『思っていた以上に紳士的な男だった』
冬弥はそう思いながら布団にうつぶせたまま自分にかけられていたシーツを肩まで引き上げた。気温が低い。窓の外を眺めているその男をじっと見つめてみる。
「こりゃ、相当に積もりそうだな」
どんどんと白く染まっていく外の景色を見て。
見目麗しい外見だ。
「寒くないのか?」
その問いに、整った顔が少しだけ緩む。
「ま、さっきだいぶ熱くしてもらったからな」
笑うその姿は情報で仕入れていた年齢よりもだいぶ幼く見えた。
彼はといえば、これといった活躍も聞かず、上がる噂といえば「女を何人抱いた」だの「部隊の若いのに手を出した」だの浮ついたものばかり。
「男でも構わず手を出すという噂は本当だったんだな」
「ん?なんか言ったか?」
「……」
「なに?」
「なぜ俺を抱いたんだ」
背後から抱きすくめられて、熱烈に口を吸われ。
服を脱がされ。
その熱い体を穿たれた。
乱暴にされるかと少し怖い気もしたが、驚くほど優しく丁寧だったことが、少しだけ意外だった。
『きつかったら言ってくれ。無理強いはしない』
耳元でささやかれた言葉が離れない。
そんな冬弥の問いに彰人は、しれっと答えた。
「なんか、寂しそーな顔してたからな」
「それならばそう言えばいい」
「そういう時は、体で語り合うのが早えーんだよ」
「わからない。俺はお前の話を聞きたいだけだ」
「ん?じゃあ、もう一回やるか」
彰人が、窓から離れ冬弥の肩を抱き寄せる。
「今日はもういいよ。」
まだ夜半過ぎだろうが、雪はどんどん降り積もっており、朝にはかなり動きにくくなるだろう。そんな事態になる前には片を付けて、本部へ戻りたい。
「今日は、あんまり動かねー方がいいぜ」
耳元でささやく。核心に迫る一言。
「それは、どういう意味だ」
先を促す冬弥ににやりと笑う。
「こんな雪だしな。寒いし、足元が悪い。こんな日はこうやって暖めあってんのが一番だろ?」
「はぐらかすな」
「はぐらかしてなんかいねーよ。あんまり動き回ってっと、足元すくわれて大けがするぞ。どっかのスパイさん」
その言葉に、びくりと肩を震わせる。
「気づいていたのか。人が悪いな」
「……優秀じゃねーか。スパイなんかにしとくにはもったいねー」
眉間にしわを寄せてクツクツと笑う。
「うちに来ねーか?いろいろ弾むぜ」
「やめておく。安定を求めているからな」
「なにが安定だよ」
もう一度二人、唇を合わせ熱い吐息を交換し合う。
「決行は今夜だ」
「知ってる」
「お前が俺と一緒に逃げてくれるというなら考えてもいい」
「とんだ茶番だな」
それ以上は、お互い言葉も交わさず、ただひたすらに互いの熱をぶつけ合うように交わった。何度も何度も……。