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    risya0705

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    ポン中軸柏真 #3

    ##ポン中軸

    #3 パンチドランカー物好きな男や、そう認識したのは覚えている。
    それがいつのことだったのかは、もう思い出せない。










    1998年某月某日


    「……また、こんなところで野宿か」

    (出たな、小姑)

    そいつはいつもいつも、狙ったかのようなタイミングで道端で休憩している俺のところへ現れる。かかる声を無視していると「起きてんだろうが」と頭を靴先で小突かれた。

    「……ああもう、ほんまにやかましい奴やなァ……。ワシがどこで寝っ転がっていようがいまいが、アンタに関係ないやろ」

    横たわったまま男をじとりと睨めつけると、気にしたふうもなく煙草に火をつけていた。

    「お前の組、向こうのバッティングセンターの辺りで屯してたろう。せめてそこで寝たらどうなんだ」
    「オッサンに指図される覚えはないわ」
    「ここは俺のシマなんでな」
    「自分のシマいうんやったら、こっからここまでって名前でも書いとけや。提灯でも吊るしたろか?」
    「てめえなあ……」

    呆れたように溜息をつかれる。その灰色の吐息を見て自分も口寂しくなり、返り血やアスファルトの煤で汚れたジャケットからハイライトを取り出して吸う。深く肺に送り、鬱々とした気持ちをほんの僅かにニコチンで上書きさせた。

    なにも、この世話焼きな男に苛立っているわけではない。むしろ腫れ物のように怯えた瞳で遠巻きに振り返られるのに比べれば、以前から、それこそこちらが組長の肩書きを持つ前からと同じ態度で接してくるこの男は嫌いじゃなかった。

    もうずっと、血湧き肉躍るような喧嘩にありつけていない。桐生一馬が親殺しの罪で逮捕されたせいだ。

    (つまらんことでパクられおって)

    殴って蹴ってやり返されて躱して、バットを振り抜けば骨の軋む感触が手袋越しにも伝わって、ドスで切り裂けば鮮やかな真っ赤で生臭い血が溢れ飛ぶ、そんな喧嘩に──暴力に飢えている。俺に殴られて額に土つけて感謝を叫ぶ子分もいるが、自分より格下の人間を甚振ったところで何一つ鬱憤は晴れやしなかった。

    いっそ親父にこてんぱんにされてみようかと食らいついたが、面倒臭そうに追い払われてしまった。それどころか、もういい加減キチガイじみた癇癪は控えや、パクられるようなヘマやったら承知せんで、なんて釘を刺された。

    (ヤクザのくせに何をまともぶってんねん)

    強くて大きくて、図太くて、人を人とも思わない残忍な極道だった。血の匂いのする人だった。その力と外道さが好きだった。だから親子盃をかわしてここまで着いてきたというのに。暴対法がなんぼのもんじゃい、と思うが上の者になればそうも言っていられないらしい。だがそんな事情は知ったことじゃなかった。つまらん男になってしもうたんやな、とがっかりして、折檻を受ける気も失せてしまった。

    形容しがたい苛立ちや焦燥がずっと積み重なってきていて、だが解消するにもどうしたらいいのか分からない。そんなことを口に出せるはずもない。もうずっとなにかが乾いて干からびてしまっている。なぁんも楽しくない。呼吸が思うようにいかない。がじ、と無意識のうちに煙草のフィルターを強く噛んでしまって苦味が口に広がった。

    「今日はどうした。お前を寝かすなんてたいした相手だな」

    あてのない考えにじっとりと沈んでいると、忘れていた男の声が降る。

    「なんや、まだおったんかい」
    「そりゃあ、お前を立ち退かせるまではいるさ」
    「はあ。しつっこいのお……。別に、喧嘩で負けたんとちゃうわ。ちぃと、なっとらん奴らの躾しとっただけや。……まあ途中でアホらしくなって、ここで寝とったんやけどなあ……」

