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    yumemakura2015

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    yumemakura2015

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    久々のオリギア小話。うちんとこのクラナガと姉んとこのヨツカイドウが会話してるだけ。後半ただの中学生男子GEHIN会話になったよ。

    嗤う水色「スターゲート、もうじきできるってさ」
    白く長細いテーブルの向かいに座った男がぼそりと呟いた。クラナガが焼き魚の骨を取る手を止めて前を向くと、揺れる重そうな前髪の下でニヤリと歪む口が見えた。
    「みんな気にしてたろ?クラナガは特にさ」

    湖の中に浮かぶガドル工場。その一角にある食堂は、最近クラナガが食事だけでなく同僚との交流の場として使うようになった場所である。今日も仲間何人かに誘われ、昼食に来たのであった。
    「へぇーっ、マジかよ!」
    「もうじきアイツをお披露目できるかと思うと楽しみだな!」
    色めきたつ周囲の中で、クラナガは苦々しい気分で座っていた。軽く唇を噛んでから口を開く。
    「ヨツカイドウ……、本当か?それ」
    「嘘じゃないさ、今は全体的な組織も安定してきてるし、あとはゆっくり成長させるだけだ。お前アイツの細胞組織が安定しないって聞いて心配してたろ?よかったな、次のイベントに間に合いそうで」
    「それはそうだけど……」
    クラナガは決してイベントへの影響で心配していたわけではない。それを知った上で彼は朗報のように言っている。水色の髪と水色の肌に覆われた水色づくしの男は、ハンバーグを箸で割りながら意地悪くニヤニヤ笑った。
    ここ最近人と喋りながらの食事が楽しく感じられてきたクラナガだが、彼のことは少し苦手だった。
    彼の名はヨツカイドウ。クラナガの同僚であるが、何かとクラナガに当たりがきついところがある。聞いたところによると身長一五五センチのヨツカイドウにとって一七十センチのクラナガは気に食わないらしいが、もっと背の高いギアはいくらでもいるし、男性の平均身長が一七一センチなので、クラナガは微妙に足りていないのだ。以前にそれを指摘すると、
    「心臓はノミより小さい癖に余裕ぶりやがって!一五センチボクに寄越せばいいじゃないか贅沢者!」
    と憤慨されてしまった。いずれにせよ素体なんだし稼働に問題は無いはずなんだけどなぁ、とクラナガ自身は思うのだが、どうやら素体の体格について一定のこだわりを持つギアはいるのだろう。
    この間メユリと歩いてる時に、胸囲の大きな女性素体を見てあのくらいあった方が見栄えがしていいわよねぇと呟いていた彼女に、メユリくらい無駄のない薄さの方が動きやすくていいんじゃないかと返したら脛を思い切り蹴飛ばされてしまったのは記憶に新しい。
    とにかく、ヨツカイドウはクラナガのことが気にいらないらしい。だから、わざわざ他の仲間たちと一緒に食事しながら「殺されるために作られる」ガドルの話をしてきたのだ。他の者が歓喜する中、クラナガだけが絶望することを知りながら。
