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    baborimitsu

    基本的にすべてR-18。女体化、乳房のある男体表現などあります。

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    baborimitsu

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    鉄道兄弟もの。捜査室の2人も登場します。
    符は不在です。

    胡蝶の夢符離集焼鶏が行方不明になった。

    空桑捜査室。警備室に隣接するこの部屋の主たちにそんな訴えが寄せられたのはある日の早朝のことだった。
    「サボりがちな子ではありますが、三日も無断欠勤なんて……オレの記憶でも津浦鉄道にいた頃ですらそんなことはありませんでした」
    姿を消した符離集焼鶏の兄、徳州扒鶏が目の下の隈を一層濃くしながら心配そうに、それでいて苛立ちも隠せないような顔で話している。
    「えっと、そうですね。三日も……」
    それに応えているのは捜査室の人員のひとり、雲托八鮮だった。当番表を見遣り几帳面そうな手つきで木簡を磨きながら、というよりは無意味に布で小さく擦りながら徳州の話を聞いている。
    「警察のオレが貴方がたにこんなことを頼むのはおかしいことは分かっています、でも……若には知らせたくない。弟のことで余計な心配をかけたくないんだ、だがオレ一人では探すにも限界がある。それに」
    「雲托八鮮」
    早口気味に捲したてる徳州を遮ったのは捜査室のもう一人、事実上の主と呼んでもいい、東璧龍珠だった。格式張ったその呼び方に雲托八鮮は少し緊張したように声の主を振り返る。
    「は、はい」
    「調書を取れ、事件なんだぞ」
    ああ、そうでした、そうですね。身内なものですからうっかりしていました。
    雲托八鮮が用具一式の準備を始め出すとともに、東璧が徳州に着席を促した。捜査室の二人と徳州が向かい合って座る様子は「事情聴取」そのものである。徳州は自分がこの立場になることは初めてだった。不謹慎ながら新鮮な気持ちを覚えていると、青い髪の相棒が用紙とペンを揃えて着席し東璧龍珠が質問を始めた。
    「まず、失踪した符離集焼鶏……彼と一番立場や生活様式が近しいのは兄弟である徳州、君だ。失踪について心当たりは」
    「居なくなる前の日に喧嘩をしました。だが、オレと符にとってはそんな喧嘩などいつものことで取るに足りるか……」
    「心当たりはありすぎると」
    徳州は笑いにもならない苦笑いをこぼす。いざこのような立場になると順序立てて、記憶を取捨選択し分かりやすいよう警察に事情を説明するというのは難しい。
    「その時の喧嘩の経緯は」
    「その日は……ほぼ二人同じ時間に帰宅したと記憶しています。22時5分ほどだったかと。符がすっかり眠そうにしていましたから、先に風呂に入ってしまうように伝えたんです。彼が入浴している間にオレが洗濯と二人分の制服とシャツのアイロン掛け、翌朝の食事の準備と、それから銃の手入れをしていました」
    雲謹がカリカリとペンを走らせる音が少しずつ緊張感を煽り立てる。
    「直接の喧嘩の原因は銃の手入れに関してでした。お恥ずかしながら……あの子はライフルの管理が粗雑で、よくオレが点検してあげていたんです。その時も摩耗した部品を見つけたので細かく分解してチェックしていました。その様子を風呂から上がった符が見て、点検は自分で今日したばかりだから大丈夫だと言ったんです。それに対してオレは点検が甘すぎると叱って。まあそれからは……話が飛躍して、いつものことです。本当の兄でもないくせにとか、いくら言うこと聞いたってお前はダメ出ししかしないとか、家族ぶるなとか色々言われて……もうそうなるとお互い何を言っても無駄ですから、適当に切り上げてそれから会話はありませんでした。そんなところです」
    「で、その翌朝から符離集焼鶏を見ていないと。彼の私物はどうなっている?」
    「そのまま残っています、制服も。私服もオレが知っている限りですが弟が所持している枚数分、しっかり残っています」
