雨と傷とふたりの心三界の狭間に位置する、仙郷たる空桑にも季節や天候の変化は存在する。人も動物も植物も、そして人と営みを同じくする食魂も太陽の光だけでは生きていけないのだから、雨が降るのは当然のことだ。
しかし桃源郷といえば穏やかな常春のイメージであったが、実はそうでもないのか、はたまた食神・伊摯の好みであるのかはわからない……と、徳州扒鶏は雑巾を絞りながら首を傾げた。
今は人間界で言うところの雨季にあたる。草木育む恵みの雨、と喜びたいところだが残念ながらそうもいかない。過日の襲撃の傷痕の修復作業に追われる空桑では、連日しとしとと振り続ける雨によって発生する雨漏りと若及び全食魂との格闘が至る所で繰り広げられていた。
ある者は桶やバケツ、或いは甕や欠けた皿や傘などを持って水滴の落下地点へ走る。またある者は雑巾で床を拭き、力仕事の得意な者や身軽な者は屋根に上り応急処置を施す。徳州はといえば指揮能力を買われ、自らも床を拭きつつ若と共に駆け回る食魂達に指示を飛ばす手伝いをしていた。
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