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    ろくろく

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    ろくろく

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    なんか思ってた方向とは違う方向にぶっ飛んでしまう

    アズール・アーシェングロットの日記とその文学的価値について じわじわと何かが鳴く音が、締め切られた室内からでも聞こえる。白熱した勝負のせいで、学園に力を貸す奇特な妖精の力によって、涼しく保たれた室内にいるにもかかわらず汗が頬を伝う。勝負の初めに注いだままの麦茶は、ひとくちふたくち口を付けたことまでは覚えているが、それ以上のことまでは思い出すことが出来なかった。
     イデアとの、特に運が絡まない勝負はこうして白熱することが多い。と言っても、運が絡むゲームはそれとはまた違った白熱の仕方をするのだから、結局イデアとするゲームなら、きっとアズールは盛り上がれてしまうのだ。彼とゲームをするのは、きっと始めから楽しかったのだと思う。勿論、入部を決めたオルトとのゲームだってきっと。
    「――うん、集計の結果が出たけど、今回はアズール・アーシェングロットさんの勝ちだね! よって記念すべき百回目はアズールさんが勝者だから、戦績も丁度五十対五十になったよ」
     一勝負終えてぐったりと椅子にもたれかかった二人の代わりに、勝負の審判を務めたオルトがそう告げる。
    「……っし!」
     アズールはガッツポーズを取ると共に、起き上がってハンカチで汗を拭いた。汗は目に入ったら途轍もなく沁みると、陸に上がったばかりの頃にフロイドがその身をもって知らしめてくれていた。
     アズールは勝利をかみしめたが、しかし、今回の勝負はアズールがイデアを実力や頭脳で上回ったのではなく、イデアのミスに拠る所が大きかった。イデア本人がそれに気づいていないはずもないだろう。
    「あー! 絶対あそこは悪手だった……ってのが分かってるから余計に悔しいでござる! って言うか最近拙者負けが連続してるんだけどもしかして研究でもした?」
    「んふふ……それはイデアさんのご想像にお任せしますね」
    「いや、もう絶対研究してるでしょボク賢いからもう分かっちゃいます」
     だらんと背もたれに体を預け、宙を見ていたイデアが反動で起き上がる。彼もアズールと同じように汗をかいていたようで、起き上がった際に汗が目に入ったのか、沁みる、などと叫びつつ激しく瞬きをした。それなのに、イデアが嬉しそうに笑顔を浮かべたままだったから、椅子から腰を浮かせたアズールは椅子に座り直して、ひとくち麦茶を口に含んだ。
     熱い体の中心を冷たい物が下っていく。思ったよりも喉が渇いていたようで、ひとくち、もうひとくち、と飲んでいくうちに唇に麦茶よりもひやりとした物が触れた。アズール達が麦茶を用意したのはもうずいぶんと前の事だから、きっとオルトが氷を足して置いてくれたのだろう。彼の細やかな気づかいは、きっと上に立つ者としても役に立つものだ。ひとは、こういった些細なことでも「気持ちよく」なることが出来る。勿論、オルトはそんなことを意図していないだろうが。
     塩分補給も大事だよ、と差し出されたタブレットを受け取る。向かいでは、先に受け取っていたのか自分で用意したのか、すでにいくつかのそれをボリボリと咀嚼していた。
    「ありがとうございます」
    「どういたしまして」
     アズールはいまだに、こういったタブレット状の菓子をどうやって食べればいいか分かりかねている。小さなラムネならば噛むまでもなく溶けてしまうから、そんなことは考えないのだが、飴のように大きなサイズだと舐めればいいのか、噛めばいいのか。イデアは飴も含めて、大抵ガリガリと噛んでしまうのだが、カロリーの関係上そう口にすることの無いアズールはなんだかんだ直ぐに噛んでしまうのは、勿体ないと考えてしまう。
     オルトが椅子に座って頬杖をついた。ぱちぱちとイデアと揃いの炎がはじけて、きんいろの目が外の光を受けて輝く。
    「二人とも凄いね! 僕も見ているだけでわくわくしちゃった」
    「今度はオルトさんも一緒にやりましょうね」
     アズールの言葉に、オルトが表情を曇らせた。
    「でも、僕はきっとこういう系のゲームは向いていないんだ」
     オルトがこういったゲームをプレイしようとしない理由は、アズールだってわかっている。けれど、見ているだけというのは寂しい。
     イデアが個包装をまとめてくしゃりと握り潰す。
    「オルト、一緒にやろう。大丈夫兄ちゃんもアズール氏も、簡単に負けるほど弱くはないよ」
    「そうですよ。それに、見ているだけでも楽しいかもしれませんが、三人でやったらもっと楽しいですよ」
    「……うん!」
     オルトが笑って、イデアも笑う。騒がしい外から、何処か切り取られたようなその瞬間を、アズールはきっと一生忘れられないだろう。

     いつか、イデアと日記の話をした際に、アズールは「きっと処分してしまうでしょう」と言ったけれど、恐らく処分なんて。

     ラウンジ
    ・厨房の導線の見直し(スタッフの動きやすさを重点的に)
    ・仕入れ先の検討
    ・フェアについてのミーティングの必要有
     依頼
    ・オーロラ石と月光草の入手 なるべく質が良い物を
     部活
    ・記念すべき百回目の勝負でイデアさんに勝利することが出来た。しかし、正直に言ってイデアさんのミスが無かったら負けていたため反省が必要。時間があるならプロの動画を見ること。次はオルトさんとも勝負
     二人との部活はいつも楽しい

     アズール・アーシェングロットの日記が見つかった、と大きく報道されたのは彼の死からちょうど三百年が経ってからのことだった。――まあ、今から二十年前と言った方が通りは良いのだろうが。アズール・アーシェングロットと言えば、学内カフェであるモストロ・ラウンジから始まる飲食業での成功や、魔法工学における多額の出資、極めつけに本人とその両腕が優秀な魔法士であったことなどが有名で、史上二番目に有名なタコの人魚だと言っても過言ではない。いつだったか見た、こちらを見て微笑む彼の肖像は、長い時を表舞台で過ごした人物特有のオーラが、本人を目の前にしたわけでもないのに強烈に伝わってきたのを覚えている。
     現在見つかっている彼の日記は、そのどれもが学生時代の物だ。つまり、彼の三百年と少しという長い時の中の、ほんの一瞬。当時名門と謳われたナイトレイブンカレッジの学生であった、たったの四年間という短い間の出来事が、彼の手書きで残されている。
     その頃の学園には、今でも非常に名の知れた人物が多数在籍しており、発見当初もその人物らとの交友に注目した研究が多くなされた。新たな発見に沸いたこの分野で特に注目されたのは、魔法工学の寵児や異端児などとあだなされたイデア・シュラウドとの交友関係だ。
     イデア・シュラウドについて
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