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    おたぬ

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    おたぬ

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    生理中のカントボーイ❄の話

    学生にとっては気怠く、眠たい授業を乗り越えた先にあるお昼休みを告げるチャイムが鳴ったばかりの神山高校。

    お弁当を共に食べるため教室内で友人の席へ行く者や友人のクラスへと出ていく者。麗らかな外の陽気に誘われる者と、昼食を取るためのお昼休みと一言で言ってもその行動は様々で、移動する者や教室から漏れる談笑で廊下は賑わっていた。そんな中、生徒達を掻き分けて足早に廊下を行く男子生徒が1人。サッカー部所属の2年生である彼は慣れたように人の波間を縫い、廊下の突き当たりまで来ると階段を駆け上がって1年生の教室がある上階へと足を運んだ。

    初々しさの抜けた後輩達がガヤガヤと楽しげにお弁当や財布を持って各々目的の場所を目指す姿を横目に、彼は目当てのオレンジ頭を探す。毎日購買で昼食を買うその後輩はこの時間であれば、まだこの階にいるはずだ。彼は経験則でそれを知っている。件の後輩は1人であればさっさと早い足を活かして、もう購買へ行っているだろうが、一緒にいるところをよく見かけるツートンに合わせて比較的ゆっくり、けれど必要に応じて急かしつつ、昼食の確保に走っているのだ。

    果たしてその予想のとおり、お目当ての後輩はまだ廊下を1人で歩いていた。どうやらこれからあの背の高いツートンの彼を迎えに行くところらしい。なんとか間に合ったことに安堵しつつ、彼はオレンジの後頭部に声をかける。

    「おーい!東雲!」
    「……先輩?」

    呼びかけに振り向いた後輩は東雲彰人。よくサッカー部の助っ人をしてくれる1年生で、今回の用向きも昼休みに予定されているサッカー部の紅白戦への助っ人要請である。

    「と、いうわけで頼めないか?」

    頼む、と手を合わせるが、それに対し彰人は少しだけ、本当にほんの少しだけ気まずそうな顔をした後、首を横に振る。

    「すみません、先輩。今日はちょっと……」
    「えっ、マジ?」

    それは珍しいことだった。朝も昼も、そして放課後ですら呼べば大抵来てくれる、ほぼ正規部員状態の助っ人。それがサッカー部が抱く東雲彰人のイメージであり、それは彰人をよく知る周囲にいた通りすがりの1年達もまた同じ。たまたま居合わせた生徒達も思わずその物珍しさに、1人、また1人と彼らに視線を向けてザワついた。

    「ど、どうしても無理なのか?人数が足りないんだよ……!」
    「いや、マジで今週は無理なんで」
    「今週!?」

    食い下がってみるが、それでも彰人は首を縦には振ってくれず、それどころか今週は無理だとまで言われてしまう。彼が驚愕し、固まっていると申し訳なさそうな態度を見せながらも、オレンジ頭は先輩に慈悲をかけることもなく「それじゃあ、急いでるんで」と踵を返して1年B組の教室へと姿を消した。

    「珍しいな、東雲がサッカー部の助っ人断るなんて」
    「だな……しかも今週丸々無理って、何かあんのか?」

    彼の周囲がにわかに色めき立つ。人当たりがよく、運動神経もいいイケメン。そんな彰人の1週間を埋める予定とは何か。

    「……まさか彼女か!?」
    「やっぱ顔か……顔なのか……?」

    突然降って湧いたゴシップに野次馬達は夢中になった。



    普段からうるさいというのに、今日は輪にかけてうるさい廊下をフラつく相棒の体を支えながら歩き、彰人は人の来ない静かな外のベンチへ辿り着く。

    「ここなら誰もいねぇし、平気そうか?」
    「あぁ、すまない、彰人」

    ただでさえ白い顔をさらに青白くした冬弥がベンチに腰を下ろして、ふぅ、とため息をつき、お腹を撫でる。その眉間には浅く皺が刻まれていて、辛いのだと見ていることしかできない彰人にもわかった。

    彼は今、彰人には理解しようもない痛みと戦っている。女性特有の月に1度襲い来る、それ。子宮の内膜が剥がれて排出されるそれは本来男であれば経験することのないものだ。けれど、冬弥の体には毎月そいつがやって来る。

    月経。あるいは生理。

    冬弥は男だ。男だが、その下半身はどうしてか女性の作りをしている。その理由は本人にも、体を診てくれている主治医にもわからないようで、「生まれつき」としか言いようがないそうだ。とは言え、彰人は理由などどうだっていいため、そこがわからないのは問題ないのだが、困るのは彼の生理が非常に重たく、また頭痛や吐き気なども併発することがある上に、日によって薬がまったく役に立たないことだ。

    今日は最悪な状態と比べればかなりマシな方なのだが、どうも頭が痛いらしく、とても人の賑わう場所にはいられそうになかった。そのため、こうして外へと連れ出したというわけだ。今が冬でなくてよかったと、心から思う。

    「冬弥、飯食えそうか?」

    食えそうならなんか走って買ってくる、と言いながら、彰人は自身の制服の上着を脱いで、膝掛け代わりに冬弥の膝にかける。冬弥はそれに礼をしてから顎に手を当てて、ゆっくりと首を横に振った。

    「……食べられそうにない」
    「そうか……いや、無理すんのもよくねぇしな」
    「あぁ、すまない」
    「気にすんなよ」

    それならば自分の分を買ってこようと校舎の方へ足を踏み出し、しかし、クイッと控え目に袖を引かれる感覚にその足は1歩目で止まった。彰人の袖を引いたのは、考えるまでもなく、冬弥である。

    「……冬弥?」
    「あっ、す……すまない、彰人……」

    冬弥へとまた向き直ると彼は自身の行動に驚いたような顔をして、掴んでいたそれをパッと離した。どうやら、無意識の行動だったようだ。思わず、彰人の口角が上がる。

    「大丈夫だ、冬弥。すぐ戻る」
    「……彰人」

    優しくクシャリとツートンカラーを掻き混ぜて、彰人は購買へと走った。この1週間、味わわなくていいはずの体調不良に精神が安定せず、心細い思いをしている恋人を1人にしないために。

    校庭から彰人を欠いたサッカー部の練習する声が聞こえてきた。
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