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    おたぬ

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    おたぬ

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    寝そ〇りぬい🍁のメッシュネタ
    ぬい🍁❄

    連れて行かないでオレに自我、あるいは心と呼ばれるものが生じた時、初めに感じたのは、強烈な違和感だった。あれ、こうだっただろうか、と、足や頭、腕を縫い合わされながら、オレはオレに疑問を抱いた。自分が何者かは考えずともわかる。東雲彰人という人物を模して作られた人形。ぬいぐるみ。それがオレだ。けれど、何かがおかしい。そう直感が告げていた。それは他の彰人を模したぬいぐるみ達も同じようで、共にレーンを流れている彼らも頻りに首を傾げている。しかし、その答えが見つかるよりも先に完成品として回収されたオレ達は袋に入れられ、緩衝材の入った箱の中へ詰め込まれた。

    (……ん?)

    入られた箱はオレ1人には少々大きく、隣に1人分、いや、ぬいぐるみ1体分の隙間があることに、オレは気がつく。そして、同時にその隙間にある気配にも。

    「冬弥?」
    「……あき、と……?」

    返ってきた声は、初めて聞くはずなのに、とても耳に馴染む透き通ったそれ。緩衝材の向こう側にいるため姿は見えないが、間違いなく、オレの相棒である冬弥がそこにいる。どうやらオレの購入者はオレと冬弥をセットで買ったようだ。

    「彰人も買われていたんだな」
    「そうみたいだな」

    ふふ、と楽しげな笑いが閉ざされた暗闇の中に響く。それからの旅路、オレと冬弥は他愛ない会話をして笑い合った。

    購入者はどんな人だろうか。
    大切にしてくれるだろうか。
    家はどんなところだろうか。

    様々な話をした。だが、行き着く先はどれも同じ。

    2人一緒なら、きっと大丈夫。

    何を話してもそればかりで、けれど異論はなく、それがおかしくて、また笑った。故に、オレは生まれ落ちた刹那に抱いたあの違和感を、この時忘れてしまっていたのだ。

    暫くして、オレ達を積んだトラックは購入者の家に着いたらしく、オレ達を入れた箱が配達員によって持ち上げられた。ついにやって来た瞬間に、隣から緊張が伝わってくる。箱の外で、ガチャン、と玄関のドアが開かれる音がした。次いで、配達員の声に混じって聞こえてきたのは若い女性の声。2つの声の間で滞りなく荷物の受け渡しは終わり、部屋へと戻る彼女の足取りは、オレ達を余程心待ちにしていたのか、とても弾んでいた。

    平らな場所に箱が置かれ、いよいよ、その時がくる。ずっと閉ざされていた箱の上部にカッターの刃が突き刺さり、その隙間から細い光の筋が差し込んだ。開封に慣れているのか、手早く開け放たれた箱を覗き込んできたのは、やはり歳若そうな女性である。

    嬉しそうな顔をした彼女は緩衝材を箱から取り除き、オレ達に手を伸ばす。先に持ち上げられたのは冬弥だった。

    「可愛いー!」

    うっとりと、包装から冬弥を取り出した購入者は彼の顔や体、その造形を観察し、丸い頭を優しく撫でる。可愛い、可愛い。頻りに繰り返されるその言葉のひとつひとつに頷きながら、オレは良き購入者のもとに来られたことを確信して胸を撫で下ろした。

    どれくらいだろうか。冬弥を心の往くまま堪能した彼女は彼をそっとぬいぐるみ達が並べられている棚に置くと、オレへと目を向ける。冬弥の時と同様に、オレを抱き上げ、ビニールを取り払った彼女は、しかし、「あれ?」と、疑問の声を上げた。

    「なんか、この彰人……変?」

    数度首を傾ける彼女に、オレも忘れていたあの感覚を思い出す。そうだ、オレは何かが変なのだ、と。

    「うわ……嘘……」

    オレの感じた違和感の正体に気がついた彼女が、酷く落胆したため息をついて、そして、オレの未来を決定づける言葉を口にした。

    「この彰人、不良品じゃん……」

    正しく棘だった。鋭く尖った、鋭利な棘。それによって串刺しにされた気分だった。そう告げられたぬいぐるみの行く末がわからないほど、オレも無知ではない。チラリと視線を移せば、先住のぬいぐるみ達に歓迎されていた冬弥が、今にも泣き出しそうな顔でオレを見ている。

    先程まで見られた嬉しそうな色が消え失せた彼女は冬弥のいる棚にオレを放ると、携帯電話を片手にトボトボと肩を落として部屋を出ていってしまう。何をしに行くのかは、考えずともわかった。

    「あ、彰人……!」

    ポテポテと這いずるようにして駆け寄ってきた冬弥は、切れ長の眉が下がってしまい、見ているこちらが悲しくなるような顔をしていた。顔を合わせて数分、話していた時間を含めればもう少し長い時間を過ごしたが、できることならば、愛おしい相棒にそんな顔はさせたくはなかった。だが。

    「悪い、冬弥」

    2人一緒なら、と言ったのに、共にはいられそうもない。

    「……そんな、彰人……」

    ふるふると首を横に振る冬弥に、オレは寄り添って頬擦りをする。購入者の様子からして、おそらくオレを破棄したとしても、すぐに新しい彰人を買うだろう。あるいはオレと交換という形で、冬弥の隣には相棒が用意される。だから、大丈夫だ。

    そう言って、オレは悲しむ冬弥を慰めた。しかし、しゅんとしていた彼は、一転して眉を吊り上げたかと思うと、突如、タックルの要領でオレを棚の奥の方へ突き飛ばす。

    「うぉ!?」

    予想していなかった衝撃にオレは無抵抗で滑り、棚の中程で停止した。けれど冬弥はそれを許さず、さらに勢いをつけて再度、不良品と告げられたオレを、ドン、と奥に追いやる。他のぬいぐるみ達にはこの行動の意味がわかるのか、ススス……と何も言わず、道を開けた。

    何度も、何度も、冬弥はそれを繰り返し、ついに、オレは棚の最奥へと押しやられる。

    「いきなり何すんだよ、とう……や……」

    口に出した言葉は、途中でその勢いを失って霧散した。それも仕方がないことだった。突然、オレを突き飛ばしてきた相棒。彼の灰色の瞳から、大粒の涙が流れていたのだから。

    「冬弥……?」
    「……違う」

    ポロポロと泣きながら、冬弥は震える声で静かに言った。

    「彰人は……っ、あき、とは……不良品なんかじゃ……ない……!」
    「……冬弥……」

    背後で彼女が部屋に戻ってくる音がしたが、先住のぬいぐるみ達がオレ達のいる棚の最奥を隠すように整列してくれていた。それを視界の端で捉え、ようやく、オレは冬弥の目的を理解する。そうして込み上げてきたのは、とめどない愛おしさで、離れたくないと身を寄せてくる彼の額に、オレはそっと口付けを落とした。



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