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    yumemakura2015

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    クラナガとメユリの話。
    飯行こうぜ!お前奢りな!編。全文が17000字になってしまったので三分割くらいして出します。これはその1ということで。

    洞窟にオレンジふたつ(一)「あっいたいたー!」
    静かなモーター音と幾人か程度の足音しかしなかった無機質な白い廊下に飛び抜けて明るい声が響き、クラナガは振り返った。
    「メユリか」
    小柄な体躯のギアが手を振りながらガラガラと箱を乗せた台車を引いて歩いてきた。
    「おっすー!施設で借りてた資材返しに行くんだけど、これどこだっけ?」
    「ああ、それなら……」
    案内すべく一歩先に出て歩き出す。
    メユリがガドル工場に足を運ぶようになってから三ヶ月は経った。もうすぐ四ヶ月に差し掛かるだろうか。
    戦闘用以外でのガドルの活躍の場をつくるという企画を実現させるため、多くの意見を募るようにする。その為にはまず、コミュニケーションを積極的にとるようにし、人との交流を増やす。突拍子がないようで回り道なようなそんな提案をクラナガに打ち出したメユリは、時折クラナガのところに顔を出すようになった。見学の後に来た最初の頃は仕事の用で来てたまにクラナガと顔を合わせれば挨拶する程度だったが、二週間後の何度目かには今みたいに手を振ってクラナガの元へとてとてと駆けて来るようになった。勿論仕事の用ではあるが。同行しながらこちらが少し同僚と一緒にご飯を食べられるようになったとか、他部署のギアとも話をできるようになったとか近況報告をすると、よかったじゃんと上から目線で頷いて、自分の方も仕事でこんな成果を上げたとか、このバグがウザかったとか、職場の話以外でも友人とこんな店に行ったとか、戦場で助けてもらった赤いギアが想像していたのと違って性格が悪かったとか色々な雑談をしてきた。お互い仕事中なのでそんなに長時間話すことは無いが、それなりに話が盛り上がった。ただ離れたところでの通信をかけることはない。彼女から一度最近どうだと雑談混じりの通信が入ったことがあるが、クラナガは特に変わらないとしか答えられず、それきりだった。通信をかけられないのはこちらの仕事が忙しいのもあるが、友人とも言い難い微妙な距離感であるメユリの時間を自分のために割くのは些か躊躇われたし、通信での会話は苦手だった。少しづつ進歩しているとは言っても、クラナガの人見知りはまだ人並みに改善されたとは言えず、人と深い関係を築くことも、ガドルを守るための具体的な行動も出来ておらず、相談と言えるほどのことができるほど次のステップへは進めていないままだったのである。
    手続きを済ませ、時間に余裕があるので資材を元あった倉庫に片付ける手伝いもしてやることにした。屈みながら箱を持ち上げるメユリを見て、ふと聞いてみる。
    「そういや、そのリボンって大きくて邪魔じゃないか?仕事中も戦闘でもつけてるみたいだけど」
    初対面の日からお馴染みのオレンジの髪に大きく揺れる緑の蝶結びは、俯くと顔の横に長く垂れる。グレーの肌とグレーの制服という無彩色の胴部に対してもかなり目立っていた。
    「これ?お気に入りなのよ、初めてタンク街で買った装飾品でね。いいじゃん別に格好で規制とかないんだし」
    「それはまぁそうだけど……」
    一通り作業を済ませ、台車を引き渡すと、今度はメユリが口を開けた。
    「通信、全然使わないね。忙しいの?」
    「えっ……」
    「いやさ、相談していい?て聞くからこっち来れない時のこと考えて番号聞いたんだけど。まぁ思ったより来る機会あったわけだけどね。あたしが来る時は仕事中でもフツーに話すのに、仕事終わったはずの時間でも通信使わないのは変だなって。仕事の後も何かあるの?前にあたしがかけた時もすぐ切っちゃってたし」
    「えっ……あっいや……そっちが忙しいのかなって思ってさ。仕事終わってからも友達と遊びに行ったりビーム浴びに行ったりしてるってこないだも聞いたし」
    「あたしは別にいつでも大丈夫よ〜、通信してほしくない時は着拒するけど」
    「それはそれで傷つくな……。でも時間合わなくて……それに正直こっちからのもタイミング掴めなくてさ。悩むんだよね」
    「は?何それ。他人のタイミングなんて掴めなくて当たり前じゃん。べっつに遠慮なんてしなくていいわよ。なんならまたこっちから掛けとこうか?」
    「えぇ、そういうことじゃ……いや、まだ人と多少は話せるようにはなったけどさ、まだ次には進めてない状態なんだ。だから何を相談すればいいのか分からなくて……これからどうすればいいかとか、自分のやり方は合ってるのかとか、まだそこで立ち止まってる段階なんだよ」
    「いやいや、それを相談してきたらいいじゃん!」
    メユリが手刀を切る素振りでツッコミを入れてきた。眉をしかめ鼻に皺を寄せて口を横に広げるという、女子素体のギアではなかなかお目にかかれない大胆な呆れ顔を見せている。これで寄り目にすれば「カブキ」とかいう古代の芸能のポーズになるななどと昔見た資料データを引っ張り出しながら考えていたクラナガの目の前でメユリは目を閉じながら大きくため息をついた。
    「はぁ〜、クソがつくほど真面目だわねぇあんた。わかった、相談するのにまとまった時間が必要なわけね。片手間には難しそうだわ。今度休みいつ?タンク街で集合しましょ」
    「へ、は?タンク街?デカダンスに行くのか?」
    「だって落ち着いて真面目な話ししようってなら休日にでも膝を交えてじっくり語らった方がいいじゃない。あたしとしてはかの力エントランスのギアカフェでパフェでも食べながらがいいけど。あんた絶対そういう場所苦手でしょ。そっちに合わせるわ。最初に会った場所は……流石に座って話するには向かないか。なんかいい店とか座れる場所ある?」
    「ええと、あるにはあるけど……屋台の並んでるフードコート宴会場の広場とか。いいのか?休日は大体友達との遊びに使ってるんじゃ…」
    「フリーの日くらいあるわよ。みんなとそうそう日程合うわけじゃないし、そんな毎回じゃないもの。都合のいい日、ある?あたしのスケジュールとも照合するからデータ頂戴よ」
    「え、ええと……ちょっと待って、今出す」
    クラナガは慌てて自分のシフトをメユリに送信した。この強引さと居丈高さにはまだ慣れそうにない。
    「ふーん、来週日曜日いけるわね……その日大丈夫?ヒマ?ヒマそう」
    「ヒマそうって言うなよ、ヒマだけど。本当にいいのか?」
    「乗りかかった船よ、しっかり漕いでやるわ。その代わり、ちゃんと進みなさいよ」
    調子の良さそうな黄色の瞳がウインクした。この若すぎる船長を果たして信用してもいいのだろうかとクラナガは今更ながらに思った。歳の割にしっかりしていない自分も自分なので、何とも言い返すことも出来なかったが。じゃああたし行くから、とサムズアップを掲げて倉庫を出ていくメユリを力なく見送りつつ、クラナガは自分のデータにあるスケジュールに、来週の日曜日タンク街の屋台にてメユリと相談、と書き込んだ。

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