    次に行われる雪山のイベント。その最後の大ボスとなるスターゲートは、今まで作ったのとは異なる全く新しい型の大型ガドルであった。とてつもない巨体に加えて、ビームも発するように設計されており、生物としての限界に挑戦するようなつくりになっていた。成長中に不調をきたしやすかったし、無事成熟するかの懸念もされていた。その大きさからクラナガの働く工場のある湖から離れた広い場所で作られていたのでクラナガは直接見たことはないが、定期的に配布されるデータで進捗状況は知りえていた。ある程度成長しても最後に目標値を達成させなければ廃棄される。段々生物としての形を作りながら大きくなっていく星型のガドルの映像が更新されていく。新しい性能を加えられて苦しくないだろうか、組織が乖離して痛くないだろうか、ギアの勝手な都合で生死を左右されるのは可哀想だと仲間に話したら、そうは言ってもこういう生き物だから仕方ないだろう、と笑いながら肩を叩かれた。
    プライベートの話もするようになり、共通の話題も増えて談笑することが多くはなったが、やはりガドルに対する根本的な価値観は深深とした溝で分け隔てられていた。クラナガにとっては自分たちと同じく生命を持つ存在だが、あくまで彼らにとっての認識は娯楽商品としての域を出ることは無い。
    虚しい感情を抱えながらも、上機嫌に盛り上がる仲間達の空気を壊すわけにもいかず、かと言って共に笑うこともできず、クラナガは背中を丸めて豆を溶いたスープを静かに啜った。正面からニタニタと笑う視線から逃げるように口につけた椀を持ち上げようとした時、ふと気がついた。
    「いや、待てよヨツカイドウ。まだスターゲートの育成現場からデータ配布されてないはずだろ?どこから入手したんだその情報」
    シャッターのような鉄壁の前髪が僅かに揺れた。水色に覆われたそれの内側は見えないが、恐らく瞬きしているのだろう。それも大きめの。
    「お前鈍そうなのに意外と気がつくな。どうしよっかなぁ、教えてもいいけどなぁ」
    やけに思わせぶりな言い方をする。クラナガは以前に地下で会った不思議な生物、パイプのことを思い出していた。普通の生き物とは異なる形態にも関わらず、一般の愛玩動物と同じように扱われていた。もしあれがガドルだとすれば、戦闘ゲームのエネミー以外としての共生の手がかりになるかもしれない。あれから従業員用データベースで検索してもそれらしき情報は見つからなかった。一般の従業員が知らないことをヨツカイドウが知っているなら、情報源によってはそのことについて調べられるのではないか?クラナガはテーブルに身を乗り出した。
    「頼む、教えてくれよ。タダでとは言わないからさ」
    突然の大声に騒いでいた仲間達がいっせいにこちらを向いた。ヨツカイドウはというと急に必死の形相で迫ってきたクラナガに気圧されて思わずのけぞっているようだ。頭を下げているクラナガからは表情は見えない。そのまま額をテーブルにつけていると、ひとつ間を置いて、クラナガのふたつ巻いたつむじの上に落ち着いた声が降りてきた。
    「いいよ。教えてあげる」
    「本当に?」
    「ただし」
    クラナガが顔を上げると、口の端をこれ以上無いほど釣り上げ、クラナガを見下ろしていた。
    「ひとつ条件をつけようか。タダでとは言わないんだろ?奢ってくれよ」
    その言葉と共にデータが送信された。開封すると、食堂のデザートで一番高い日替わり料理とデザートのメニューが1週間分ズラリと表示されていた。
    「このぐらいで妥当だろ。あぁ、今日の分も前払いで。この後パフェも頼むから」
    「……君って甘党だっけ?」
    「別に?お前の所持金を無為に減らすのが楽しいだけだよ」
    水色の顔に引かれた口のラインが大きく弧を描く。クラナガは自分の所持金残額と睨めっこしながらため息をついた。これからしばらくは食堂に携帯食料を持ち込んだ方がいいかもしれない。最低限の栄養素さえ摂れていれば差し障りが無いのが素体の特徴であり救いだった。

