やぁ、皆様、ご機嫌麗しゅう。一般通行フリーターの僕です。本日はお日柄も良く、……と言いたいところだが、残念ながらここ数日僕の心は乱されまくりの荒れ模様です。
それはなぜか?原因は最近増やしたコンビニバイトにある。と言っても、別にクソ客ばかりが来るとか、そう言うんじゃない。いや、クソ客がいないとは言えないけれど。でも、そうじゃない。僕の心を乱しているのは、このコンビニをそれなりの頻度で利用する、たった1組のカップルだ。
あぁ、先に言っておくが、このリア充がコンビニや他のお客様に危害を加えているという訳ではない。何も知らない人から見れば、何の問題もない普通の客に見えていることだろう。しかし。しかし、僕は違う。僕は知っている。あの2人がその辺で害悪とされるリア充共をはるかに超越したリア充である、ということを。
あれはたしか件の2人、その彼女の方を初めて見た時のこと。特に天気が悪いということもなく、なんてことのない日のお昼時。入店を知らせる音に条件反射で声を出し、何気なく入口へと僕は目を向けた。そこにいたのは、泣きぼくろと艶やかな長髪が印象的な背の高い1人の女性。彼女はすでに店内をよく知っていたようで、まっすぐデザートコーナーへと足を向け、とある商品を迷いなく手に取った。今でもよく覚えている。彼女が購入したのはその商品ただひとつで、嬉しそうな顔をしていた。当時の僕はそんな彼女を、とても綺麗な人なのに表情はどこか子供っぽくて可愛いな、なんて呑気に見て思ったりもしていたけれど、今は違う。
あの表情は買ったものが好物だったからとか、食べるのが楽しみだったから、なんてものじゃない。そもそも、あれは彼女自身が食べるために買われたものではない。そう、彼らを観察した今ならわかる。あの時購入されたチーズケーキは、彼女ではなく彼氏の方の好物。つまりは、まぁ、そういうこと……なのだろう。
そんな出会いをした僕と彼女だが、2度目はすぐに訪れた。なんてことはない。日を置かずにまたコンビニに来たのだ。ただし、彼氏を伴って。そしてこの邂逅で、僕はひとつの過ちを犯す。
入店音にお決まりの言葉を口にしつつそちらに目を向けて彼女を見た時、僕は一瞬、ほんの一瞬だけ見蕩れてしまい、視線を送った僕の背筋に突如としてぞわりと悪寒が走る。いや、悪寒なんて優しいものではないかもしれない。あれは殺気と呼ぶに相応しいものだった。殺気の正体は、言わなくともわかるだろう。そうだ、彼女の傍らにいたオレンジ髪の彼氏である。
だが、弁解させてほしい。一度見れば脳裏に焼き付き、また会えたなら運命を感じてドキリと胸を高鳴らせてしまうほどに、彼女の容姿は美しく整ったものだ。決して、僕だけが悪いわけでない。しかしながら、そんなことは彼女の心を射止めた彼氏様には関係ないらしく、僕を一瞥した彼はそっと彼女の細腰に手を回した。
「彰人?」
普段そういったことはしないのか、抱き寄せられた彼女が首を傾げる。不思議そうな顔はしても嫌がりはしないあたりが、まぁ、うん。これを見せられた僕の気持ちをわかってくれ。
こうして独占欲やらなんやらを見せ付けてくれたリア充だが、今も僕の目の前にいる。買い物かごにはあの日と同じチーズケーキが2つに、それから……。
(あーーーーー、はいはい、今夜は2人でお楽しみなんですね、お幸せに!!!!)
今夜、2人は長く熱い夜を過ごすらしい。
僕はヤケになり叫びたい気持ちを押し殺し、代わりにその小さな箱に色々な感情を叩き付けるように、バーコードリーダーを優しく押し当てた。