    ごろん、と男に背を向けて横になる。何の変哲もない路地裏。昔はここの辺りにこじんまりした小さな神社があって、玉砂利を枕によく一息ついていたものだ。お気に入りの寝床だったのに。今ではコンビニの電気が煌々とついている。

    神室町も時代の流れに応じて段々と様変わりしてきている。それこそ自分の縄張りではないし、店舗の一軒一軒に愛着や思い入れがあるわけでもない。周りに合わせて自分も変えていこう、なんて柄でもない。ただそれでも、自分ひとり時代に取り残されていくような、自分だけが何の色も変わらずにこの街に生きているのが酷く気味の悪いものに感じることがある。

    「……なあ、アンタのシマなんやったら、ここいらに玉砂利敷いてくれや」
    「あ?何だって?」
    「砂利や、石っころ。枕にちょうどええやつな」
    「それでお前に居着かれるんじゃあ、本末転倒だな」
    「なんじゃ、ケチくさいのお……」
    「ほら、いい加減立て」

    寝返りをうつこちらに痺れを切らした様子で、襟首を掴もうと手が伸びてくる。それを払い落としてひょいと飛び起きた。そこでようやく、男の姿をまじまじと見つめる。

    「アンタも……」
    「ん?」
    「アンタも、変わったな」
    「……髪型の話か?」
    「……」

    それだけじゃない。血の匂いがしなくなった。

    風間組は今では穏健派の看板を掲げているらしい。笑ってしまう。嶋野の親父と同じように、風間も歴とした人殺しだ、それも凄腕の。どれだけ任侠だの仁義だのを掲げようと、極道に穏健も過激もマトモもキチガイもある筈がない。皆、社会不適合者の悪人の集まりなんだから。

    「なあ、喧嘩しようや、オッサン」
    「買ってやる義理はねえな」
    「……昔は相手してくれてたやないか」
    「嶋野組若頭の真島組長を万が一にもぶん殴っちまったら、俺の指では済まねえだろうな」
    「……つまらん、日和りおって」
    「真島」

    背中にかけられる声を無視して踵を返す。言われた通りにバッティングセンターへ向かうのは癪だったしそういう気分でもない。女や酒で満たされる飢餓感でもない。結局、今夜も眠れない。

    ああ、喉が乾いた。










    2002年某月某日


    世界の輪郭がぐにゃぐにゃと歪んでいる。ネオンよりも眩しいチカチカした原色や蛍光色のサイケデリックな斑点がそこらじゅうを舞う。ゾワゾワと身体中の鳥肌が立つような感覚がてっぺんから爪先まで駆け抜けて、ぷかぷか宙を飛ぶような浮遊感とえも言われぬ高揚感に、やっと思いっきり人間らしい呼吸ができた。解放感。求めていた自由へ今なら軽々とダイブできそうだ。カラン、とガラスの注射器が手から滑り落ちて床に落ちる。それに見向きもせず、鼻歌をうたいながら街へ出掛けた。

    痛みを与えるのも与えられるのも好きだ。
    素手も鈍器も刃物も好きだ。

    じりじりと焼けるような熱も、どろりと鼻から垂れてくる不味い鉄錆にも興奮する。薬物により閾値を下げられた敏感な感覚が、生きている実感を物理的な五感で伝えてくる。熱い、痛い、眩しい、不味い、臭い、煩い、痛い、楽しい──ああ、気持ちええ!!










    「ゔ……げェッ、おえ……、っ、が、はァ……ッ」

    ──トリップは文字通り束の間の夢、一気に奈落まで急降下だ。

    路地裏に続く細道を、コンクリの壁にぶつかりながらズリズリと進む。ほとんど胃液だけの吐瀉物を道端に垂らして汚い街を更に汚しながら、ゼェゼェと肩で息をした。頭痛と眩暈も酷いが何より吐き気だ。吐いても吐いても嘔気が治まらなくて、手袋を咬み外して指を喉奥へ突っ込んだ。生理的な反射でえずくが、やはり吐き出す物はない。躍起になって繰り返しているうちに、喉が焼けたのか真っ赤な血反吐を吐いた。