    「全裸で居なくなったのか。それは大事件だな」
    東璧はいつもの真剣そうな仕事面のまま茶化すように言った。そのまま背後にある自分の机に手を伸ばすとガサガサとビニール袋を漁り、ハッカ飴を取り出し口に放り込んだ。
    こちらは真剣なのに、呑気に飴をかじるのか。つまらない兄弟喧嘩による身内の失踪の解決を願い出るなどという情けない状況であるため何も言えなかったが、徳州は心理的な余裕のなさもあってかふつふつと湧き上がる苛立ちを自覚せざるを得なかった。
    「でも、一つだけ無くなったものが」
    「ほう」
    「ライフルです。オレが分解していた、符のライフルがなくなっていました」
    「君が組み立て直して彼に返したのか?」
    「いや、口論になってから触るなと散々言われましたからオレはそれから触れていません」
    東璧龍珠は考え込むように目を細めた。
    「これはオレの推測だが、君の口ぶりだと口論になった後符離集焼鶏はすぐに寝てしまったのではないかと」
    「それは……たしかその後すぐオレも風呂に入って……上がった時には符は寝ていました。時間にして15分間くらいでしょう。その時点で時刻はおよそ23時3分頃。符が寝ているのを確認してオレも就寝したのが1時30分、起床して符が居ないことを確認したのが6時21分頃でした」
    「なるほど。そうか……その5時間弱の間に全裸で、ライフルだけを担いで。やはりこれは兄たる君の名誉にも関わる大事件だ」
    机の下でコツンと高い音がした。恐らく雲謹が靴先で東璧を蹴ってたしなめたのだろう。徳州は努めて彼らのそんな態度を無視しながら、気がかりなことを口にした。
    「おかしいでしょう」
    「ん?」
    「摩耗していた……いや、細かいパーツの話はいいです、とにかく使い物にならない部品はいくつかありましたからオレが回収していたんです。それなのにあの子は銃を組み立ててどこかに消えた、どうやって組みたてたのでしょう?」
    「そういう話はあったかどうか」
    「あったんですよ。先程話したでしょう」
    「ええ、ありましたね。確かに、はい。ありました、ありました」
    雲托八鮮が声を張って頷きながら細々とした字が並ぶ調書の一部に過剰なほど下線を引いた。そこに何が書いてあるかまでは徳州の位置からは見えなかった。
    「バラけたまま持っていった可能性もあると」
    「普通置いていくでしょう、そんなもの。そもそも武器だけ持ち出すのもおかしいことです。それに万象陣を使ったのなら記録があるはずなのにそれもありませんし、空桑のどこかに隠れているのでしょうか?勤務を放り出して?いくら何でもそこまで子供だとは思えません。自室もくまなく調べて​────貴方がたにも来ていただいて結構ですけれど、自分で調べました。靴もそのまま、自宅の鍵すら持ち出していません、それに」
    「分かった、分かった」
    東璧が手を挙げて徳州を制した。何が分かったというのだろう。そもそもこの男は話を聞いていたのだろうか。
    「君、オレが真剣じゃないと疑っているな」
    「……」
    東璧に喋らせていては徳州の苛立ちが募るのを察してか、雲謹が口を開きあたかも弁論術の一種のようにゆっくりと丁寧に話し出した。
    「徳州。家族が心配なのは分かります。ですが符離集焼鶏も警察であり、しっかりした方だと我はお見受けしています」
    「……そうですね、言ってしまえば家出少年にすぎません」
    「あなたを責めるわけではありません。勿論大事にならないよう我々も協力します。気持ちをしっかり持ってください」
    法文にしか関心のない彼が、珍しく人の顔色を伺うような態度を見せている。それほど自分は余裕がなく、早まった態度を見せたのだろうか?徳州は今になってやや恥ずかしさを覚え、いたたまれなくなりいそいそと席を立った。
    「おい、事情聴取がこれだけとは」
    「今日のところは……もう、いいです。もう少し様子を見てみます、お忙しい中失礼を」
    曲がってもいない帽子を正し、立ち去ろうとする徳州の背中に流れるような東璧の言葉が投げかけられた。
    「君の弟がサボりに使う場所なら大体把握している、こちらでも確認しておこう」
    「……ああ、感謝する」


