タイトル未定 二人の男が机に向かっている。
一人は羽根ペンで、もう一人はパソコンで執筆作業に勤しんでいるところだ。ピリピリと張り詰めた緊張感と殺気が漂う中でカリカリ、カタカタと異なる音が重なり合って不思議なリズムを生み出している。
ここが戦場であれば加勢ができるのだが、残念ながら創作活動は専門外だ。とりあえず仁王立ちで腕を組みながら、作家たちを監視することにした。
そうして三時間が経過したところで、アンデルセンが口を開く。
「おい、そこのニンジンライダー。一体いつまでここにいるんだ?むさ苦しくてかなわん。とっとと出ていけ」
「誰がニンジンだ。読者が新作を待ってんだからさっさと書けよ」
「ふん。どうせあの女狩人が絡んでいるな?子供たちの笑顔のために…とか言われて、それで俺がひとっ走りして新作を持ってくると口走ったんだろう、この馬鹿め!」
アンデルセンはそう言うと、くしゃくしゃに丸めた紙を俺に向かって投げつけてくる。
千里眼持ちでもないのになんで分かるんだと考えていると、目の下に隈をこしらえたシェイクスピアが、ボクシングのレフェリーのように俺たちの間に割って入ってきた。
「まあまあ、アンデルセン君。そんなにカッカなさるな。こちらのライダーが申し訳ない。後で言って聞かせますので、ぼちぼち休憩といたしましょう。紅茶でもいかがです?スコーンにジャムもありますぞ」
いつぞやの聖杯大戦で同じ陣営だったのを覚えているらしい。時折こういった仲間意識を持ち出してくる。しかも、なぜか偉そうに。
「いや、結構。少し散歩に出る。ついでにいくつかネタを拾ってくるとするか」
ぐうん、と両腕を天井に伸ばしたアンデルセンは、足早に部屋から出ていった。
「おや、行ってしまいましたね。ところでアキレウス殿、ミルクは必要ですかな?」
「あー、いる」
「かしこまりました。このシェイクスピア、イギリス人の名誉にかけてイリアスの英雄に最高のミルクティーをお淹れしよう!」
わざとらしいくらいに大袈裟なお辞儀をして、シェイクスピアは部屋の一角にある小さなキッチンへ向かう。こういった芝居がかったやり取りにもすっかり慣れたものだ。まあ、反応するだけ面倒くさい、というのもあるのだが。
近くにあった椅子に腰掛ける。
ふと、壁にかけられた一枚の絵に気がついた。川に身を浮かべ、色とりどりの花輪を持った女の絵だ。目の焦点があっておらず、開いた口からは魂が抜けていきそうな雰囲気を感じる。
「おや、その絵が気になりますか?先日、エミヤ殿が『あなたの部屋にあの絵がないのは相応しくない』とか言って投影して飾っていったのです。どうやらオフィーリアを題材にした絵のようですね」
「オフィーリア?誰だそれ?」