    「ー……」

    疲れてその場にくずおれる。ぽつ、と雨粒が頬に伝って、ちょうどええわ、と独りごちた。

    ちょうどええ。ゲロも俺も何もかも洗い落としてどっか遠くへ流してくれたらええ。

    次第に強まる雨が素肌を打って冷やしていく。寒さはあまり感じなかったが、眼前に持ち上げた両手がアル中の中年のようにぷるぷると震えていてみっともなかった。それを見つめるにも、焦点を合わせるのすら容易でない。輪郭がどうもボヤけて何重にもぶれて見える。

    (どうでもええ、どうにもならんのやから)

    横を向いた耳からも雫が入り込んでくるが構わなかった。体の中まで洗い流してからっぽにしてしまいたい。そう思っているうちに、だんだんと意識が沈んでいった。










    ポツポツ、ポツポツ、打ち付ける音は聞こえるが耳孔が濡れる不快感はない。重い瞼を持ち上げると、高級そうな背広が肩口から濡れていた。

    「……ッ」

    声を出そうとして、喉奥に唾が引っかかって盛大にむせ込んだ。それに男が振り返る。振り返る前から、彼が誰かは分かりきってきた。物好きな男。世話焼きな男。おかしいひと。おかしくて笑いが止まらない。

    「…………お前、そんなんでどうするんだ」

    髪も服もびしょ濡れになった男が苦い顔をして声をかけてくる。傘を持っていないなんて、らしくない。傘、ちがう、傘は俺に立てかけられていた。意味が分からない。既に全身ずぶ濡れで傘なんて何の役にも立たないのに。やっぱり、この男はおかしい。ゲラゲラと笑い転げて傘を蹴り飛ばすのに、男が溜息をついてそれを拾い上げた。

    「いい加減、クスリはやめろ」
    「ヒッヒヒッ、……っくく、っは、……ッヒッヒッ……」
    「死に顔が不細工になるぞ」
    「ヒヒッ…………はン、元が良すぎるからちょうどええわ」

    言葉が返ってきたのが意外な様子で、一度目を瞠って男が隣にしゃがみこむ。煙草を取り出したが、当然湿気てしまったようでそのまま懐に仕舞い込んだ。なんとはなしにその顔を見遣る。濡れた髪を後ろにかきあげると、昔の風貌に近く見える。ふと、この男に文字通り噛み付いたことがあったっけな、と思い出した。きっかけも会話も思い出せないが、血肉の感触と匂いはうっすらと記憶にある。人の肉を喰らったのは流石にあれが最初で最後だ。そうだ、生臭かったから。美味いモンではなかったから、あれきりにしたのだ。なんだか遠い昔のことのようだった。

    「真島。……つらいだけだぞ」
    「……」
    「どうせ飯もまともに食ってねえんだろう。眠れねえのか?」
    「……アンタ、ほんまヤクザ向かんのお……」
    「俺のことはいい。酷えツラしてんのはてめえのほうだ」
    「ヤクザらしいツラ、やろ」

    雨を吸って眼帯が重い。それでも先程より息がしやすいのは何故なのか。
    人間の言葉を交わしていることがなんだか不思議だった。

    「ヤクザの末路っちゅうんはな……ゴミ溜めみたいな路地裏で、ラリって、血反吐吐いて、自分のゲロに塗れて、野良犬に小便かけられて死んでいくような……そういう、しょーもない最期がお似合いなんや」
    「……まあ、否定はしねえがな」
    「アンタが、ワシに小便かけにくる犬なんかな?」

    ニタニタと下卑た笑いを浮かべ、口の前で輪っかを作ってべーっと舌を出してやると、男は眉間の皺を深くした。

    「生憎そういう趣味はねえな」
    「…ひひ、せやろなあ……。……なあ、アンタ……アンタみたいな、マトモな男が、なんで……なんでこないな、キチガイに…………」

    優しくするんや、とは聞けなかった。

    「……俺に……」

    俺に気があるんか、と茶化そうとして、それもできなかった。万が一、億が一、それを相手に否定されなかった場合を考えると口に出せなかった。厚意であれ好意であれ、受け取るような資格は持ち合わせていない。この傘ひとつぶんの恩も返せやしないのだ。