    心配する気持ちも大きいが、正直、苛苛していた。
    空桑に来てまで家出なんて、なんて幼稚でつまらぬ手段で抵抗するのだろう。無断欠勤の一日、否、遅刻の一分ですら徳州には許しがたいというのに。
    説教ばかりしがちではあるが、符は符なりにしっかりしているし、多少の事件に巻き込まれたところで上手く切り抜けてくる力も身につけていることは分かっている。だからこそ苛立つのかもしれない。銃のこととて言いがかりではないのだ。いい大人になりつつありながら責任を放棄して、あまつさえこうして心配ばかりかけながら徳州を振り回す。
    胸が櫂でがしがしと乱暴に掻き乱される感覚が気持ち悪く、徳州は大きくため息をついた。やんちゃな弟に振り回されることよりも、おのれの感情にいたずらに振り回されることの方が余程恥ずべきことである。
    灰色の曇り空を見上げて、湿った冷たい空気を頬に感じながら腰の拳銃を取り出し、十回ほど同じリズムでくるくると指で回す。少しずつ感情が落ち着いてくる。溜まった感情は押し流せずとも、堆積するのを防ぐことは出来る。
    徳州は支給されているスマートフォンを取り出し、符に帰りを待つ旨のメッセージを三通送った。未読のままのメッセージは徳州が怒りをぶつけたもの、叱るもの、心配するもの、様々なものが無意味に並んでいた。
    「まるで、一人芝居だ」
    独りごちると、急に寂しさが湧き始める。
    「帰ってきてほしい」
    家族がいること、それは徳州の憧れだった。折角弟ができたのに、いつだってその関係は上手くいかない。徳州が大切にしようとすればするほど、符を掴もうとすればするほど、彼は砂のように手の中からこぼれ落ちて逃げてゆく。幽霊のように閉じた扉をすり抜けて遠ざかっていく。
    空桑にいる食魂はみな家族だ。若の思想に徳州も大いに共感している。だがそれでも符離集焼鶏は特別だ。血が繋がっていなくても、符に否定されようと、彼は徳州のたったひとりの弟だ。どうしても困っているのなら兄を呼んでほしい、求めてほしい。
    「符、待ってる」
    そう呟いた切実な言葉は、木枯らしに乗ってどこへ向かうだろう。


