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    takeruru_Y

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    ぴさんと話していたら描いてくださったので、私も書いた。
    https://x.com/pantabetae/status/1896603663831072901

    愛しさに包まれて「いってらっしゃい」
     3日分の着替えが入ったスーツケースを携えて、出発しなければいけないスミスの足どりは重かった。
     どうしてもスミスが出向く必要がある出張であったのだが、家を出る直前までスミスは後ろめたさと心配を抱えていた。イサミを3日間も一人きりにして大丈夫なのかと。
     再度の勇気融合合身以降、初めてイサミを〝置き去り〟にしてしまうと。
     けれども、そんなスミスの背中を押したのは、イサミ本人であった。
     ――いってらっしゃい。
     スミスが先に家を出る時に、イサミが口にする言葉。
     いつもと変わらぬ顔で、いつもと同じ声で、ひらひらと片手を振るイサミ。出張の件を伝えた時には「……え?」と明確に戸惑っていた彼であったが、今、スミスを見送る彼は普段通りの姿であった。
     平然としているように、スミスには見えてしまったのである。
     ――もしや、イサミは一人でも大丈夫なのかもしれない。
     その仮定に安堵と、一抹の寂しさを感じながらもスミスは応じるのであった。
    「なるべく早く帰るよ」
     イサミの頬に触れるだけのキスをしてから。
     頭の中で「イサミを置いていくなんて嫌だ!」と暴れまわるブレイバーンを必死に押し留めつつ。