    (趣味の悪い、物好きな男……)

    こちらが黙り込んでしまってからも、男は暗い路地裏から立ち去ろうとしなかった。結局互いに何も言わず、二人して大袈裟なくしゃみを飛ばすまでじっと雨に打たれていた。










    2005年6月某日


    眠れない。

    食事も酒以外喉を通らないが、それより何より眠れないことが最もしんどくて辛い。身体は全身鉛が流し込まれたように重怠くて休息を求めているのに、横になっても目を閉じてもちっとも眠れやしない。眠れないことがストレスになって、更に不眠を悪化させた。今に始まったことでもない、それでも以前は薬が切れる頃に睡眠薬と安定剤と酒を多飲すれば、朝方には泥のように眠れていたのに。年々、酒と覚醒剤が増えてきた。それはもはや快感を求めるものではなく、それがないと何も出来ない、起き上がって歩くことにすらシャブを必要としている、確実に重度の依存の状態にあった。自覚していても今更抜け出せる泥沼でない。

    (眠りたい。朝も夜も分からんくらいに、いや、ほんの少しでも……失神でもええ……)

    黙ってじっとしていると皮膚の下がぞわぞわとして落ち着かない。この腹を裂けばきっと大量の蛆が這い出てくるに違いない。いっそ内から喰い殺してくれたらいい。

    落ち着かない頭を鎮めるように、手馴れた動作が勝手に砕いた結晶を線状に整えている。その辺に落ちていた丸く癖のついた紙幣を巻いて鼻に差し込み、一気に吸い込んだ。

    「……ッ、は…ぁ………」

    頭が醒める。これでやっと動ける。眠りたい眠りたい、ここにいては到底眠れない。千鳥足のまま、夜の明かりに向けて歩き出した。



    都合よく気絶でもしないかとその辺の電柱に頭を思い切り打ち付けてみたが、一筋の血が額から垂れ落ちてくるだけだった。痛みすらろくに感じない。人より頑丈な身体も困り物だ。俺の奇行を馬鹿にして笑うように、鼻先に雨粒が落ちてきた。

    「また、雨かいな……」

    雨自体に恨みはないが、どうも雨というとあのお節介な男を思い出してしまう。何より、あいつなら、なんて甘えた女々しいことを僅かでも考えてしまった自分がいたたまれない。

    あいつなら、あのひとなら、俺が倒れてるといつも見つけて傍にいてくれるイカれた男なら、どうにかして眠らせてくれやしないか。

    (アホくさ……)

    電柱を背にズルズルと座り込む。また叩きつける土砂降り。俺が雨男なんだろうか。あいつが?いや、あいつはいない。やはり俺が。

    アスファルトに滴が跳ねる、その向こうから、傘をさしたスーツの男が歩いてくるのに思わず「嘘やろ…」と呟いてしまう。

    (こんな、都合のええ話、あるわけない)

    頭がぐるぐるしているうちにも、男は近寄ってくる。迷いなくこちらに向かって来ていた。

    「…………」
    「……昔は、よく蝙蝠傘を振り回してたと思ったがな」
    「…………」
    「やるよ、これ。お前、多分かなりの雨男だぞ」
    「…………ッ」

    黒い傘を差し出される。カッとなって、なんとか立ち上がってその手をバシンと叩いて跳ね除けた。

    傘が転がる。逆さになったそれの内側に雨がざばざばと溜まっていく。それに目もくれずに、「真島」と男はじっとこちらを見つめていた。

    「真島。……お前は病気だ」
    「……はッ、……知っとる、イカれとるんや」
    「頭の、脳の病気だよ。……ボクサーはパンチを頭に受け過ぎると、ダメージが蓄積して慢性的な脳挫傷になっちまうんだと」
    「……ちゃうわ、そんなんとちゃう……ワシはただの、ヤク中の……」

