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    szmt_sngn

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    千ゲのオタクです!絵と文を少しずつかきます

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    前に書いた千ゲssをこちらにも再録……
    いつか気が向いたら支部にも乗ります 多分……

    #千ゲン
    1000Gens

    「……ぁ───月が綺麗だ、な」
    「うえっ……!?」
     勢いよく振り向いたそいつの目は、月顔負けなほどまん丸に見開かれていた。


    * * * *


     「お月見日和じゃんジーマーで! 今日はドイヒー作業なんか早く切り上げて天然プラネタリウムでも見ようよ」なんて台詞で天体観測に誘ってきたのはゲンの方だった。
     いつの間にかラボに入ってきたらしいゲンにひょい、と筆記具を取り上げられて、ようやく周囲がすっかりと暗くなっていたことに気がついた。頼まれた品の設計図が思いの外上手くいかず、クロムたちが去ってからも随分と長考していたらしい。それを意識した途端、思い出したかのように体の節々が疲れを訴えてくる。
    「ー……しかしだな」
    「それ、急がないでしょ。だったらリフレッシュのが大事よジーマーで! 大体ここ数十分全っ然進んでなかったからね! 非効率だよ千空ちゃん」
     アシンメトリーな髪をふわりと揺らしたメンタリストに「ね?」と顔を覗き込まれて、俺は深くため息を吐いた。諦めておっしゃる通りと頷いてやるとにんまりと口角があがり、頬に走るヒビごと笑みの形をつくる。するりと伸びてきた蛇のようにしなやかな手が、俺の手を搦めとり引っ張った。そのまま離れる気配がない掌を何故か己も振り払いはせずに、あっという間に天文台へと辿りついた。
     ドームの窓を開くと、後ろにたつ男から「わぁ」と華やいだ声が上がった。
    「さっきから見えてただろうが」
    「わかってないなぁ、千空ちゃんは」
     振り向いてそういうと、メンタリストは嗜めるように人差し指を振った。その指先の動きに従い、窓から覗く月へと視線を戻す。煌々と夜空を占有する満月は、3700年前と変わらず己にとっては観察対象の天体の一つであり、いずれ己が必ず辿り着く目標地点だった。地球の衛星であり、太陽光の反射で明るく見えており、兎はいないし己に着いてきているわけでもない。
     分かってないって何がだ、と言いかけたセリフは、隣の男がこぼした静かな笑い声に遮られた。
    「……ふふ」
     ゲンは、天文台を俺にくれやがった時のように、空を見上げながら柔らかな笑みを浮かべていた。横顔の鼻筋を、月明かりが象って照らしている。三白眼の瞳、光を反射すると青みがかって光るそれがうっとりと細められていた。偽悪めいた仮面が落ちると、随分と柔らかな表情がのることを俺はよく知っていた。
    「はー、旧世界でもお月見なんてしたことなかったけどいいもんだね」
     うさぎが跳ねたくなるのも分かっちゃう!なんてふざけたセリフを聞き流しながら、俺は夜空に再び視線を戻した。十五夜の名月、なんて俺にとっては月の満ち欠けの周期にしか満たないものだった。そのはずだったのだが。
     ……クク、これは翻訳したくもなるわな、なんて。共感や感情移入なんていう人生で1番縁のなかった言葉を実感することになるとは思いもしなかった。
    「ぁ、月が綺麗だな」
     気がついたらそんなセリフが口から転げ落ちており、そして時間は冒頭に戻る。


