Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yumemakura2015

    @yumemakura2015

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    yumemakura2015

    ☆quiet follow

    クラナガとメユリ結局飯食い損ねたね編・完。三部に分けるとか言っといて四つめだよ!推しと絡ませたかった感がすごい。

    洞窟にオレンジふたつ(四)「すいませーん!」
    遠くから声が聞こえてきた。振り返ると、先程のメユリより明るいオレンジの三つ編みを結んだ少女が駆け寄ってきた。
    「あ、君は……」
    「ごめんなさい、あなたの装備勝手にお借りしてました!お返しします!」
    「え、装備……あっ!」
    荷台の方を見ると、予備に置いていた装備一式がまるまるなくなっていた。そして、少女の手にはクラナガの装備が抱えられていた。
    「すみません、汚れは拭き取ったんですが、戦ってる時に傷もつけちゃったみたいで……」
    「い、いや、いいよ、ええと、さっきの、トリピアスとメガロアイン倒して……イヌを助けたかったんだよね、いいよ、大丈夫」
    ぺこぺこと心底申し訳なさそうに頭を下げて謝る少女を宥めると、一瞬びくっと肩を震わせた。
    「イヌ……は、はい、ありがとうございます!ちょっとさっきの地盤事故に巻き込まれちゃったんです、おかげで助かりました!」
    少女の満面の笑みを見てクラナガは安心した。
    先程のパイプと呼ばれた生物の外見特徴データでタンカーの愛玩動物に一番近いものを照らし合わせて算出したものの、イヌと呼ぶには顔や足の特徴が一致しなかったため違和感はあったがどうやらイヌで良かったらしい。イヌは愛玩動物の中でも種類によって外見が幅広いのでああいう種類もいるのかもしれない。ガドルの可能性も考えたが、パイプは攻撃反応としてのゾーン展開もしていなかった。ペットとして愛されるガドルも存在すればいいのにな、と再び思いを巡らしていると、横からひょこっとメユリが口を出した。
    「ねぇキミ、さっきすごい戦闘強かったよね!あたし途中からしか見れてなかったけど、タンカーなのにすごいね!どこの部隊?名前は?」
    「え、あ、ナツメです!実はついさっきクレナイさんに認めてもらって、かの力に入ったところで……えへへ」
    「へぇー!入りたてほやほや!あたしより新人だ!よろしく、あたしメユリ!わぁ、義手もかっこいい!」
    「わわ、よろしくお願いしますメユリさん」
    べた褒めしながら握手までしている。会話から弾かれたクラナガがすっかり置いてきぼりになったが、不思議と微笑ましい気分になった。オレンジの似た頭がふたつ並んで喋っているとコンビっぽいというか。
    「タンカーでいうとこの姉妹ってこんな感じなのかな……」
    ふと一言呟くと、
    「おい」
    低い声が聞こえてきた。
    びくりと反応してそちらを見やると、先程ナツメと共にいた大男が立っていた。やはり先程と同じく険しい顔つきだが、何故か胸部がさっきより膨らんでいる。クラナガだけでなくメユリもその不機嫌そうな鋭い目付きに竦んだが、ナツメはむしろひときわ明るい表情でとててと男の元へ駆け寄った。
    「あっ、組長!もうそんなことしなくて大丈夫ですよ〜!」
    「お前大声で……!大丈夫なわけないだろう」
    組長と呼ばれた男の耳元に顔を寄せて何か喋っている。
    (いぬって……だから……それ着せたら……)
    男は少し考え事をするように視線を上にやってから、少女に視線を戻して口元を手で覆って彼女と同じように喋り出した。
    (だが戦士とか勘のいいやつは……)
    (わかってますよ、なるべく……)
    話が終わったらしく、男は顔を上げてクラナガとメユリの前に進み出た。何を言われるのかと二人して体を強ばらせると、頭を下げてきた。
    「ナツメが装備を失敬してすまない、おかげで助かった」
    「え、あ、いえ、別に組長さん……もそんなに気にしなくていいですよ」
    まさか謝罪とお礼を言われるとは思わず、面食らったクラナガは下手くそなパントマイムのような動きで手を動かした。男は踵を返し、ナツメの元へ歩いていった。
