燃ゆる身体スティーヴンが知らない男と談笑している姿が目に焼き付いて離れない。鏡越しに見るスティーヴンの笑顔に気が狂いそうだった。何を話しているのか聞こえなかったせいもあってか、仕事仲間だと分かっていてもザワついた胸が収まらない。自分が嫉妬深いことを重々承知しているつもりだが、抑え方も分からず、馬鹿みたいに嫉妬で身体が燃え尽きそうになる。
「ただいま〜」
スティーヴンが仕事から帰ってくると足の制御権を無理やり奪い、気絶させるために玄関でわざと転ばせた。玄関マットにおもいきり顔をぶつけたスティーヴンの「いてっ」と言う間抜けな声を聞きながらずるりと意識を精神世界に引きずり込んだ。
真っ白な部屋にベッドがひとつ。小さな窓からは夜空が見えた。ドアはあるものの、開く気配はない。
「……ここは精神病棟?」
突然連れてこられた場所に不安げに周りをキョロキョロしているスティーヴンと目が合う。
「マーク、わざと転ばせたな!」
ムッとした顔で怒るスティーヴンの手首を掴み、無理やりベッドに押し倒した。備え付けの拘束具を手首に巻き付け逃げられないようにすると、突然の仕打ちに眉を端をぐっと下げながら怯えるスティーヴンの表情がよく見えた。
「ま、マーク?」
不安げなスティーヴンに間髪入れず
「あいつは誰だ?」
「お前はもう少し警戒心を持て」
「随分楽しそうだったな」
「まさか好きなのか?」
「そうやって俺を置いていくのか」
嫉妬が言葉になって溢れ出る。身体が熱で燃え上がりそうだった。
「ま、マーク話を聞い」
スティーヴンの言葉を遮るように唇をキスで塞いだ。突然の口付けにビクリと身体を震わせ、くぐもった声を漏らす。閉じきったスティーヴンの口の中へ無理やり舌を滑り込ませ、舌を絡ませる。歯列をなぞりじゅっとわざとらしく音を立てながら舌を吸い上げると「ふぁ…っ」と気持ちよさに甘い声を漏らしたスティーヴンの惚けた顔がよく見えた。スウェットをたくし上げ、露わになった乳首をべろりと舐め上げると小さく震えながら「ひっ…ぁ…あっ」と舌の動きに合わせてピクピクと反応を繰り返した。徐々に突起した乳頭を指先で摘めば痛みと快感で背中を仰け反らせながら
「んあっ!!…っああ!!」
と涙を浮かべながら喘ぐ。俺は熱にうなされるがままに起立しきった乳首に噛み付いた。
「っ!?いっいた…う゛っ」
痛みにガチャガチャと拘束具を揺らしながら悶えるスティーヴンの乳首からは薄らと血が滲み、目からは涙がボロボロと零れていた。
「マークゥ…ひぐ…っどうしてこんな意地悪するの…謝る…謝るから…っマーク優しくして…っ」
「…」
その声を聞き入れず、スティーヴンを後ろに向かせ、四つん這いにさせる。臀部を強調するような体制に「うぅ…」と羞恥心からか小さく声を漏らしている。ベッドの下に隠しておいたローションを手にとり、そのまま蕾の周りをぬるりと撫でる。ローションの冷たさとこれからされることに期待してしまったスティーヴンの蕾がヒクヒクと動いていた。
「っ見ないで…」
か細い声を聞きながら秘部に指を入れ、ヌチヌチと水音を立てながら解していく。しこりに軽く指先を押し当てると
「う゛っ…ぃ…っや、そこっだめ…!」
と強い快感に思わず逃げようと腰を引くスティーヴンの身体を掴み起こし、なおも指先で刺激してやるとビクビクと中をうねらせながら快感に身悶えし続けた。3本目になると、もうすっかりトロトロになった肉壁が離れていく指先に名残惜しそうに絡みついてくる。