    「で、なんでそんなこと知りたいのさ」
    食堂から出た後。他の同僚はそれぞれの持ち場に着くために戻ったが、クラナガとヨツカイドウは双方共に時間がまだあるので廊下で並び立って話していた。
    「……ちょっとガドルについて色々調べたくてさ。スターゲートの方の工場で他にどんな生き物作ってるのかとか」
    「クラナガは本当仕事熱心だなぁ。いや、ガドルヲタクってやつか。ボクはガドルのガの字すら嫌だけどな。仕事でも触りたくないのにプライベートでまで考えるなんて冗談じゃない」
    「………………教えてくれるんじゃなかったのか?」
    流石の物言いに眉間に皺を寄せると、おおこわとヨツカイドウはわざとらしく身をよじらせた。
    「そんな怒るなよ。価値観はそれぞれだろ?まぁお前なら悪用しないだろうしこの場でパッとデータ渡してもいいんだけど、公じゃない情報だしさ、目的は一応ちゃんと確認しときたかったんだよ」
    「公じゃない?不正な方法で入手したのか?」
    「人聞きが悪いな。ボクがそんなことすると思うか?コネだよコネ。ボクなんかさ、上司にも気に入られるよういつも気を使ってるし向こうの工場の人とも仲良くするよう日々努力してるんだよ。その成果さ。ボクを気に入ってくれたおえらいさんがそうした細々とした情報をいち早く教えてくれるんだ。お前も少しは見習えよ、重要だぞパイプ作りって」
    パイプ、という単語に少し反応しそうになったが、クラナガはあくまで落ち着いた表情を作って頷いた。キョドりやすいし動揺した時目立ちやすいから驚いてもあまり人に見せないように、と以前メユリに注意を受けたのだ。
    「そんな機密情報、あんな場所で他の皆にも教えてよかったのか?」
    「まぁアレは今日中に配布されるデータには載る情報だしな。大して問題ないよ。ガドルαの状態も良好だし、スケジュールが大きく狂うことは無いだろ。たしか一旦戦士全滅させておくからスターゲートの起動まで時間も空くって話だっけ」
    「そうだな……」
    クラナガは少し唸った。どうやらヨツカイドウの情報入手は彼自身の張り巡らせた人脈作りによるものらしく、最近やっと同僚と打ち解けてきたクラナガには難しい手法だ。しかも彼に対しても直近の情報しか明かされないとすれば相当極秘のようで、未公開ガドルのデータを自力で入手するのは相当難易度が高い。
    苦虫を噛み潰したような表情のクラナガをヨツカイドウが訝しげに見上げる。
    「何、やっぱ他のガドルのデータも欲しいのか?」
    「!持ってるのか!?ていうかいいのか!?」
    「まぁな。研究中だからまだ公開してないっていう感じだし。お前そんなヤバそうなことできる度胸無さそうだし。正直そこは教える気無かったけど、また貸し増やせそうだし、教えてやってもいいんだけどな〜?」
    またニマニマと笑っている。彼の笑い方はいちいち苦手だ。
    「えぇと……聞きたいのは山々なんだけど、これ以上所持金減ると素体に送る栄養が本気で買えなくなるかもしれないし……」
    「は?彼女さんとデートする金はあるのに?」
    「ん?え??カノジョサン???デート????」
    聞き慣れない単語に思わず首を捻ると、怒気を露わにして水色の短躯が詰め寄ってきた。
    「はぁ〜????何すっとぼけてくれてんだこの色ボケグリーンジャイアント!ボクは聞いたんだからな、お前がこないだタンク街で可愛い娘と一緒に歩いてたって!!!!!この!!!金髪天パ野郎!!!!!!!」
    「こないだって……あ、あぁ……」
    どうやらメユリのことを言っているらしい。確かにクラナガは先週、タンク街でメユリと食事して買い物もしていた。しかし、あくまでクラナガの相談に乗ってもらうためであるし、食事中にランダムイベントで地下からガドルが出てきたり街が崩壊したりガドル討伐に向かったりしててんやわんやしてるうちに相談どころでもなくなり、結局戦闘で汚れた服を取り換えに新しい服を共に買いに行った、というのが本当のところである。ヨツカイドウの友人か知り合いかがその様子を見ていたようだが、彼らの想像するような甘いものは一切の皆無である。服屋の案内代だと言われて自分の分に加え二倍の価格もする彼女の服も大量に買わされたのである。現在彼が金欠になっている大きな原因にメユリの服代も確実に食い込んでいた。
    「そんないいもんじゃないよ……」
    クラナガがげんなりとした表情で答えると、ヨツカイドウは口をへの字に曲げた。
    「うわっまだはぐらかすのか!もう怒った、絶対ガドルのデータ渡さない!身長だけでどれだけナンパの成功率が左右されるかも知らない奴にはガドルのこと教える意味もない!」
    色々と公私混同している気がするが、折角貰えそうだと思ったデータがこのまま引っ込められたらたまったものではない。クラナガは慌てて去っていこうとするヨツカイドウの肩を掴んだ。
    「ま、待ってくれよ、本当に何も無いんだ!彼女じゃないよ、ただの……」
    知り合いと呼ぶべきか友人と呼ぶべきか迷って口ごもってしまった。余計怪しまれるかと思ったが、振り返ったヨツカイドウはこちらの困り顔を見て立ち止まった。そして何故か視線を下ろした。
    「……あー……そうだな、見たところお前背丈のわりに無さそうだもんな……ごめん、悪いことしたな。データ渡してやるよ、ちょっと待ってろ」
    これは身長比的にボクのが勝ってるだろ、多分、と訳の分からないことを呟くヨツカイドウに疑問符を浮かべたが、何にせよデータが貰えるのはありがたい。少し待つとファイルが送信されてきた。深々と頭を下げる。
    「ありがとう!……ちなみに、無いって何が?」
    素体に必要なパーツが欠けているのだろうか。定期検診では精々痩せ気味な程度で異常は見られないクラナガだが、不安になって聞いてみると、ヨツカイドウは顔の半分が隠れても分かるほど変な表情をした。
    「ナニがって……いや、男と女の素体揃えてやることっていったらひとつだろ。ここまで言ってわからないのか?」
    「???ひとつ…………????」
    クラナガが疑問符をめいっぱい飛ばすと、ヨツカイドウはいよいよ本気の憐れみと呆れを綯い交ぜにした顔をしてきた。
    「……お前に彼女がいないってことはよーくわかった」


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