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    おたぬ

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    おたぬ

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    保育士(保育園)パロ

    街でも名の通ったとある保育園。施設として人気を集めているその中でも、さらに子供とその保護者達に人気の先生が2人、存在している。これは、そんな保育園に通う1人の少女が体験した、小さな初恋の、その顛末である。

    始まりは、本当に何気ないことであった。運動はあまり得意ではないが、友達と遊ぶのは好きだった彼女は、数人の友達と鬼ごっこをしていた。何度か捕まえて、捕まってを繰り返し、少しずつ疲れてきた彼女は数度目の鬼として走り出そうと足を踏み出した時、足が縺れ、そのまま前のめりに転んでしまった。そんなに酷い転び方はしなかったものの、突然の衝撃と、倒れた際に地面へ軽く擦ってしまい擦りむけて痛む手の平。それが転んで数秒した後に体を侵食するようにやって来て、彼女の視界はぐにゃりと歪んだ。

    うわぁん、と自然と声が出て、涙が頬を濡らす。彼女以外の鬼ごっこをしていた子らが足を止めて少女のもとへ駆け出し、「どうしたの」「大丈夫?」と口々に心配の言葉を彼女にかけた。それでも痛みが引くことはなく、泣き続ける少女に、「どうしよう」と子供達が困り果てているその場所へ、1人の青年の声が響く。

    「どうした?」

    オレンジ色の髪に、赤色のエプロンをしたその青年こそ、この保育園で方々に人気を轟かせている2人の先生。その1人である。

    「あきとせんせー!」

    子供達の瞳に希望の光が差し込み、彼らは各々、こっちこっち、と跳ねて緊急である旨を彰人先生と呼ばれた彼に伝えた。少女の悲痛な声を聞いて駆けつけた彰人は、泣きじゃくる彼女の傍らにしゃがむと、優しい声で語りかける。

    「どうした?転んじまったのか?」

    そう言って、少女の小さな背中を壊れ物に触るような手つきで撫で、それなりにある背を屈めて、彼女と目線を合わせた。その声は転んだ際に痛みでパニックに陥っていた彼女の心を落ち着け、また垂れ目がちな金の瞳は「大丈夫だ」と音もなく言っているようで、徐々にポロポロと溢れていた涙がその数を減らしていく。

    青年の言葉に、こくん、と頷いた少女は擦りむいた紅葉をそっと彰人へ見せた。その傷口を暫し観察した彼は、「まず洗わないとな」と呟くと、すぐさま不安そうな色を覗かせる少女の黒い髪をクシャリと掻き混ぜて、「大丈夫、先生に任せとけ」と笑う。

    これが始まり。まだ幼く、人生の何たるかも知らぬ少女の心に初々しい春の風が吹き、小さな恋の蕾が芽吹いた瞬間だ。

    それからというもの、少女は想い人となった先生を影からこっそりと見るようになった。遊ぶ時も、歌う時も、笑い、楽しそうに本気で子供達と真正面からぶつかる。その無邪気な笑顔に、少女は胸をときめかせ、初めての恋に夢中になった。

    「ねぇ、とーやせんせー」
    「ん?」

    そんなある日のこと。件の彼が子供達と鬼ごっこをしているのを端目に置きながら、少女は別の先生に教わりつつ摘んだ花で冠を作っていた。2つの青が特徴的な髪と、深い知性を感じさせる銀の瞳を持つ彼は、彰人と並んで――本人の意思とは関係なく――保育園の名物とされる先生である。花壇の前に敷いたシートの上に向かえ合わせに座り、黙々と手を動かしていた彼女は周囲に誰もいないこの状況と、静かに、しかしどんな時も見守ってくれるその白銀の瞳に背中を押され、ポツリと小さく零した。

    「とーやせんせーは、すきなひといる?」
    「……好きな人?」

    うん、と頷くと、少女と同じく花冠を編んでいた白い手が止まり、こてん、と冬弥は首を傾げる。突然始まった恋話に一度不思議そうに少女を見つめた彼は、けれどツリ目を優しく綻ばせた。

    「気になる子でもできたのか?」

    簡単に見破られた少女は、心の中に今もある開花を目前にした花の存在に頬を染め、再度首を縦に振る。それに対し、子供の幼稚な恋愛を馬鹿にすることもなく、彼はただ「そうか」と返すと、眩しいものを見るように目を細めた。

    「それで、せんせーはすきなひといる?」
    「……俺?」
    「そう」

    子供と大人では様々なことが違いすぎて聞いたところで参考にならないことは、子供ながらにぼんやりと理解はしている。だが、それでも相談できる相手が彼女はほしかった。少女の問いに、僅かな躊躇いを見せた冬弥は一瞬どこか別の場所に視線を向け、それからいつの間にか編み終わっていたらしい冠を少女の丸い頭にそっと乗せて、口を開く。

    「あぁ、いるぞ、大切で大好きな人が」

    きっと、その人のことを想っているのだろう。眼前の先生はあまり表情が変わらないことで有名であったが、答えた彼は白磁の肌が淡く色付いており、世の中の酸いも甘いも弁えていない少女でも読み取れるくらいに、彼の想い人が言葉の通り「世界で一番大切で大好きなのだ」と語っていた。

    「……そう、なんだ」

    優しいが無口でクールと評判の先生が見せた今まで知らなかった一面に驚いた少女は、しかし恋とは大人ですらも変えてしまうほど凄いものなのだと改めて認識し、この想いを大切にしようと気持ちを新たにしたのであった。

    そんな恋話に花を咲かせる2人を横目で鋭く見つめる金色があったことは、少女も冬弥も、終ぞ気づかなかった。



    遊び終わって、疲れた体を休めるお昼寝の時間。お気に入りのぬいぐるみを抱き締めて眠っていた少女は、小さな物音とヒソヒソと抑えられた誰かの声によって、夢の世界から引き摺り上げられた。

    「……こら、ここには子供達がいるんだぞ……!」

    タオルケットを頭までずり上げ、まだこちらへ来いと誘う睡魔の手を取ろうとしていた少女は、けれど聞こえてきたそれにピタリと動きを止める。

    (……この声、とーやせんせー……?)

