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    おたぬ

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    おたぬ

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    キツネ×ウサギ🍁❄

    キツネとウサギ木々の生い茂る森を、燃えるような太陽が照らしている夕暮れ時。キツネの彰人は身を低くし、草むらに隠れていた。彼の視線の先では、1匹のウサギがすぐ傍まで迫っている捕食者の存在に気づかずに、花畑と呼んでも差支えのない色とりどりの草花が咲き乱れる、その真ん中で美味しそうにそれらを頬張っている。体の大きさからすでに大人となった雄のウサギに見えるが、まったく、随分と警戒心のないやつだ、と彰人は心の内で笑った。

    (今回は楽勝だな)

    とは言え、油断はしない。獅子はウサギを狩るにも何とやら。肉にありつける日は早々ないので、逃さず、確実に喉元に食らいついてやる。久々のご馳走に、彰人の口角が上がる。眼前の獲物がたんぽぽを食べ終わり、次に食べる草花の吟味を始めたあたりで、彰人は地を蹴るため、自慢の健脚へ力を込めた。そうして、ウサギが悩みに悩んだ末、シロツメクサに手を伸ばした瞬間、彼は草むらから駆け出し、ウサギが反応するよりも早く、その体に飛びかかる。

    「キュッ」とウサギの短い悲鳴のような鳴き声が、夕陽に照らされる花畑に虚しく響いた。そのまま為す術なくドサリと倒れ込んだウサギの上にキツネは乗り上げて、その肉体を押さえ込む。なおも「キュッ、キュッ」と声帯のない喉から音を発し、ウサギは必死に身を捩って抵抗の意思を示してくるが、そのことごとくをいなしたキツネは、ペロリと舌なめずりをした。

    「細っこくて肉付きはあんまよくなさそうだったが、イキはよさそうだな」

    組み敷いたウサギは、1匹で行動しているにしてはかなりの細身であった。これであの無防備さ、となれば、逆によく今まで狩られずにいられたな、と彰人は変に感心してしまいそうになる。

    (ま、んなことはどうでもいいか)

    どれだけ弱かろうが、群れから外れていようが、同情する必要はない。このウサギが植物を食べていたように、彰人もまた、生きるために他の命を食べるだけだ。力いっぱい振り上げようとしているらしい両腕を片手で地面に縛りつけ、身動きを封じた彼は鋭い牙をウサギの喉元に突き立てるために口を開く。

    ついに捕食される時をウサギも悟ったのか、「キューキュー」と弱々しく鳴いていた声が止み、その代わりに強い震えが獲物を押さえつけているキツネの手に返ってきた。それを気にしたのは、ほんの気の迷い。普段ならば意にも返さず喉笛を食い破り、口元を赤く染めていただろう。けれどこの時は、どうしてか、これから自身の血肉になるだけの存在がどんな顔をしているのかが、気になってしまった。

    そして、キツネは動きを止める。突き刺すはずだった牙をしまい、そっと、強く握られて赤くなっているウサギの腕を解放してしまった。

    これから来るだろう苦しみに身を固くし、ギュッと閉ざされた瞼の端には涙が浮かんでいる。気紛れを起こしたキツネの目に映ったのは、そんなウサギの姿だった。けれど、そんな草食動物など、今まで何度も見てきたはずである。彰人に食われる時、彼らはいつだって怯えていた。だというのに、どうしてか、キツネは思ってしまったのだ。自分の命を終わらせる捕食者に恐怖し、震え、涙するウサギの姿を目にして、可愛い、と。決して、彰人にそのような趣味はない。弱い者を組み敷いて、弄び、それに愉悦を覚えるような性癖は持ち合わせていない。それなのに、たしかにキツネの胸に湧いたそれは、食欲とはかけ離れた感情である。

    なかなか訪れない終わりに疑問を抱いたウサギが、恐る恐る瞼を持ち上げ、白銀の瞳で彰人を見上げる。その白とキツネの金が交わった瞬間、それが、すべての始まりだったのだろう。



    夢から抜け出した彰人はまず初めに、腕の中の温もりがこの日も健在であることを確かめる。何せ同居人である彼はこの森ではとても弱い立場に存在しているので、彰人の知らぬ間に小腹がすいたからと外に出て、うっかり肉食の動物に見つかりでもすれば、それだけで命を落としてしまうのだ。なので、彰人の1日は今もスヤスヤと気持ちよさそうに眠る彼を確認し、胸を撫で下ろすことから始まる。そして、今日も無事、何事もなく朝を迎えられたようだ。

    「……はよ、冬弥」

    耳の良い彼が起きないであろう抑えられた声量でそう告げ、同居人のトレードマークでもある長くふわふわとした垂れ耳に口付ければ、もぞもぞとむずがるように彼は彰人の尾を抱き枕のように抱き締めると、また、スピスピと穏やかな寝息を立て始めた。まったくもって警戒心の欠片も感じられないその姿は、彰人と出会ったあの日よりも無防備極まりないもの。本当ならばひとつやふたつ、注意をしなくてはならないのだが、それがまた己への信頼の証にも思えて、彰人の胸を擽る。

    「……ったく、天敵の前だってのに……」

    わかってないな、と言うキツネの声色は言葉に反して甘く、ウサギを抱く腕は壊れ物を扱うように優しかった。


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