    ***

     スミスが出張に出発してから三日後の夜。
     ハワイのとある一件の庭に、一機のロボットが着地をするのであった。
     〝ブレイバーンがいつ来てもいいように〟と、イサミとスミスの意思で――そして国からの要望もあり――家の裏手に設けられているエリアである。
    『イサミ』
     愛しい人の名を呼び、直後に一瞬だけエメラルド色の光が輝きを増す。すると、そこにはもうロボットの姿はなく――全裸の成人男性が仁王立ちしているのであった。
     このエリアには小さな小屋も設置されていた。庭を整理する道具も置かれているが、メインの用途はそれではない。イサミとスミスの着替えが用意されているのだ。〝こういう〟時の為に、と。
     スミスの帰宅予定日は四日後であった。どう頑張っても、出張最後の日は飛行機の最終便に間に合えなかったのである。故に、スミスはしっかりと交渉を進めていた。
     三日間の出張には対応する。その代わり、ブレイバーンでの移動を許可して欲しいと。その申請が通ったという連絡が来たのが仕事が終わった直後で、スミスはイサミに「今から帰る」とメッセージを送った直後には空に飛び立っていたのであった。
     尚、持参していた荷物は同行してくれた新生ATFのメンバーが代わりに配送を頼んでくれることになっていた。スミスは自分達は良き仲間達に巡り合えたと、改めて噛み締めるのである。
     そんなこんなで、予定より一日はやく帰宅出来たスミスであるが、シャツに腕を通した彼は小屋の中の金庫から家の鍵を取り出すのであった。家の電気が消えていると、着地する前に気付いたから。
     スミスが帰宅の連絡をした時間は、まだイサミが起きている筈の時間であった。けれども、家が真っ暗であるということは――イサミは既に就寝している、ということだ。
     出張中も毎朝、二人は会話を交わしていた。その間もイサミの応答はいつも通りで、気になる点はなかった。
    (明日は朝が早いのだろうか?)
     起こさないようにと、スミスは静かに玄関を開く。やはり室内は真っ暗で、イサミが起きている気配は一切ない。
    『おかえり、スミス』
     ――と、イサミの出迎えの声と笑顔がないことに寂しさを覚えてしまいながらも、スミスはそっと二階へと向かうのであった。寝室へと、足を運ぶために。
    「ただいま、イサミ。もう寝てるか……?」
     そっと、スミスは寝室のドアを開いた。イサミに「おかえり」と言って貰えなくても良い。だが、彼の寝顔を拝みたいと。
     そう、思っていたのであるが。
    「――」
     扉を開くまでは問題なかった。ベッドの上で寝ている見慣れた愛しい人の背中を確認したまでも問題なかった。微かに聞こえてくる寝息に耳を澄ましながら、寝顔を見たいと近づいてしまったのがいけなかった。
     何故なら、はっきりと見えてしまったのだ。
    「……すぅ」
     スミスはイサミの顔を見る事が出来なかった。何故なら、イサミは枕を抱いて寝ていたからだ。顔を枕に押し付けるように。――スミスの枕に、顔を押し付けるようにして。
     更には、イサミの枕の直ぐ傍にはスミスが愛用している〝トリコロール〟と胸元に書かれているTシャツが置かれている。その上、イサミは布団の上に更に一枚重ねていたのだ。毛布ではなく、スミスのコートを。
     二人で寝るベッドの上で寝ているのは、イサミ唯一人だ。
     けれども、彼はスミスの私物を持ち込んで眠っていたのである。すやすやと、気持ちよさそうに。
    「イ、イサミィ……」
     スミスにはイサミを起こしたい意図は全くなかった。だが、耐え切れなかったのである。愛しい人の名前を呼ぶ行為を。必死に声は抑えたものの、胸の内からあふれ出る愛おしさを押し留めるのは無理だったのである。
    「んぁ……?」
     枕越しに小さな声がして、もぞもぞとイサミの身が動く。そして、枕をずらしたイサミの鳶色の目とエメラルド色の目がかち合うと。
    「……すみす?」
     ふにゃり、とイサミは表情を緩めるのであった。
    「イ、イサミ。すまない、起こしてしまって――」
    「すみす」
     どこかふわふわとした声のままで、イサミの手がスミスへと伸ばされる。スミスが求められるがままに応じて手を繋ぐと、彼はぐいっとスミスを抱き寄せるのであった。
    「すみすだ」
     どこか、夢見心地の声のままで。
    「お前がいないと、ずっと寒いんだ。枕とか服とか借りちまったけど、スミスがいないと……寒い……」
    「イサミ?」
    「早く、明日にならねぇかな……。スミス……会いたい……寂しい……」
     イサミに抱き寄せられ、心臓の鼓動が速まるばかりのスミスであったが、再び穏やかな寝息が室内を満たすのであった。
     どうやら、イサミは寝ぼけて自分を抱き寄せたらしい。彼が英語ではなく、日本語で話していたのが証左である。己が無意識でも求められている事実を再度確認出来てしまい、スミスは口元を緩めるのであった。
    「イサミ、ただいま」
    「んぅ」
    「おかえりは、朝起きたら言ってくれよな」
     すやすやと、スミスの腕の中で眠りに落ちたイサミからの回答はない。
     イサミを抱き返して、スミスもそっと双眸を閉ざすのであった。
     ――今日はじっくり、眠ることが出来ると。

    ***

    「――すみす?」
     目覚めて早々、イサミの視界に飛び込んで来たのは朝日に寄って輝く金色と、己の姿を映す緑色だった。決して、イサミが見間違うことがない色である。
    「おはよう、イサミ」
    「お前、いつ帰って……?」
    「昨日の夜に」
    「んだよ、起こせばよかったのに」
    「気持ち良く寝ているお前を起こせないさ」
    「……ん」
     目前で微笑む優しい顔。三日ぶりにスミスの頬に直接触れて、イサミは己から唇を重ね合わせるのであった。
    「おかえり、スミス」
     ――これでもう、寒い夜から解放される。
     その喜びと一緒に、愛を込めて。

     尚、この後にイサミがスミスのTシャツやコートと共に眠っていた状態を見られていたと気付き、ベッドから飛び跳ねるように起きて逃げ出そうとするのであるが。
    「駄目だよ、イサミ。今日はずっと俺と一緒に居て」
     イサミは即座に背後からスミスに捕まってしまい、顔を真っ赤にしたままで抱きしめられ続けるのであった。
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