タイトル未定 Aパート マスターの国では、十二月を師走と呼ぶのだという。なんでも、師匠と呼ばれる僧侶がお経をあげるために、東西を走り回る季節だからというのが由来らしい。それでだろうか。
「ああっ!ジャック、お願い!」
「任せて、ナーサリー。わたしたちが仕留めるからね!」
「ンンンンンン!お二人とも、拙僧をクリスマスツリーにしようとするのはやめなされ!」
ニメートルの巨体を揺らして蘆屋道満が廊下を駆け抜けていく。そのすぐ後ろをジャックがぴったりとマークしながら追いかけ、曲がり角で消えた。体力の無いナーサリーは息を切らし、廊下に座り込んでしまった。
「おいおい、大丈夫かい」
「あら、ヘクトールのおじさま。ありがとう」
俺はナーサリーの横にしゃがみ、その小さな背を撫でる。しばらくそうしていると彼女の呼吸が徐々に落ち着いてきた。
「なんでまた道満をクリスマスツリーにしようとしてるわけ?」
「ふふっ、みんな同じこと聞くのね」
くすくすとナーサリーは笑う。そりゃそうだろうよ、と喉元まで出かかったのをなんとか抑え込んだ。