    潜められた声は相手を咎めるような色を含んでおり、聞き慣れぬものではあったが、それはたしかに眠る前に恋愛相談をした冬弥の声であった。人を非難する姿など見たことがない先生の見知らぬそれに、少女は差し出された睡魔のそれを振り払う。見た目以上に優しい先生の怒りを買った人は誰なのか。今はお昼寝よりもそちらの方が、少女の興味を擽ったのだ。

    盗み聞きなんて悪いことだと理解しつつ、胸をドキドキとさせながら、ぬいぐるみとタオルケットで顔を隠した彼女は耳を澄ませる。

    「誰もグズってねぇし、ちゃんと寝てるから大丈夫だって」
    「……だとしても、いつ起きるかわからないだろう」

    そうして少女の耳に届いたのは、聞き間違えるはずのない青年の声。春の風を巻き起こし、それ以来ずっと視界の端に捉え続けてきたオレンジ色の彼のもの。

    (…………え、あきと、せんせー……?)

    常日頃、共にいるところを見ることが多い2人。一緒にいたとしても何も違和感はないが、逆に、先ほどの冬弥の声色が不思議だった。

    (ふたりがケンカ……?そんなの、みたことないけど……)

    実は裏では仲が悪かったりするのだろうか。腕の中のぬいぐるみをギュッと抱き寄せ、少女はうるさい鼓動で聞き逃さぬよう、完全に覚醒した意識をより研ぎ澄ませた。

    「少しくらいいいだろ」と何かを迫る彰人に、冬弥が「少しでもダメなものはダメだ、彰人」と突っぱねる。どこまでも平行線で進む言い合い。何が少しくらいなのか、何がダメなのか、てんで話は見えてこないが、続けられるやり取りを聞いていた少女はとあることに気がつき、ハッとした。

    (とーやせんせー……いつもは『しののめせんせー』ってよんでるのに……)

    冬弥は誰が相手であれ、人のことは苗字で呼んでいると、少女は記憶している。それなのに、聞こえてくるその声は『彰人』と、はっきり言っていた。

    「冬弥」
    「……っ、ゃ……そこで、しゃべるな……!」

    交わらない意見のぶつけ合いが数度続き、喧嘩という空気も感じられず、もしかしてこれは男子達のくだらないじゃれ合いのようなものなのだろうかと思い始めた頃、突如、いつもの彰人とはかけ離れた低い声が少女の耳朶を撫で、同時に冬弥の酷く慌てた声がそこに重なった。

    「…………ぁ、あき……っ……」

    彰人を呼ぼうとするそれは途中で止まり、代わりに、ちゅぅっ、という別の音と、言葉とも言えない、鼻にかかった冬弥の声がお昼寝をしている子供達の寝息の中に混ざり込む。聞き覚えのあるような、ないような、そんなそれに彼女は心の内側で首を傾げた。

    (せんせーたち、なにをして……?)

    何もわからないが、どうしてかその音と、冬弥の声を聞いていると、知ってはいけない禁忌に触れてしまっている気がして、頬が熱くなった。

    (どうしてだろう……ドキドキする……)

    目を覚ましてすぐの盗み聞きを始めた時の背徳による胸の高鳴りとは違うそれに、少女は戸惑う。

    「……んッ、んんぅ……」

    時間にしてたった数秒。10秒にも満たない間に、ちゅぱ、と音を立てて、それは終わりを告げた。『少しくらい』と主張していたから、その通りに終わらせたのだろうか。タオルケットの中で身を丸くし、彼女は脳内を疑問符で埋めつくしながら、息を飲んで、2人の動向を見守る。

    彰人が声を潜めて笑い、もう一度、ちゅ、と軽い音がして、彼は「可愛い」と小さく零した。それは子供達を褒める時の声色ではない。本当に思わず漏れ出てしまった心からのものであると、少女は直感でわかってしまった。

    「……っ、まだ仕事中です……東雲先生……!」

    彰人の呟きに、感情的になるところなど見たことのない冬弥は強い語調でそう返し、聞いていた彼女は自身に向けられてはいないのに、「ひぅ」と情けない声を上げそうになる。けれど、彰人は慣れているのか、それとも彼には少女と違う何かが見えているのか、楽しげな声でそれに応えた。

    「じゃ、話の続きは今晩、ベッドでな……青柳センセ」

    ガラリ、と扉が開かれ、静かに閉じられる。
    その場に残されたのは、何も知らず眠る子供達と、理解できぬまま真実を垣間見てしまった少女。そして、呼吸を乱し、それでも先生としての務めを果たそうと、火照った体を鎮めるため、深呼吸を繰り返す冬弥のみである。

    少女の中で膨らんでいた恋の花が、グラリと揺らいだ。
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