    「帰るぞ、ナツメ」
    「はい!あれ、徒歩?組長、車で来たんじゃないんですか?」
    「徒歩だ。上の方の穴から降りてきた」
    「え、じゃあその装備は……」
    「他のやつの車から借りてきた」
    「組長も無断で持ってってたんじゃないですか!どこの車ですか!アタシも一緒に謝ってあげますから教えてくださいよ!」
    「戦闘が終わってからだいぶ時間経ってるし、戻ってるか別の場所に移動してるか死んでるんじゃないか?」
    「冗談にしてもひどいですよ!もーーーーっ!!!!とりあえず場所教えてください!あ、すみません、ありがとうございました!アタシ達ちょっと行ってきます!」
    こちらへ頭を下げながら駆け出していくナツメと組長に軽く会釈を返し、二人は見送った。
    「……俺達も帰るか」
    「うん。ナツメちゃんいい子だったね。また会えるかな」
    「かの力に入ってるなら戦場でまた会うことはあるだろうな、あの組長って人は怖いからなるべく会いたくないけど……」
    「そればかりは同意だわ……あ、クラナガさっきの肉食べてなかったけどデカダンス戻る?」
    「でも身体中オキソンまみれだしな……多分、街中で壊れたものと一緒に片付けられちゃったんじゃないか?」
    「それもそっか。また食べに行く?」
    「ん。そうしよう。今はひとまず保管庫に素体戻して洗浄と補修してもらった方がいいだろ、二人とも」
    「よっしゃ、じゃあクラナガの車に乗せて」
    「自分の車で帰ればいいじゃんか」
    「装備着替えて更に車用意するの手間だから出撃ゲートから滑り降りてきた」
    「お前いちいち危ないな……まぁいいや、帰ろう」
    あくびをするメユリを助手席に誘導して車に乗り込みながら、クラナガは考え込んでいた。
    先程の二人の会話から部分的に聞こえてきたところを拾うと、パイプというイヌのような生物はどうやらイヌではなかったようだ。他にああいう生物が存在するか確認しないと分からないが、万が一ガドルだとすると、自分が知らないだけでガドルにもああいう種類がいるのだろうか。もしかしたら自分の目標の手がかりになるかもしれない。工場内ガドルの過去データを閲覧すれば何わかるだろうか。
    それに、もう一つ気になることがある。あのナツメに組長と呼ばれていた男。クラナガはその容姿にどこか見覚えがあった。タンカーならタンク街で見ること自体は不自然でもないが、引っかかるのはそれとは違うような気がする。白髪混じりの黒髪で筋肉質の額に傷のあるタンカーというと、検索に時間はかからないが、今ひとつ釈然としない。
    帰ったら色々調べてみよう。まだ現実は依然五里霧中だが、いくつかとっかかりはできてきた。それに、メユリも相談もそれ以外でも聞いてくれると言ってくれた。彼女の存在は思っていたより心強い。
    「あ、今日一部故障したせいで洗浄機能停止してるんだって!体洗いたいユーザーはタンカー用の共用風呂使えってこと!?」
    ゲームメッセージを読んでいたらしいメユリが隣で悲鳴をあげた。
    「え、むしろタンカーの風呂場は大丈夫なのか、あの揺れで?」
    「一応はね……でもあそこはやだなー、狭いし、カビ生えてて汚いし、お湯かけずに湯船に浸かろうとすると怒られるし」
    「贅沢言うなよ、素体汚いままのが嫌だろ」
    「それはそうだけど……あ、ていうか着替えどうすんのあんた。素体の私服とか持ってないでしょ」
    「あ、そうか。仕方ない、この服のままで……」
    「せっかくキレイになった後で汚れた服着るの嫌でしょーが!街着いたら服屋連れてくからついてきな!タンカーの店なら戦士割で安くつくから!男物の店もいくつか分かるから選んどくよ」
    「え、悪いな、俺全然わからないから……」
    「いーのいーの!お礼ならあたしの服の分までお金出してくれるってのでいいから!」
    「お前まさかそれが目的で……」
    さっき心強いと思ったことを全力で取り消したいと考えながらクラナガの車はゲート内に戻っていった。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏👍👍👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator