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    おたぬ

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    おたぬ

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    22歳ノンケ🍁×30歳ゲイ❄

    起きるタイミングまですれ違うやつ

    チチチ……と小鳥の囀りに意識を引っ張りあげられて、重たい瞼を持ち上げる。目覚めたばかりの瞳には、カーテンの隙間から差し込む朝の陽射しは眩しくて、オレは反射的に目を細めた。上手く働かない脳で今日のシフトを振り返って休みであることを思い出したオレは、そのまま2度寝の体勢に入り寝返りを打とうとする。しかし、腕の中からむずがるような声と、クイッとシャツの胸の辺りを引っ張られる感覚にそれを止められた。

    (………………………は、えっ……?)

    オレが動いて離れた距離を、もぞもぞと埋めて、ぴとっ、とくっついてきたそれに目をやり、それが何なのかを寝惚けた頭で認識したオレの体は、ピシリと石のように固まった。寝起きで下がっていた体温が一気に上昇し、変な汗が背中を流れて、無意識に何度も唾を飲み込む。

    指通りのいいツートンの青い髪に、朝日に輝くキメ細やかな白い肌。着ているオレの部屋着は身長的に彼の体には小さいはずなのだが、肩幅や胸の厚さが違うのか大きいらしく、チラリと見える鎖骨がなんとも色っぽい。だというのに背を丸めて眠る姿はどこか子供のようで、そのアンバランスな愛らしさに胸がときめいた。

    (……そうだ、オレは昨日……)

    冬弥と恋人同士になった。
    思い出して、ドクン、と心臓が大きく脈打つ。信じられない。オレの腕の中で、オレのベッドで、冬弥が寝ている、なんて。何度も夢に見て、そしてそれは現実にはならないありもしない夢なのだと知って泣きたくなった、オレが望んだあの夜の続き。冬弥が傍にいてくれる未来の夢。

    (現実、なんだよな)

    確かめたくて、眠る前、彼の背に回していた腕を引き寄せて、結ばれたばかりの恋人を抱き寄せる。聞こえてくるのは、……すぅ……すぅ……という穏やかな寝息で、感じるのはリアルな彼の低い体温。

    疑いようもなく、すべてが現実だった。

    「……とうやさん……」

    無防備に眠る愛しい人の青色にオレはそっと口付けを落として、また瞼を閉じる。一昨日よりも狭くなったベッドは不思議と寝心地が良く、すぐに意識は夢の中へと落ちていった。



    暗闇の中、どこか遠くで誰かが叫んでいるのが聞こえ、ズキリと体に痛みが走った。その痛みは段々と強くなっていき、呼応するように遠くから聞こえていた声も大きくなる。

    あの人が来てしまう。

    俺の本能が、そう告げた。
    かつてはきっと好きだったはずの彼を恐れて、俺はその場に蹲る。

    (……怖い)

    怒声も暴力も、もう嫌だ。
    これから始まる理不尽にガタガタと震えていると不意に一条の光が差し込んで、ふわりと温かな何かが俺の体を包み込む。今まで感じたことのないそれは、泣きたくなるほどに優しくて、ずっと俺が待ち望んでいたもののような、そんな気がした。



    ゆったりと意識が夢から現実へと向かい、俺はまだ眠たい眼を擦った。随分と時間を忘れて眠ってしまった気がする。病院でも毎日それなりに眠りはしたが、こんなに熟睡したのはいつぶりだろうか。ひとまず顔を洗おうと起き上がろうとして、俺はそれができないことに気がつく。一体何事かと己の置かれた状態を改めた俺は、その正体にぱちくりと目を瞬かせて、理解が追いつかずに首を傾げた。俺の動きを制限していたそれは、誰かの逞しい腕。その腕は俺の背に回されており、俺はずっと彼に抱き締められていたらしい。

    (…………夢、か?)

    スヤスヤと眠るオレンジ色にそんなことを考えた。だって、信じられないだろう。朝起きたら、好きな人に抱き締められている、なんて。そんな夢みたいなことが、俺の身に起きるわけがない。

    俺が動いたからか、もぞりと彼が身じろぐ。グイッと強い力で抱き寄せられ、厚い胸板が頬にあたり高い体温と、それから、トク、トク、と彼が生きている音が伝わってきて、確信した。

    これは夢だ。目が覚めたら俺はあのマットの上にいて、日が暮れたらまた体を暴かれるに違いない。泣いても、意識を飛ばしても、男が満足するまで終わらない金と性欲で満たされた狂った宴。蘇る記憶に呼吸が浅くなり、震えが止まらなくなる。そうだ、俺が生きているのは、こんなに幸せで愛に溢れた綺麗な世界ではないのだ。だから、これは夢だ。けれど、だからこそ。

    夢なら、どうか覚めないで。
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