「よくイかずに我慢したな」
と尻を撫であげると「…ぅ…っ」と声にならない返事を返す。頃合だなとコンドームを取り出し、自身の熱を包み込む。スティーヴンは後ろ向きのまま枕に顔を埋め小さく震えている。蕾に先端をあてがうと早く入れてとばかりにうねった中がぷちゅりと音を響かせた。ぐっと押し込みながら奥へ奥へと進んでいく度に、異物感と内臓を圧迫される違和感からかスティーヴンが「───っ…──んん!!」と枕越しに呻いた。ヌチヌチと緩いピストンで慣らし、その動きに合わせてスティーヴンが吐息を漏らす。腰をぐっと掴み、一気に奥まで突き上げるとバチュンッといやらしい水音が響いた。中の締りがぐっと強くなり、ガクガクと腰を揺らしながら
「っ あ?!っ…!ん───!!」
と快楽に耐えきれなかったスティーヴンが持て余した熱を吐き出した。綺麗だった白いベッドがスティーヴンの精液でてろてろと濡れている。俺は勢いよく尻を叩き上げ、痛みでビクンと跳ね上がったスティーヴンに
「入れたばっかりなのにとんだ淫乱だな。そうやって他の奴にも抱かれるのか?」
「ふぅ…うぅっ…」
枕が涙でぐっしょりと濡れていた。肩を震わせながら
「マーク、お願い…顔見たい…」
「…別に見えなくてもいいだろ」
「君の顔が見えないと怖い…」
「…俺が怖いかスティーヴン」
「…今はね」
「それでいい。…俺は酷い奴だよ」
イッたばかりのスティーヴンの中にもう一度熱源を押し当て、タンタンッと軽快に腰を振り始めるとまだ中が敏感になっているのか悲鳴のような喘ぎ声のスティーヴンが必死に快楽から逃れようと拘束具をガチャガチャと鳴らしている。
''ギシッギシッギシッ''
ベッドの軋む音と2人の荒い息遣いが部屋に響く。深く挿入しながらスティーヴンの首筋に噛み付き、痛みに悶えるスティーヴンの声を聞く。俺のだと主張するように何度も背中や腰に吸い付いては痕を残した。違う、本当はいじめたい訳じゃない。優しくありたい。俺がしたいのはこんなことじゃない。いつだって衝動的に行動して案の定傷つけて、相手に拒絶される前に自分から去ってしまう。今回もまた同じことをしている。ずるりとスティーヴンの中から熱を抜き、そのまま動かなくなった俺を不思議に思ったのかスティーヴンが話しかけてくる。
「…マーク?マーク。逃げたりなんかしないからこれを外してほしい。お願いだよマーク」
「…」
俺は言われた通りに拘束具を外した。くるりと体制を変えたスティーヴンと目が会う。スティーヴンの目尻は涙ですっかり赤く腫れていた。スティーヴンの両手が俺の顔を包む。ふっと微笑みながら
「泣かないで」
「泣いてない」
「自分が泣いてるのにも気が付かなかったの?」
そう言いながら俺の顔に服の袖を近づけ、そっと涙を拭ってくれた。自分でも気が付かないうちに泣いていたらしい。目を伏せ「悪かった」と謝ると
「そういう時はちゃんと目を見るんじゃない?」
とぴしゃりとスティーヴンに言われ、改めてスティーヴンを見つめながら
「悪かった…痛かったよな」
「確かにちょっと痛かったけどいつもと違ってこれはこれで楽しかったよ?…あ、でも縛るのはこれっきりにして欲しいな。君の顔が見えなくなるし」
コクリと頷きながらスティーヴンを抱きしめ、顔を埋めた。スティーヴンのトクトクと優しい鼓動が聞こえる。
「馬鹿みたいに嫉妬してた」
「うん」
「お前が俺の傍からいなくなる気がして」
「うん」
「俺は…スティーヴンがいないと駄目なんだ、どうしようもなく」