    * * * *


     ひっくり返った声をあげたメンタリストは、こちらを見つめたまま暫くフリーズした後、ようやく動き出した。
    「あ……そうだね、綺麗だよね! いやぁ千空ちゃんにもそういうのを愛でるココロが残ってて俺ほっとしちゃった! まぁイルミも作るくらいだもんね、光り物好きなのかな」
    「嫌いじゃねえが、分かってんだろ」
    「…………うそぉ」
     動揺を覆い隠すメンタリストの仮面が戻る前に、口を開いた。ドキドキ純情科学少年するのは非効率だと思い込んでいたが、よく考えたらとっくに現状の生産性が落ちているのだから、受け入れた方が効率的に決まっていたのだ。だったら我慢してやる筋合いなどなかった。
     再び固まったメンタリストの手首をがしりと掴む。らしくないなんていったら何もかもがそうなのだから、もはや躊躇などない。ぐいっと顔を寄せると、白い頬に血色がのぼる。掌の中の脈動は、すっかりと早い。
    「……それとも死んでもいいとでも言うか? お生憎だがテメェとは既に仲良く地獄に落ちる約束をしてっから、死後も予約済みだ」
    「待っ」
    「他が好みか? ンなら夏の日に例えてやってもいいけどな」
     テメェのが、何億倍も唆るんだわ。そう告げてみせると、息を飲む音がして、ふいっと顔が背けられる。答えを待つ俺の目の前の体が、次第にふるふると震え出した。
    「っ……ふ、…………」
    「何だよ」
    「ん、ふ、ふひ、あははは! ひー、おっかしい!」
     向き直った顔はくしゃくしゃに笑っていた。渾身のセリフを笑われたって言うのに不快感などミリもなくて、むしろ───。そう感じてしまう自分が悔しくて、俺は涙を浮かべて笑い転げる体をかき抱いた。ぎゅっと腕の中に引き入れて、しかめっ面のままメンタリストの顔を覗き込む。
    「おい、返事はどうなんだよ」
    「千空ちゃん、夏目漱石とかちゃんと知ってたんだねぇ。ジーマーでびっくりしちゃった」
    「っテメェ、」
     逃げんな、と言おうとした唇をそっと人差し指で押さえられたから、黙ってゲンを見返した。俺を真正面から写した瞳が、うるりと揺れる。細められた拍子に、目じりから一粒の雫がこぼれ落ちた。
    「ね、逃げないよ俺。だからお願い、わがまま言ってもいい?」
    「……ぁ」
     返事など聞かなくても、開ききった瞳孔や赤らんだ肌や早い鼓動、ゲンの全てが答えを示していた。それでも言葉を望んでしまう非効率さが、人類を振り回してきた不治の病というものだろう。
     酷く幸せそうで甘えた声が、そっと呟いた。
    「───借り物じゃない言葉で、教えてよ」




    『テメーと明日も月が見たい』





    「……仕方ないなぁ、惚れた弱みだからね」
     腕の中で返された囁き声の返答に、抱きしめる腕に力が籠った。黒白(こくびゃく)の項を引き寄せて、耳元で囁き返す。 
    「クク、おありがてぇわ。一生頼む」
    「うん。……大好きな千空ちゃんの頼みだから、聞いちゃう」
     そっと抱き返してくる手を背中に感じて、さらに強くかき抱いて、肩口に顔を埋めた。ゴツゴツと当たる骨も、二人の間で早く脈打つ心臓も、花の香りも、「ちょっと痛いよ」と泣きそうな声で嬉しそうに呟くこの男の全てが一生、己のそばにあるらしい。
    「──テメェの言ったこと、嘘じゃねえかもな」
    「ん、どうしたの?」
    「んでもねぇよ」
     小さく笑って、温かい首筋に頬を寄せた。『お前が好きだから着いてくるんだ』なんて吐かした、豪快に笑う男の顔が脳裏に浮かぶ。コイツは遠くに行かせやしねぇけどな、なんていうらしくない思考は、流石にそっと飲み込んだ。
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    szmt_sngn

    DONE前に書いた千ゲssをこちらにも再録……
    いつか気が向いたら支部にも乗ります 多分……
    「……ぁ───月が綺麗だ、な」
    「うえっ……!?」
     勢いよく振り向いたそいつの目は、月顔負けなほどまん丸に見開かれていた。


    * * * *


     「お月見日和じゃんジーマーで! 今日はドイヒー作業なんか早く切り上げて天然プラネタリウムでも見ようよ」なんて台詞で天体観測に誘ってきたのはゲンの方だった。
     いつの間にかラボに入ってきたらしいゲンにひょい、と筆記具を取り上げられて、ようやく周囲がすっかりと暗くなっていたことに気がついた。頼まれた品の設計図が思いの外上手くいかず、クロムたちが去ってからも随分と長考していたらしい。それを意識した途端、思い出したかのように体の節々が疲れを訴えてくる。
    「ー……しかしだな」
    「それ、急がないでしょ。だったらリフレッシュのが大事よジーマーで! 大体ここ数十分全っ然進んでなかったからね! 非効率だよ千空ちゃん」
     アシンメトリーな髪をふわりと揺らしたメンタリストに「ね?」と顔を覗き込まれて、俺は深くため息を吐いた。諦めておっしゃる通りと頷いてやるとにんまりと口角があがり、頬に走るヒビごと笑みの形をつくる。するりと伸びてきた蛇のようにしなやか 2743

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