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    おたぬ

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    おたぬ

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    ラブホのフロントが見た彰冬

    俺はしがないラブホテルのフロントマンである。
    シフトの通りに出勤して、カウンター内の椅子に座り、客が来たら鍵を渡して、何かしらのオーダーやチェックアウトの時間が来れば対応し、後は掃除……と、案外忙しかったりはするが、そんな毎日を過ごしていた。俺の勤めるラブホテルは、タッチパネル式や顔が見えないフロントも多い中、完全対面式のラブホテル。だから俺は、それなりに長く勤めているうちにやって来る客の顔を見れば、何となくタイプがわかるようになっていた。

    特別な関係にあるわけではなく、男2人の純粋なビジネスホテル代わりの宿泊。普通の男女のカップルに、きっと不倫なんだろう男女。それから最近増えてきた女子会目的の女性客。

    多様化はしているものの、大体はこんなところだ。しかし、俺は久方ぶりにそれを見ることとなる。鮮烈に俺の記憶に残る1組のカップルを。

    その日はなんてことのない日だった。客足は多くもなく、少なくもなく。それなりに我儘な客に突っかかられたりはしたが、つつがなく1日が進んでいる。そんな比較的平和な昼に、その2人は現れた。

    1人は細身で色白な青い髪の男性。もう1人は色白な彼よりも背丈は低いが体格はよく、健康的な肌の色をしたオレンジ髪に黄色のメッシュが入った男性。歳の頃は、青年とも少年とも取れる顔立ちでよくはわからない。だが、どちらの男性もあまりにも整いすぎた容姿をしているからか、ただ扉を潜ってホテルに入ってきただけなのに、2人のいるそこだけがステージか何かのように輝いて見え、目を離せなくなる。彼らからはそういう不思議な魅力を感じた。

    さてはモデルかアイドルかと勘繰りたくなる2人連れに、うっかり自分の勤め先を忘れそうになる。そう、ここは天下のラブホテル。どんなイケメンであれ、モデルであれ、ただの宿泊費削減のためか、それともそういうことをしに来たのか。大抵はその2択である。とはいえ、今はまだ明るい時間帯。夜寝るためのホテルとして安く使いたいなら、夜に来なければあまり意味はない。

    (つまり、この2人は……いや、そうと決めつけるのはまだ早いか……)

    女性が放ってはおかないだろう羨ましすぎる顔面を持ったその2人が俺は妙に気になってしまい、そんなことを考える。

    しかし、あくまで仕事中の身、フロントまで来た2人に俺は声をかけ、それに答えたのはオレンジ髪の男性で、彼はニコリと女性ならば間違いなく恋に落ちているであろう人当たりの良さそうな笑みを浮かべて、はっきりと言ってのけた。

    「フリータイムで」

    まぁ、その答えだけなら、夜勤明けとか、何かしら理由があると俺は思ったかもしれない。けれど、その横で色白な男性が僅かに俯き、花も恥じらう乙女もかくやという表情で頬を赤く染めたのを目にした俺は、すべてを悟った。

    あぁ、この2人、付き合ってるんだな、と。
    そして、この背の高い彼が、スポーツか何かをやっていそうな引き締まった体付きの彼にきっとこれから抱かれるんだな、と。

    鍵を渡し、「ありがとうございます」と爽やかに微笑んで、おそらく恋人だろう青髪の彼の腰を抱いて部屋へと向かう男性の背中を俺は見送った。

    チラッと時計を見る。
    針が示す時刻は午前11時を少しすぎたところ。フリータイムの終了までは約6時間。あの2人がチェックアウトするのは何時間後か。

    (……ま、チェックアウトギリギリなんだろうなぁ……)

    何となく相思相愛っぽかったし、たっぷり時間いっぱい愛し合うんだろう。いったい彼は恋人に体を暴かれた時どんな顔で、どんな声を上げるのか。

    脳裏に声すらわからぬ青い彼の痴態を描こうとする自分に、そっと蓋をする。そして、彼女などいたことがない俺は鳴り響く内線を取りながら、何度願おうとも叶わぬ夢に思いを馳せた。

    (俺も彼女ほしいなぁ……)
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