「…うん」
「嫌いになったよな」
「マーク、聞いて?」
「…」
「僕は君が思ってるよりずっと君の事が好きなんだ。本当だよ」
ぎゅっとスティーヴンが俺を抱きしめ返す。鼓動が少し早くなった気がした。
「今日話してたのは職場の先輩で、お互いのパートナーの話で盛り上がってたんだ。君の事を話してたんだよ。すごく優しい恋人がいるって」
「…ああ」
「変に思われるかも知れないけど君が嫉妬してくれて嬉しいんだ。マークったらいつも素直じゃないから」
「…苦手なんだ気持ちを伝えるのが」
「知ってる。だから今日君がこんなことになってるのが嬉しいってこと」
ふふっと笑いながら言うスティーヴンに俺はどうしたってこいつに敵わないと思わされる。さっきまでの身を焦がすような熱は冷め、今はもう穏やかな気持ちに戻っていた。
「愛してるスティーヴン」
力強く抱きしめると「んっ」と少し苦しそうな声を漏らしながらスティーヴンも強く抱き締め返してくれる。
「僕も愛してるよマーク」
顔を近づけ唇に触れた。スティーヴンの柔らかい唇の感触が愛おしい。ちゅっちゅっと軽いリップ音を響かせながら何度も唇を重ね合わせた。招かれるように微かに開いた唇の隙間から舌を入れ、スティーヴンの舌と絡ませる。
「んっ…ふっ…ぁ…マーク」
「ん…スティーヴン…っ」
ぴちゃぴちゃと水音を立てながら互いに舌を吸い、舌を口の中の隅々まで這わせ呼吸を忘れるくらい求めあった。ふいに顔が離れ、トロンとした瞳のスティーヴンが
「それで…続きはどうする?」
自分がまだ1度も出していないことを気に病んでいたのか萎えたそれに優しく触れながら言う
「お前の中で出したい」
その言葉に耳まで赤くしながら
「いいよ」
と甘い声で答えてくれる。
「スティーヴン、触ってほしい」
返事の代わりに手が動いた。指先で優しく包み込まれ上下に緩く擦られると再び熱を帯びた。十分な硬さになるとコンドームを取り出し熱を被う。
「いいか」
「…うん」
肉壁を押し上げながらグチグチと根元まで収める。汗ばんで垂れ下がったスティーヴンの前髪を丁寧に直すとその手に頬を寄せ、愛おしそうに微笑んだ。その笑顔はマリアのようだった。
「スティーヴン…動くぞ」
「大丈夫っ」
タンッタンッとリズミカルに腰を振る。それに合わせてスティーヴンの甘い喘ぎ声が聞こえる
「あっあっ…あぁっ」
ペースを早め肉がぶつかり合う音と水音が絡みドチュッドチュッと卑猥な音響いた。滲んだ汗がポタリとスティーヴンの腹に落ちるとそれすらも気持ちいいのかピクンと身体を震わせる。
「はぁっスティーヴン、そろそろ…っ」
「い、いいよマーク…っ」
互いに指を絡ませ合い、きつく握りしめる。
「っん…ふっ…スティーヴン愛してる」
「僕も……っマークっ…あっ…うっ──」
一気に速度を早め、最奥を突き上げるとビクンと下腹部が跳ねる。そのまま奥に熱を吐き出すと中がキュウ…っと締まりスティーヴンも2度目の絶頂を迎えた。ぐったりと倒れ込みスティーヴンに体重を預ける。荒い息を整えながら何度目かの口付けを交わす。
「ん…んっ…んっねぇマーク?」
「なんだスティーヴン」
「もう僕が他の人と楽しく話してても嫉妬なんかしないでね」
「...難しいな」
「もー、マークって結構めんどくさいよね」
「悪かったな」
そう言いながら上唇に優しく噛みついた。くすぐったそうに笑うスティーヴンを見つめながらこの身を焦がす熱は一生俺の中で燻るだろうなと思わずにはいられなかった。