    彼の手がゆっくりとこちらへ伸ばされる。避けなかった。手が頭に触れる。後ろへ引っ張るか、頭突きでもされるか。男の手は、濡れた髪を後ろに梳き流すように一度こちらの頭を撫でて、何事も無かったかのようにすぐに離れていった。

    「……ぁ…………」

    ──その手が欲しい。縋りつきたくて堪らない。

    その言葉をグッと堪えて飲み込む。暫くそうして、睨み合ったような状態のままお互い無言で雨に打たれていた。

    (俺ら、いっつもコレやな)

    きっと、この男はこちらのことが好きなんだろう。それは前から肌で感じていた。そうでもなければ辻褄が合わない。こんなマトモな男がどうして、そう考えるとやり切れない思いが湧く。それは戸惑いよりも絶望の色に似ていた。

    「……真島。……もういい」
    「…………」
    「……聞いてやるから」
    「…………ッ」

    ぐら、と眩暈がする。どこまでも甘い誘惑に、もう耐えられそうにない。

    さかさまの傘が満杯になってごろんと転がり、地面に水を溢れさせた。
    閾値を越える。俺だって──もう、溢れてしまう。

    「………………く、」

    眠りたい。そう言う筈が、口が勝手に別の言葉を選ぶ。いや、口じゃなくて脳味噌か。脳がいかれているという。俺をずっと見ていた彼が言うなら、きっとそうなんだろう。

    「……くる…し…ぃ…………」

    ついに言ってしまったそれは、土砂降りの雨音に紛れて病人のようなか細い声に聞こえた。

    目線を合わせられない。躊躇いながらも男に手を伸ばした。

    ──欲しいと言ったら、くれるんか、アンタを。

    男が何も言わないから、その濡れたネクタイを雑に緩めて襟を引っ張った。ボタンがぶちぶちと弾け飛ぶ。歪な抉られたような傷痕がシャツの下に残っていた。その色素の沈着した部分に触れ、なぞってみる。

    (……ああ、俺のつけた痕や)

    思い出した。
    この男は俺のもんや。

    「…………たすけ、て……くれんか……」

    もう、情けないとかみっともないとかは感じなかった。眩暈に負けてぐらりと後ろに揺れるが、予想通り男の腕がこちらの肢体を強く抱き寄せて捕まえた。同じ雨に濡れている筈なのに、男の腕の中は酷くあつい。

    やっと、だ。

    やっと息ができた。やっと眠りにつける。

    (……もう、逃がしてやれんで)

    腕に抱かれて男の顔は見えない。こちらの腑抜けた顔を見られていなくてよかった。力が抜けてかくんと仰け反ると、冷えた首筋に彼が歯を立てて噛み付いてきた。

    「っ、ぁ……ッ!」

    唇の熱に、歯の痛みに、ぞくりと身体に熱が灯る。

    「っあ、頼む…ッ!……は、ぁ、噛んでも、殴っても、縛っても絞めても、何してもええから……ぁ、……ッねかせて……ねかせてくれ、おねがいや……ぁ……!」

    無茶苦茶に男の背にしがみついて喚くと、腰を支えていた手がゆっくりとこちらの背中に滑る。掌があつい。指先が食い込むほど強く抱かれた。

    「…………真島……俺の家に来るな?」
    「ん、いく、いく……ッん、ンン……っ!」

    熱に浮かされて声が上ずる、それを気にする間もなく唇を塞がれた。不思議と少しも嫌悪感はなかった。

    (すまんな……)

    彼の背を掴んでいた手を首に回して引き寄せるように力をこめると、押し当てられていた唇が僅かに震え、吐息ごと喰らうように角度を変えて何度も何度もキスをされる。

    「んン…っふ……」

    息が鼻に抜ける。浅ましく誘うように唇を開くと、煙草の苦味が残る舌が口のなかへ差し込まれた。

    (すまんな、すまん……ごめんな……許してくれや…………)

    ぬるつく舌の愛撫に応えながら、この優しい男を破滅の道連れにしてしまったことを、ずっと心のうちで懺悔していた。



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