    ​───────​───────


    元からすべて一人芝居なんだ。私服を全て残して家出するのも、自宅の鍵が無くなっていないのも、靴がそのまま自宅にあるのも、すべて奴の一人芝居だからだ。ライフルのことをやたら気にしていたのもそれが原因で口論になったからだろう。細かく聞くには値しない。
    「それは言葉が良くありません」
    「さあ。オレはお前よりは遥かに礼儀知らずだからな」
    「まあいいです、東璧。あなたもなんだかんだ……少しは乗り気だったではありませんか。調書まで書かせるなんて」
    「雲謹、お前は芝居が下手すぎる」
    「我に出来るのは演説です。芝居はさっぱり……ああ、見えてきましたね。あの辺では?」
    東璧龍珠と雲托八鮮は空桑農場の裏の森の中、ほどよく開けて川が流れ、遠くに白くぼやける山々や崖、滝の様子も明媚に、鳥の囁きも心地よいまさに『山紫水明』な場所を訪れていた。ここはよく『符離集焼鶏』がハーモニカを吹き、こんがりと丸揚げになったヒヨコのような、ニワトリのような食魘にエサをばら蒔いて遊んでいる場所だ。
    「ここだ、最近掘ったような痕跡がある」
    雲謹は靴先で地面をつつく東璧に用意してきた小さなシャベルを渡した。二人で土を掘り返しているとバラバラの部品が土の中から顔を出した。
    「東司馬、我は銃の構造には詳しくなく……いくつほど部品を掘り返せばよいのか」
    「外面がライフルに見えればいい、それであいつが落ち着くならそれでいいだろう。落ち着けば……あとは勝手に自分で修理するさ。それよりも、なぜこんなことまでオレがやらなければならないのか。これこそ事件ではないのか……」
    東璧がブツブツと愚痴を零しながらざっ、ざっ、と湿った土を掘り返していく。やがて銃身の大きなパーツが掘り返され、これで一段落かと二人が土を埋め直し始めた時だった。
    「おい、触んなよ」
    二人の背後、木々の合間から声がした。
    「勝手に人のもん触んなって。ったく、お前らはなんでここにいるんだ?兄貴じゃあるまいし、俺を追っかけ回して楽しいか?」
    「!えっと……ここに、いたんですね」
    草木をかき分けて声の主が姿を現す。銀色の髪、鈍い金色の瞳、白い顔​───『符離集焼鶏』だ。
    「まさかお前ら、あいつに頼まれて俺を探しに来たとか?チッ……ナメたことばっかりしやがる……」
    『符離集焼鶏』は制服こそ兄のものとほぼ似た形状だが、性格の正反対さを表すようにその着こなしによって全く別の印象を人に与える。胸元を大きく開き、シャツは破けて半分ズボンから出したい放題。外套も自由気ままにほつれて、帽子は15°傾斜している。耳をボリボリと掻きながら『符離集焼鶏』は捜査室の二人が掘り出した小銃の部品をかき集める。
    「あの日な、あいつと喧嘩して、イライラして眠れねえから夜散歩に来たんだよ。あいつにバラされた銃もここで組み立てちまおうと思って。ほら、あいつの隣でやるのは癪だったからさ」
    『符離集焼鶏』は捲し立てる。まばたきもせず、眦を吊り上げて、兄とは似ても似つかない荒々しい口調で。
    「でも、パーツ足りねえんだよ。絶対徳州の野郎が持ってやがるんだ。腹立つな」
    雲託八鮮は状況についていけない様子を体現して固まっている。話には聞いていても実際目の当たりにすると驚きは隠せなくても無理はない。代わりに東璧が興味本位とでもいうような口振りで『符離集焼鶏』に尋ねた。
    「それで君は残念にも愛銃を組み立てられなくて、埋めたのか?」
    「んー……どうだったかな。よく覚えてねえや。でも泥拭かなきゃいけねーし、面倒だな」
    『符離集焼鶏』はふーふーと銃身に息をふきかけ、ポケットから取り出したしわくちゃのハンカチで部品を拭き始めた。
    「まあ、それもいいが。道具のことよりも君の兄だ。心配していたぞ。信じられないかもしれんが、相当にな。くれぐれも帰ってきた弟を叱らないようにきつく言っておいた、だからさっさと、安心して帰るんだな」
    『符離集焼鶏』はその言葉を聞くとぴたりと動きを止めた。魂が抜けたようにぼんやりと空を見上げ、飛び去りゆく鳥を数えるわけでもなく、ただその深い灰色を見つめている。
    「うん」
    「ああ、それでよろしい」
    これでこの事件は解決だ。東璧は軽く手を叩くと固まり続けていた雲託八鮮を連れてその場を立ち去った。

    木枯らしが吹く。徳州扒鶏はぼんやりとした灰色の空から意識を自分へと引き戻した。
    「寒いな」
    胸元が寒い。そうだ、こんなにボタンを外しているからだ。だらしなく半分出したシャツの隙間から腹の中に冷たい風が入ってくる。ボタンをしっかりとしめ、上着を正す。帽子を真っ直ぐに被り直し、首輪を外した。頬の絆創膏を剥がし、ヘアピンも外す。ぼさぼさの髪を整えて、ようやく徳州扒鶏は落ち着いた。
    「こんな格好でいたら、風邪をひくだろう」
    だから心配しているところもあるんだ、冬だからね。あいにくマフラーを忘れてしまった……
    「オレも、悪かった。悪い癖だ。頭ごなしにまた叱ってしまった。符、許してくれる?」
    うん、うん。ありがとう、符。
    お前はたったひとりの弟なんだ。なにがあっても消えて欲しいなんて、思わないよ。


    ​───────​───────


    ええ、先日そういうことがありました。若様にはご報告をした方がいいと思いまして。
    我は……お恥ずかしながら、徳州扒鶏の兄弟のことは話には聞いていましたが、実際見ると驚いてしまいまして。固まって見ているばかりでした。
    あの、差し出がましいかもしれませんが……彼に投薬治療などはされて……え……なんです?家族の形、幸せの形は人それぞれ……?ううん、我の専門は法律でして、幸福論は勉強不足なのです。ええ、それでもあなたの仰りたいことは分かります。東璧のような態度で……彼は本当にああいう時は柔軟に動けるのですよ。つまりはいつも通り、接していればいいのですね。若様のご教示に感謝致します。
    では、これにて失礼します。







    ****************

    上のラインはおしりの穴の群れではありません。


    符の存在がすべて徳州の妄想だったら…という世界線です。切ないなあ。
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