよ? ……今度また来なよ。まだバイトしてるからさ」
    「あー、そうする」
     焦る必要はない。どうせこの感情は、生涯持ったままで生きていくのだから。
     だけど、いつか、そう遠くない未来。日和に話す日が来たら、そのときは、俺の隣で笑ってほしい。笑ってくれるに決まっていると、どこかで俺は信じている。
     角を曲がり、来た道がちらと視界に入る。珍しく都心に降った雪はアスファルトを薄く覆い、その上をよく似た大きさの足跡がふたり分、寄り添って歩いていた。
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    meyumemeyuniyu

    DONEコ○スコラボネタと日和の誕生日のお話です。
    金城楓×遠野日和Webオンリーイベント『僕たちTYPE4』に参加させて頂いております。
    【追記】ネップリ版できました!詳細はこちらのツリーをご参照ください→
    https://twitter.com/meyumemeyuniyu/status/1484845207900536834?s=20
    キミが好きだ。「あっれェー? 誰かと思えば日和くんじゃぁーん」
     やっと見つけた。
     日和がこのファミレスでバイトを始めたと聞いて足を運んだのに、注文を取りに来たのは別の奴だったから。
    「なぁにやってんだよ、こんな日に」
    「ああ、来てたんだ」
     振り向いた日和の第一声は、相変わらず『面倒事が歩いてやって来た』、みたいな調子だった。
    「オフシーズンだからって油売ってねーで……」
    「今回は、橘くんの手伝い」
    「へえ……。七瀬のダチか」
    「今は僕の友人でもあるからね。……それよりほら、飲み物取りに来たんじゃないの?」
     ああ。そういえば。
     俺が日和を捕まえたのは、ドリンクバーの前である。
     メニュー表を前に悩んでいるポーズを取り、フロアをちらちら眺めながら選んだ『キャラメルりんごのクレープパイ』は、快活な店員の言うには「少々お時間頂きまぁす!」ということらしかった。じゃあ時間を潰すかと、プレミアムドリンクバーも追加注文したのだ。それで、キッチン担当と聞いていた日和がタイミングよくカップ類を補充しにフロアに出て来たのだから、ちょうどよかった。
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    meyumemeyuniyu

    DONEコ○スコラボネタと日和の誕生日のお話です。
    金城楓×遠野日和Webオンリーイベント『僕たちTYPE4』に参加させて頂いております。
    【追記】ネップリ版できました!詳細はこちらのツリーをご参照ください→
    https://twitter.com/meyumemeyuniyu/status/1484845207900536834?s=20
    キミが好きだ。「あっれェー? 誰かと思えば日和くんじゃぁーん」
     やっと見つけた。
     日和がこのファミレスでバイトを始めたと聞いて足を運んだのに、注文を取りに来たのは別の奴だったから。
    「なぁにやってんだよ、こんな日に」
    「ああ、来てたんだ」
     振り向いた日和の第一声は、相変わらず『面倒事が歩いてやって来た』、みたいな調子だった。
    「オフシーズンだからって油売ってねーで……」
    「今回は、橘くんの手伝い」
    「へえ……。七瀬のダチか」
    「今は僕の友人でもあるからね。……それよりほら、飲み物取りに来たんじゃないの?」
     ああ。そういえば。
     俺が日和を捕まえたのは、ドリンクバーの前である。
     メニュー表を前に悩んでいるポーズを取り、フロアをちらちら眺めながら選んだ『キャラメルりんごのクレープパイ』は、快活な店員の言うには「少々お時間頂きまぁす!」ということらしかった。じゃあ時間を潰すかと、プレミアムドリンクバーも追加注文したのだ。それで、キッチン担当と聞いていた日和がタイミングよくカップ類を補充しにフロアに出て来たのだから、ちょうどよかった。
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